Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

財務省は弱体化しているのか?

あけましておめでとうございます。
このブログの更新をしないでいたら、いつの間にか年が明けてしまいましたw
せっかくの新年なので、最近気になっていることを書いてみたいと思います。


去年の後半、政府、与党、財務省はずっと軽減税率の問題で対立していました。

軽減税率そのものは、どの品目に軽減税率を適用するか、まともな基準を定めることができず、どのような線引きをしてもバカバカしい矛盾が生まれるという問題があります。例えば今回の軽減税率論議では食品が軽減税率の対象になりましたが、加工食品を含めるかどうかでずっと対立が続き、最後は安倍総理の裁定で含めることに決まりました。また外食は対象外になりましたが、コンビニのイートインやショッピングモールのフードコートのようにどちらにするのか曖昧な領域もあります。
また、軽減税率が特定の業界に対する利権分配として使われる恐れもあります。今回、論議の最後で新聞にも軽減税率を適用する話が急に出てきましたが、これは明らかにマスコミの反対を抑えるための利権分配でしょう。普段、安倍政権を支持してしている新聞も、批判している新聞も、この利権は同じように受け入れてますから、彼らが本当に国家権力と対峙する気があるのか、疑問に思ってしまいます。
さらに大きな問題としては、軽減税率が必ずしも低所得者の救済につながらないという問題もあります。軽減税率品目は低所得者高所得者も購入するため、低所得者救済としては効率的とはいえません。低所得者に払った消費税を払い戻す給付付き税額控除の方が良い政策だというのが、経済学者の間ではコンセンサスとなっています。


さらに言えば、今回の軽減税率論議は来年に消費税を10%に増税することが前提ですが、昨年の8%への消費税増税は未だに景気に悪影響を与えており、日銀の大規模な金融緩和や原油価格の低下にもかかわらず景気が回復しないのは、消費税増税のせいだと言ってよいでしょう。そんな時にさらに増税するのは大きな間違いであり、消費税増税は景気が過熱するまで凍結すべきでしょう。むしろ今の経済状況を考えれば、本当は税率を5%に戻すのが正しいでしょう。


ただ、この軽減税率問題における財務省の行動を見ていると、彼らが以前よりも稚拙な行動をとるようになっており、特に政策立案能力が低下してるように思います。
当初、財務省はマインバーを使って消費税を払い戻す「日本型軽減税率制度」を提案しましたが、この案は手続きが非常に煩雑な上、マイナンバーの漏えいというセキュリティ問題の存在や、データセンターの構築に数千億円という巨額の予算が必要になるなど、およそ現実的とは言えないものでした。

案の定、この制度は政府や与党から反対の集中砲火にあって撤回されてしましました。*1「この案は財務省も本気で出した案ではなく、本命は他にある」という観測*2もありました。

しかし、その後状況は財務省に不利な形になっていきました。まずこの反対の責任を取らされる形で、自民党内でも最大の財務省派であった野田税制調査会長が交代させられ*3、かつては独立王国とも言われた自民党税調は安倍政権の影響下に置かれました。
財務省は谷垣幹事長など残る財務省派議員を使って軽減税率の範囲を狭めようとしましたが、結局生鮮食料品に加えて加工食品も対象とする公明党の主張が通り、最後は逆に財務省固執していたはずの「財源論」を無視する財源の拡大までやったが、それも政府・与党にはねつけられ、全く影響力を与えることができませんでした。


以下の長谷川幸洋氏の記事は、財務省の凋落ぶりを手厳しく指摘しています。

消費税の増税に伴う軽減税率問題が決着した。最大のポイントは税率の中身もさることながら、政治的に首相官邸が党内の増税派と財務省に圧勝した点だ。これで安倍晋三首相は2017年4月に10%に引き上げるかどうか、完全にフリーハンドを握った形になる。

約3ヵ月にわたった攻防で、財務省は終始一貫して読み違いをした。

間違いの始まりは、唐突にぶちあげた増税分の一部を後で家計に戻す「還付金案」だった。これは理屈の上では低所得者対策として正しかったが、まだ始まってもいないマイナンバー制度を活用する問題点や根回し不足もあって、あっという間に消えてしまった。

財務省はその後も迷走を続けた。4000億円の財源枠にこだわるあまり、与党である公明党の政治的重さを測りかねて首相官邸の怒りを買ってしまう。最後は適用食品の線引きの難しさから財源を一挙に1兆3000億円まで拡大したものの、自分たち自身の大臣である麻生太郎財務相公明党の反対に遭って、これまた蹴飛ばされてしまった。

霞が関を仕切る財務省がこれほど無様な姿をさらしたのは、ほとんど記憶がない。あえて言えば、1994年の細川護熙政権で当時の大蔵省が小沢一郎新生党代表幹事(当時)と組んで導入を目論んだ「国民福祉税構想」の失敗に匹敵するのではないか。

情報収集力と要路(政府や与党幹部)に対する根回しの周到さにかけては霞が関、いや日本随一の財務省も「ここまで落ちぶれたか」と感慨深いものがある。

財務省がこの体たらくだから、自民党税制調査会の権威が地に落ちたのも無理はない。自民党税調は財務官僚が陰に陽に知恵袋、かつ手足となって動いていたからこそ、表舞台で権勢を誇ることができた。

ところが「裏舞台の司令塔」である財務省が肝心の政策立案で失敗した挙げ句、政治的パワーバランスを読み切れず、議論に説得力もないとなったら、党税調が力を失うのは当然である。どうして、こうまで失敗したか。遠因は昨年秋の増税先送り・解散総選挙にある。


財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]


結局、昨年の消費税増税先送りで安倍政権に完敗した財務省は、その力の源泉であった政策立案能力もおかしくなり、「日本型軽減税率制度」のような実現性の見込みすらない案を出すようになってしまったのでしょう。財務省がこれだけの権力を握っていた理由は、政治家の代わりに政策や法案を作っていて、税制や予算に内閣よりも大きな影響力を及ぼすことができたからでした。その能力が落ちていることが明らかになった結果、これまで財務省に依存・協力してきた政治家たちの力も大きく落ちてしまったのでしょう。


これまで日本の緊縮政策の総本山であった財務省の弱体化が明らかになったことは、これからの日本の政治に大きな影響を及ぼすでしょう。これまで財務省がいつも持ち出していた「財源論」も、今回の軽減税率で無視されてしまいました。このことは、日本の財政政策を緊縮路線から転換させるきっかけになるかもしれません。その試金石となるのが、来年の消費税増税のさらなる先送りや凍結を行うことができるかという問題でしょう。
現在、日銀の大規模金融緩和の効果が、消費税増税によって大きく削がれていることを考えれば、緊縮財政の停止はデフレ脱却や景気回復にも大きな影響を与えることは間違いありません。ひいては、今後の日本経済がまともに経済成長するかどうかを左右する問題だと言えるでしょう。


だから、僕は今年も財務省の「弱体化」が今後も続くのかについて、注目していきたいと思います。財務省が力を失い緊縮政策が停止されることが、日本の未来を大きく開くことにつながると思うので。

リフレ派が考える再分配政策と労働政策について

先日の記事については大きな反響があり、賛否双方から様々な意見をいただきました。本当にありがとうございます。
その意見の中に、このような記事がありました。

さて、なぜ私はポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツの主張には感心するのに、左派・リベラルはなぜ安倍政権を倒せないのか? - Baatarismの溜息通信(2015年8月6日)のような記事には反感が先に立つのか。
それは、クルーグマンスティグリッツの文章からは、リベラル派としての立場がはっきりしていて信頼できるのに対し、上記ブログ記事は全くそうではないからだ。


(中略)


さらに問題なのはコメント欄だ。コメント欄に、ブログ主はこう書いている。

アベノミクス開始後に、54歳以下の生産労働人口において、非正規雇用から正規雇用への転換が始まっているというデータがあります。
「非正規から正規へ」雇用の転換が始まった――“反アベノミクス”に反論
http://nikkan-spa.jp/883248

しかし、そんなことを書くのなら、ブログ主はなぜ労働者派遣法の改定に言及しないのかと、強い疑問を抱く。いうまでもなく今国会において既に衆議院を通過し、参議院で審議中である。
ブログ主は記事の本文に、

さて、今、左派・リベラル勢力によって安保法案反対や安倍政権打倒を訴えるデモが起きています。特に若者によって組織された「SEALDs」が大きな注目を浴びています。
ただ、彼らは大声で安倍政権を批判していますが、何故かその支持の根幹である経済政策では、安倍政権に対抗しようとしていません。ここに打撃を与えないと安倍政権を打倒することはできません。
また安倍政権の好ましくない政策を止めたいのであれば、政権交代を実現させて安倍政権が制定した「間違った」法律を廃止する必要がありますが、そのためにも安倍政権以上の経済政策を打ち出す必要があるでしょう。

と書いているのだが、そう書くブログ主本人が、金融政策以外についてはほとんど何も書いていない。再分配政策について、「格差を縮小するための再分配政策は無策である」と書いてはいるものの、スティグリッツのように再分配を強めよとは書かない。労働問題についても、安倍政権の経済政策によって非正規雇用から正規雇用への転換が始まっている、と書くのに、労働者派遣法の「改正」はスルーする。「SEALDs」の主たる関心事である安全保障政策と経済政策の距離よりも、同じ経済政策の範疇に属する再分配政策や、経済政策と近親関係にあると思われる労働政策と、ブログ主の主たる関心事であろう金融政策との距離の方がずっと近いはずだと私は思うのだが、なぜ他人に要求しているのと同質のことをブログ主はやらないのか。不思議でならない。ブログ主の「SEALDs」に対する注文には、正直言って「お前が言うな」としか思えない。


なぜクルーグマンやスティグリッツは信頼できるのに日本の「リフレ派」は信用できないのか - kojitakenの日記 なぜクルーグマンやスティグリッツは信頼できるのに日本の「リフレ派」は信用できないのか - kojitakenの日記 なぜクルーグマンやスティグリッツは信頼できるのに日本の「リフレ派」は信用できないのか - kojitakenの日記

このように、僕の記事(ひいてはリフレ派全体)に、再分配政策や労働政策が欠けていることを批判する趣旨だと理解しました。
前回の記事は金融政策について左派を批判する内容だったので、再分配政策や労働政策については取りあげなかったのですが、左派からリフレ派を見たときは、そのような疑念が大きいようなので、今回は再分配政策や労働政策について、リフレ派の考え方を述べてみたいと思います。
ただリフレ派と言っても、リフレ政策以外では必ずしも意見が一致しているわけではないので、僕がこれから述べるのは、「リフレ派の平均的な再分配政策や労働政策」についての、僕なりの理解です。この考え方から外れている人はいるでしょう。


まず再分配政策については、「給付付き税額控除」政策を主張する人が多いと思います。これについては消費税の逆進性対策として、軽減税率を否定する代わりに給付付き税額控除を主張するという文脈で出てくることが多いです。
ちなみにこの政策は、下の解説にもあるように民主党も採用している政策なので、リフレ派だけの政策というわけではありません。

税額控除と手当給付を組み合わせた制度。算出された税額が控除額より多い場合は税額控除、少ない場合は給付を受ける。例えば、10万円の給付付き税額控除を行う場合、税額が15万円の人は5万円を納付し(10万円の税額控除)、税額が5万円の人には5万円が支給される(5万円の手当給付)。通常の税額控除や所得控除と違い、課税所得がない低所得者も恩恵を受けられる。民主党が平成21年(2009)の第45回衆議院議員総選挙の際に、所得税改革の一環としてマニフェストに掲げた。


給付付税額控除(キュウフツキゼイガクコウジョ)とは - コトバンク 給付付税額控除(キュウフツキゼイガクコウジョ)とは - コトバンク 給付付税額控除(キュウフツキゼイガクコウジョ)とは - コトバンク

このように、リフレ派は再分配政策というものを、文字通り「所得や資産」の「再分配」という意味で理解しています。
この考え方は、経済学者ミルトン・フリードマンの「負の所得税」の考え方を応用したものです。フリードマンというと、左派からは「新自由主義の元祖」というイメージが強くて評判が悪いのですが、彼は彼なりに不平等の問題を考えていたわけです。ただ、彼の支持者や後継者の中にはこのような視点が抜け落ちてしてしまった人も多いのですが。

給付付き税額控除(きゅうふつきぜいがくこうじょ)とは、負の所得税のアイディアを元にした個人所得税の税額控除制度であり、税額控除で控除しきれなかった残りの枠の一定割合を現金にて支給するというもの。ミルトン・フリードマンの「負の所得税」を応用したものである[1]。
勤労税額控除という形式で導入している国家が存在し、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など10カ国以上が採用している。


給付付き税額控除 - Wikipedia 給付付き税額控除 - Wikipedia 給付付き税額控除 - Wikipedia


また、労働政策についてですが、リフレ派は雇用を非常に重視しています。例えば、浜田宏一内閣参与はリフレ派の代表的な経済学者の一人ですが、最近こんな発言をしています。

 「僕はあくまでも国民生活に一番響くのは雇用だと考える。雇用環境がひっぱくしているという現状がある限り、物価の細かいパーセントに一喜一憂する必要はない。物価目標は消費者物価指数(CPI)そのものではなく、エネルギーと食料品を除いた『コアコアCPI』とするべきだ」


増税へ緩和継続と第四の矢を 浜田宏一エール大名誉教授:朝日新聞デジタル 増税へ緩和継続と第四の矢を 浜田宏一エール大名誉教授:朝日新聞デジタル 増税へ緩和継続と第四の矢を 浜田宏一エール大名誉教授:朝日新聞デジタル

インフレ目標はリフレ派が最も重要視してきた政策ですが、それでも「物価の細かいパーセント」よりも雇用の方が重要であると浜田氏は言っています。インフレ目標に疑問を抱かせるような発言をしてでも、雇用の重要性を強調しているわけであり、リフレ派が雇用を無視しているわけではないのは、この発言でも分かるでしょう。
ただ、リフレ派が考える雇用政策は、景気を回復させて労働需要を増やすことで、労働市場を労働者側有利にして、失業率の低下や安定した雇用の増加を促すというものであり、労働者派遣法のような法的手段で、不安定な雇用や劣悪な雇用を規制するというアプローチとは異なります。


というわけで、リフレ派は再分配政策も労働政策も軽視しているわけではないのですが、クルーグマンスティグリッツの主張には感心するのに僕の記事には反感があるという方ならば、恐らくこのような主張は知っていて、それでも反感を抱いているのだと思います。
特に、実際に福祉政策や雇用政策のNGOで活動している方から見れば、このような主張は「当事者のニーズを無視している」ように見えるのでしょう。

ただ、リフレ派がこのような考え方をしているのには、理由があります。それはリフレ派の発想が「裁量からルールへ」という考え方に基づいているからです。
リフレ派は以前「インタゲ派」と呼ばれたこともあるくらい、インフレ目標政策を強く主張していました。黒田総裁になってインフレ目標を採用したので、最近では主張は別の点に移ってますが。
このインフレ目標政策も「裁量からルールへ」という考え方を金融政策に適用したもので、従来は日銀の裁量によって不透明な形で行われていた金融政策を、インフレ目標という透明性の高いルールに基づいて行うことで、市場の予想を安定させ、安定的な経済成長や物価を実現させようという考え方です。その理論的基盤は「期待インフレ率」の安定が重要であることを証明した、クルーグマンバーナンキ(前FRB議長)をはじめとする多くの経済学者の業績に基づいています。


リフレ派はこのような「裁量からルールへ」という考え方を、他の分野にも適用しています。
この考え方がよく分かるのが、前回の記事で著書を紹介した若田部昌澄氏の記事です。(この人もリフレ派の中心的な経済学者の一人です)

デフレ脱却後の「国のかたち」を求めて
 かくも「第三の矢」は玉石混交であるが、これは次のレジームを占うシグナルともなる。リフレ・レジームはいずれにせよ、一時的である。そもそもリフレーションが、デフレからの脱却をめざし、緩やかなインフレを実現することだからだ。インフレ目標の目標値が実現した暁には、リフレ政策の歴史的使命は終わる。問題は将来のレジームである。
 何よりもデフレ・レジームに後退しないことが必要であり、インフレ目標あるいはその進化した仕組みは維持されなければならない。それ以外の分野では、「第三の矢」と再分配政策が国のかたちを決めていくだろう。来るべきレジームの特徴を2つの方向でまとめてみよう(表2)。





 2つのレジームの違いは、その政策哲学・思想にある。一方のオープン・レジームはルール・枠組みを重視し、そのもとで新規参入を促進しようとする。政府がおカネを使うよりは民間がおカネを使うことを重視する。再分配についても、ルールを定めて裁量が働かないようにする。他方のクローズド・レジームは、政府の裁量・計画を重視し、特定産業の利害を重視する。もちろん、来るべきレジームは、必ずしもくっきりとどちらかに分かれるものではないかもしれない。分野によって混合体になる可能性はある。
 これまでの「第三の矢」には、2つのレジームのどちらの要素も含まれている。ところで安倍首相は、これまで成長戦略を発表するのに自ら講演を行なうという手法をとってきた。その第一弾(4月19日)、第二弾(5月17日)での講演で、それぞれ下村治、池田勇人について言及していることは興味深い。どちらも高度成長期の立役者であり「国民所得倍増計画」で知られている。けれども、彼らはどちらも計画を嫌っていたという。池田は「私は統制経済や計画経済論者ではないから、10年という期間を限定して、計画的に月給を2倍にするとは、いいもせず、考えてもいない」(藤井信幸『池田勇人ミネルヴァ書房、2011年)と。


最先端を行く「リフレ・レジーム」〔2〕 | PHPオンライン 衆知|PHP研究所 最先端を行く「リフレ・レジーム」〔2〕 | PHPオンライン 衆知|PHP研究所 最先端を行く「リフレ・レジーム」〔2〕 | PHPオンライン 衆知|PHP研究所

この記事にあるように、若田部氏はリフレ政策以後の日本のあり方を「オープン・レジーム」と「クローズド・レジーム」に分けて、前者をルール・枠組みを重視する考え方、後者を政府の裁量・計画を重視する考えたと分類しています。この記事でははっきりとは言ってませんが、前回紹介した「ネオアベノミクスの論点」という著書の3章「ネオアベノミクスの革新・オープンレジーム」では、「オープン・レジーム」が望ましい政策であることを表明しています。

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このような考え方からすれば、再分配政策は給付付き税額控除やベーシックインカムといった、明確なルールに基づいた政策が望ましいと言うことになるでしょう。また、労働政策についても、明らかに人権侵害となる場合を除けば、法的な規制で裁量的な線引きを行うよりも、労働市場を活用して雇用や労働環境の改善を図るという考え方になるでしょう。


と、ここまでがリフレ派の再分配政策と雇用政策、そしてその元にある考え方の説明です。


ただ、この考え方では「当事者のニーズ」は市場の中で解決されるべきだということになります。

確かに裁量的な行政の元では、しばしば当事者のニーズを無視した一方的なサービスが押しつけられます。この弊害が一番出ているのが生活保護で、生活保護を受ける代わりに、子供の教育や日々の生活に様々な制限が加えられることが多いです。その制限は行政が考えた「生活に必要不可欠かそうでないか」という裁量的な線引きに基づくものです。また、生活保護の受給決定についても「水際作戦」のような不透明な却下が横行してます。右派の中には生活保護への不信感が強く、「ナマポ」などと揶揄・中傷する人もいますが、これも「どうせ自分が本当に困っても適用されない制度だ」と思っているからそういう行動を取るのでしょう。


しかし、市場にも欠陥はあり、特に情報の非対称性によって劣悪な福祉サービスを押しつけられることもあります。ブラック企業として有名な企業が介護分野に進出して、その施設では劣悪な労働環境と低質なサービスが横行しているという話も聞きます。

そのような問題は「裁量からルールへ」という考え方だけでは解決出来ないのでしょう。確かに行政の「裁量」が多くの問題を引き起こしてきたことは間違いないですが、「ルール」に基づいて「当事者のニーズ」を解決することが、市場だけで可能だという保証はありません。


そのような問題に真剣に取り組んでいるリフレ派は確かに少ないのですが、前回の記事の補足で述べた松尾匡氏は、その数少ない一人だと思います。左派でありリフレ派でもある松尾氏は、「裁量からルールへ」という考え方も支持していますが、それ故にこの問題に自覚的な人だと思います。

前回紹介したシノドスの連載記事や、それを書籍化した「ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼」には、そのような問題意識が込められていると思います。
松尾氏は経済学の歴史にも詳しく、マルクスケインズハイエクフリードマンなど過去の経済学の巨人達の考えも自分なりに再解釈して取り入れて、「裁量からルールへ」という流れの中で、福祉・再分配政策や労働政策がいかなるものであるべきかを、過去の歴史や巨人達の思想から導き出した「リスク・決定・責任の一致原則」を踏まえて論じています。

松尾匡 | SYNODOS -シノドス- 松尾匡 | SYNODOS -シノドス- 松尾匡 | SYNODOS -シノドス-

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松尾氏の考えについては、ここで説明するよりも、ぜひ松尾氏の記事や著書を読んでいただきたいと思います。特に左派の方々にとっては、非常に参考になると思います。
結局肝心の部分を書いていないではないかという批判もあるかと思いますが、これについては僕が付け焼き刃で説明することではないと思うのです。松尾氏自身もまだまだ模索中だと思います。


というわけで、リフレ派の再分配政策と雇用政策について、その長所も短所も含めて、自分の理解を書いてみました。今回の記事は若田部昌澄氏と松尾匡氏の考えに基づいていますが、二人ともリフレ派の中でも高く評価されている人ですので、この2人の考え方に異議を唱える人は、リフレ派でも少ないと思います。

今の僕に書ける内容は、こんなところです。

左派・リベラルはなぜ安倍政権を倒せないのか?

現在、国会で審議中の安保法案は、集団的自衛権行使は憲法違反だとする憲法学者の指摘や、安倍政権側の説明の混乱や問題発言などもあって、なかなか国民の支持を得られない状況です。これに伴い内閣支持率も低下し、7月の調査では不支持率が支持率を上回ってしまいました。

 安倍政権の支持率が低下し、新聞主要各紙で内閣不支持率が支持率を逆転している。

 報道各社の7月の内閣支持率は、NHK41%、朝日39%、毎日35%、読売43%、日経38%、産経39.3%、共同37.7%だった。不支持率はそれぞれ43%、42%、51%、49%、50%、52.6%、51.6%で、各社ともに支持率が不支持率を下回っていた。これは、安倍政権では初めてのことだ。


支持率急低下の安倍政権“維持可能性”を検証する|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン 支持率急低下の安倍政権“維持可能性”を検証する|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン 支持率急低下の安倍政権“維持可能性”を検証する|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン

ただ、この高橋洋一氏の記事によれば、自民党支持率の低下や野党支持率の上昇は起こっていないので、まだ安倍政権が退陣する状況ではないということです。

 もちろん、政治の世界では一寸先は闇なので、どのような展開もあり得る。ただ、政界では有名な法則がある。内閣支持率+与党第一党の政党支持率(青木率)が50%を切ると政権が倒れるという、いわゆる「青木(幹雄・元参院議員)の法則」である。これを使って、安倍政権の今後を見てみよう。

 歴代政権の青木率の推移を見ると、ほとんどの場合、発足当初に高かった支持率が時とともに低下し、40〜60%程度まで下がったところで退陣している。新政権発足当初は、前政権の反動から期待が大きいが、徐々に失望に転じるからだ。

(中略)

 これらをまとめると、青木率が60%を割ると黄信号、50%を割ると赤信号のようだ。

 つまり、青木率が60%を下回ると、党内で「次期首相候補」がささやかれ、50%を下回るようになると、本格的な政局になって、首相が引きずり下ろされるわけだ。

 今回の安倍政権については、100%を超えたスタートであり、6月までには80〜100%程度と高い水準を維持してきた。それが7月になって、NHK調査で見た青木率は75.7%(自民党支持率は34.7%)と、初めて80%を割り込んだ。

 ただし、歴代政権から見ればまだ高く、黄信号にもなっていない。民主党等への支持率が上がっていないので、自民党支持率は大きく低下していないからだ。安全保障関連法案で失ったものの、まだアベノミクスでのプラスの蓄えがある。


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その理由はアベノミクス、すなわち経済政策での成功によるものです。消費税増税による消費の落ち込みはありますが、雇用状況は大きく改善していて、株価も上昇しています。このような経済政策への支持が安倍政権の支持率を押し上げています。


さて、今、左派・リベラル勢力によって安保法案反対や安倍政権打倒を訴えるデモが起きています。特に若者によって組織された「SEALDs」が大きな注目を浴びています。
ただ、彼らは大声で安倍政権を批判していますが、何故かその支持の根幹である経済政策では、安倍政権に対抗しようとしていません。ここに打撃を与えないと安倍政権を打倒することはできません。
また安倍政権の好ましくない政策を止めたいのであれば、政権交代を実現させて安倍政権が制定した「間違った」法律を廃止する必要がありますが、そのためにも安倍政権以上の経済政策を打ち出す必要があるでしょう。


安倍政権の経済政策を評価すると、デフレ脱却をを実現しつつある異次元金融緩和やインフレ目標などの金融政策は良く、消費税増税で景気(特に消費)を悪化させてしまった財政政策は悪く、成長政策についてはまだ効果が出ておらず、格差を縮小するための再分配政策は無策であるという評価になるでしょう。
よって、成果が出ている金融政策は安倍政権のものを取り入れ、それ以外の政策でより良い政策を打ち出せば、安倍政権を上回る政策を作ることは難しくありません。
それなのに、何故左派・リベラルはそれをしないのでしょうか?

それどころか民主党首脳部には、金融緩和を否定し消費税増税を推進していたこれまでの路線を変えようという動きはありません。政権交代の中心にならなければならない民主党が、なぜかつての政権時代の誤った政策に固執しているのでしょうか?


この疑問を解くには歴史を遡って、今の左派・リベラルの源流となったかつての社会主義者が、どのような経済政策を主張していたかを知るのが有効だと思います。
経済学者の若田部昌澄氏が、「ネオアベノミクスの論点」という著書の4章で、それについて解説してますので、それに沿って説明したいと思います。

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この本では戦前戦後のいくつかの経済論争が取り上げられています。

時期 論点 賛成側 反対側
金解禁論争(1929-1930) 新平価金解禁 石橋湛山高橋亀吉小汀利得、山崎靖純 大多数の経済学者、官僚、政治家(特に濱口雄幸総理、井上準之助蔵相)
世界大恐慌期(1930年代前半) 金本位制離脱、リフレーション政策 石橋湛山高橋是清蔵相 笠信太郎大内兵衛
戦後復興期(1940年代後半) インフレ許容による復興政策 石橋湛山 都留重人大内兵衛
1950年代前半 自由貿易(反対側は国家統制) 中山伊知郎 有沢広巳、都留重人
高度経済成長期(1960年代〜1970年代初頭) 所得倍増政策、成長論争 下村治、石橋湛山池田勇人総理 笠信太郎都留重人朝日新聞

これらの論争には重複して登場する人も多いのですが、大きくまとめると「賛成側」はインフレを許容して経済成長を追求する人達、「反対側」はハイパーインフレを恐れて経済成長を抑制する人達と分類することができます。そしてこの構図が過去20年のリフレ派vs反リフレ派の論争にそのまま重なるのです。
戦後の論争では、「反対側」に属する経済学者は全てマルクス経済学者でした。そして現在の左派・リベラルは、思想的にはかつての社会主義者の影響が強いです。上の表に何度も出てくる石橋湛山は、戦前に「小日本主義」を唱えて日本の対外侵略を批判したことでも有名ですが、このような日本を代表するリベラリストの経済政策が、今の「リベラル」にはほとんど入っていません。このことが、今の「左派・リベラル」は「リベラル」を自称していても、実態としてはかつての社会主義者の後継者であることを示していると思います。
ただ、1990年代の「非自民政権」を志向した政治家には小沢一郎細川護煕武村正義のような自民党出身者も多いのですが、彼らが財政再建を主張して消費税増税を画策し、インフレを恐れ、経済成長に無頓着であったことは、日本の「リベラル」を社会主義者の後継者にすることに大きく貢献してしまったと思います。彼らの後継者が今の民主党執行部であることを考えれば、この時代にインフレを許容して経済成長を追求する勢力を作れなかった(と言うか、そのような問題意識すら無かった)ことが、現代の「リベラル」を石橋湛山のような本来のリベラルと異なる物にしてしまった大きな要因だと思います。


このように、現代の左派・リベラルが、かつての社会主義マルクス主義の思想的影響下にあることが、安倍政権の金融政策(リフレ政策)を取り入れられない理由なのでしょう。彼らにとって、石橋湛山や下村治の系譜を引くリフレ政策は、歴史的な仇敵なのでしょう。その敵対心は、安倍政権に対するものに匹敵するのかもしれません。
その結果、リフレ政策は民主党政権ではなく、安倍政権によって受け入れられたのだと思います。そして、リフレ政策が成果を上げても、左派・リベラルは現実を受け入れられず、徹底的に否定するしかないのでしょう。彼らがリフレ政策を受け入れることは、自らの知的系譜を否定することに等しいわけですから。

このような歴史的な経緯が、左派・リベラルが安倍政権を打倒できない根本的な要因だと思います。


安保政策についてはアメリカという歯止めがあるので、日本の右派勢力がいくら暴走しても、戦前のような事態は起こさないでしょう。ただ、歴史認識については、戦前日本の侵略や人権侵害という、世界的に否定できない事実まで否定してしまい、世界から批判を浴びることが懸念されます。
また、日本の右派は人権を軽視し、所得再分配にも消極的ですから、弱者を放置する政治になってしまいます。だから彼らがあまり暴走するのも困りものです。
ただ、本来ならばそれに対抗するはずの左派・リベラルは、これまで述べたような理由によって右派を押さえることはできないでしょう。これは歴史的な桎梏であり、変えさせることは困難だと思います。


そうなると、かつての石橋湛山や下村治の思想に基づいた、本当の意味での「リベラル」を再興して、暴走しがちな右派の押さえとするしかないのでしょう。今のリフレ派の思想はその基盤になると思いますが、それが社会主義的な「左派・リベラル」に取って代わるには、まだ長い時間が必要でしょう。
でも、経済成長を抑制する社会主義的な「左派・リベラル」を衰退させて、経済成長を推進する本来の「リベラル」を再興しなければ、右派の政治で見捨てられる貧しい人やマイノリティを救うことはできないと思います。それこそが本来のリベラリズムの目的でしょう。


アメリカのリベラルは、本来の姿を保っていると思います。だから、リベラル派の代表的な経済学者であるクルーグマンスティグリッツは日本の現在の金融政策を全面的に支持しているのです。
また、欧州では国民を窮乏化させている緊縮政策に反対して、左派勢力が次々に台頭しています。失敗はしてしまいましたがギリシャのSYRIZAもその一つですし、スペインではPodemosが政権を奪取しそうな勢いです。本来、左派勢力というのはかくあるべきものでしょう。
しかし、日本の左派は上に述べたような事情によって、むしろインフレを恐れて緊縮政策を推し進めるドイツの側に立ってしまっています。


このように、日本の左派・リベラルは、国際的に見ても異質な存在です。(もう一つ異質な存在なのがドイツですが)
歴史的に奇妙な進化をしてしまい、国際的にも異様な姿になってしまった日本の左派・リベラルは、日本の俗語の用法で「ガラパゴス」と呼ぶにふさわしいものなのでしょう。
そのようなガラパゴス左派、ガラパゴスリベラルの存在が、日本の政治を歪めている大きな要因だと思います。

8/8追記

欧州左派が反緊縮に立ち上がっていることについては、経済学者の松尾匡氏のブログに詳しい説明があります。
jahikkaさん、ご指摘ありがとうございます。

松尾匡のページ 15年5月20日 闘う欧州労連は量的緩和を歓迎する 闘う欧州労連は量的緩和を歓迎する 闘う欧州労連は量的緩和を歓迎する



また、松尾匡氏は朝日新聞のインタビューで、「左派こそ金融緩和を重視するべき」という主張をしています。もし左派の皆さんが、僕が上で述べたようなしがらみを断ち切って、金融緩和重視に舵を切り、僕の面子を丸潰れにしてくれれば、これほどうれしいことはありません(笑)

左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授:朝日新聞デジタル 左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授:朝日新聞デジタル 左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授:朝日新聞デジタル



松尾匡氏は、マルクス経済学者であり、同時にリフレ政策も支持しているという方です。安倍政権の安保政策や戦後処理問題、人権問題へのスタンスには批判的です。安保問題については反対署名にも参加してます。「リフレ派=安倍支持者」と思っている方も多いようですが、リフレ派にはこういう人もいます。
下の記事に、安倍政権反対のさまざまなアピールで、呼びかけ人や署名をしていることが書かれています。

ワタクシこの夏も激動中(with生活保護と失業のグラフ) ワタクシこの夏も激動中(with生活保護と失業のグラフ) ワタクシこの夏も激動中(with生活保護と失業のグラフ)



松尾匡氏が凄いのは、リフレ派の思想もマルクスケインズハイエクなど多くの過去の偉人達の思想も深く分析して、現代の潮流を「『リスク・決定・責任』がなるべく一致するシステムへの転換」と結論づけて、今後左派やリベラルが進む道を示していることです。僕も松尾匡氏の記事を読んで、何枚も目からウロコが落ちました。

2年にわたって連載し、最近終了したシノドスの記事『リスク・責任・決定、そして自由!』に、そのような松尾匡氏の考えがまとめられています。

松尾匡 | SYNODOS -シノドス- 松尾匡 | SYNODOS -シノドス- 松尾匡 | SYNODOS -シノドス-

この連載の前半はすでに書籍化されていて、後半ももうすぐ書籍化・刊行される予定です。

[asin:4569821375:detail]

今回の僕の記事に好感を持った方も、反感を持った方も、この本や連載記事は一度読んでもらえたらと思います。今後の左派やリベラルの目指すべき姿について、きっと得るものがあるはずです。
もうすぐ夏休みを迎える方も多いと思いますが、松尾匡氏の思想にじっくり取り組むのも良いと思います。

正直言って、自分はいくら叩かれても良いので(それだけのことは言ってるわけですから)、松尾匡氏の本や記事をすこしでも読んでもらえたらと思います。

なぜ韓国はリフレ政策を採用しないのか

黒田日銀が「異次元緩和」「黒田バズーカ」などと呼ばれるリフレ政策を採用し(インフレ目標の達成は消費税増税のために遅れてしまいましたが)、ECBも大規模な金融緩和を発表するなど、今やリフレ政策は世界の主要国に広がりつつあります。
しかし、そんな中でもリフレ政策を採用せずに、白川日銀、民主党政権までの日本のように効果の薄い為替介入を繰り返しているのが、お隣の韓国です。そこでなぜ韓国はリフレ政策を採用しないのか考えてみます。

 米財務省が韓国の不透明な為替介入を世界に暴露した。輸出の不振で経済が低迷するなか、ウォン高阻止のため、先進国はもちろん新興国でもやらないような巨額介入を秘密裏に行ったと指摘、朴槿恵(パク・クネ)政権による対日本円でのウォン高対策も批判した。日本の円安が容認される一方、為替介入で悪名高い中国よりも強いトーンで指弾されるなどさらし者になった韓国では、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐる米国の意趣返し、との陰謀論まで出るなど動揺を隠せない。

 報告書は米財務省が議会向けに半年に一度提出しているもので、各国の経済状況や為替政策について言及している。

 これまでの報告書で毎回やり玉に上がるのは中国だ。今回も、制裁の対象となる「為替操作国」への認定こそ見送ったが、人民元が「著しく過小評価されている」との見解を維持した。

 ただ今回の報告書で中国よりも厳しく批判されたのは韓国だ。韓国に関する項目では、「韓国は公式には市場で為替レートを決めている」「2013年2月には他のG20(20カ国・地域)諸国と同様に、為替レートをターゲットとした意図的な通貨切り下げ競争はしないことを約束した」と前置きしたうえで、実際には韓国当局がウォン高を阻止する形で為替介入を行っていると指摘した。

 「他の大半の主要な新興国市場や先進国経済と異なり、韓国は為替介入について公式な報告を行っていない」と厳しい表現で隠蔽体質を批判。14年夏に大規模な介入を実施、同年8月から11月までは小康状態だったが、ウォン高圧力が強まった12月から今年1月にかけて再び介入規模が拡大したと分析した。

 1ドル=1000ウォン突破に近づくと介入するという傾向も指摘、今回の報告書では月ごとの介入額を推定したグラフまで作成する念の入れようで、韓国のやり口が腹に据えかねている様子がうかがえる。

 対ドルだけでなく、対日本円でも、朴政権の当局者が昨年11月、ウォンを安くするよう意図したことも明記するなど批判は詳細かつ具体的で、ウォン安維持のための介入をやめるよう徹底した要求を行った。


米財務省、韓国の不透明な“為替介入”を猛批判 “手口”まで世界に暴露 (1/3ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK 米財務省、韓国の不透明な“為替介入”を猛批判 “手口”まで世界に暴露 (1/3ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK 米財務省、韓国の不透明な“為替介入”を猛批判 “手口”まで世界に暴露 (1/3ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 韓国の経済・通貨外交の行き詰まりを映すように、ウォンに上昇圧力がかかってきた。ウォン売りの覆面介入に対し、米財務省のいら立ちは募るばかり。日本としても隣国の苦境は他山の石としたい。

 「7年2カ月ぶりの100円=900ウォン突破」。4月23日の韓国メディアは対円でのウォン高進行に大騒ぎとなった。日本の民主党政権時代の2012年6月には100円=1500ウォン台の円高・ウォン安だったから、7割近くウォン高になった勘定である。
 これに対し韓国政府・企画財政部は23日、「円・ウォン為替レート900ウォン台崩壊」は事実ではないと説明した。韓国紙「中央日報(電子版)」はそう伝える。裁定相場の計算違いというのだが、「崩壊」などと大仰な言葉を用いるあたり、直近のウォン高に神経をとがらせている様子がうかがえる。

 そもそも直近のウォン高のきっかけは、米財務省が4月9日に発表した「為替問題議会報告」だ。年2回の報告は韓国の為替政策に対する批判を強めてきたが、今回は為替介入によるウォン安誘導への非難を一層強めた。

 「競争的な通貨安政策をとらず、為替相場を競争力強化の道具にしない」。13年2月の20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議でうたったこの約束を、韓国も受け入れたはずである。それなのに、ウォン高を防止するための介入を、韓国はその後も繰り返している。

 為替報告はウォンと円の関係にも言及している。韓国当局は昨年11月にウォン安誘導の意図を宣言。実際の相場も100円=940〜950ウォンの狭い範囲に押し込めてきた、というのだ。

 米財務省が腹を立てているのは、韓国が依然として介入の情報を開示せず、事実上の為替操作をしている点だ。しかも国際通貨基金IMF)による14年7月時点の評価では、ウォン相場は依然として割安なのだ。
 先進国になったのなら、もっと政策運営の透明性を高めるべきだ、というのが米国の言い分。残念ながら、韓国はその辺の雰囲気が読めないようだ。為替報告の発表後も、介入継続の方針を示している。


韓国ウォンを呪縛する通貨外交のつまずき :日本経済新聞 韓国ウォンを呪縛する通貨外交のつまずき :日本経済新聞 韓国ウォンを呪縛する通貨外交のつまずき :日本経済新聞

 ウォン相場の上昇基調が続いている。輸出への依存度が高い韓国にとっては負の影響の方が多いとの見方が一般的で、通貨当局は断続的に市場介入をしているようだ。ウォンの取引は韓国内に限定されており規模も小さいため、介入は相場に大きな影響を与えることがあるが、今回の局面では威力を発揮できていないのはなぜなのか。

 「ウォンの実質実効相場は低評価区間にあったがいまや高評価区間に入った。主要交易相手国である中国と日本の緩和基調が続く場合、我が国の対外競争力が低下する可能性がある」
 韓国銀行(中央銀行)が公表した議事録によると、3月12日に開いた金融通貨委員会である委員はこんな見解を述べた。このとき同委員会は政策金利を年1.75%と史上最低水準への引き下げを決めている。ウォン高警戒一色というわけではないが、為替は重要な検討テーマの一つになっていたことがわかる。

 実質実効相場はウォンとドルなど特定の通貨ペアだけでなく、様々な通貨に対する相場を貿易額に比例するように組み合わせて計算したものだ。物価も勘案しており、貿易上の対外競争力を示す。国際決済銀行(BIS)によるとウォンの実質実効相場は2月時点で113.44。1月よりはやや低下したが、中期でみれば7年ぶりの高値圏だ。
 「最近も通貨当局は市場でウォン売り介入をしている」。韓国のある国内銀行関係者は証言する。それにもかかわらずウォン高が止まらないのは、ウォン相場が交換相手の通貨ごとに異なった動きをしているからだ。

 年内の利上げが取り沙汰されるドルに対してはウォンは下落している。韓国銀行によると3月の平均は1ドル=1112ウォン。半年前に比べ7%低い。一方で、円やユーロに対しては上昇が続いている。日銀や欧州中銀は量的緩和政策を継続しており、ウォン以上に対ドルで下落している。


[http://www.nikkei.com/dx/content/pic/20150418/96958A9F889DEAE7E5EBEAE2E0E2E3E5E2E6E0E2E3E7E2E2E2E2E2E2-DSXMZO8580176017042015000001-PN1-8.jpg:image]


韓国、市場介入でも止まらぬウォン高 :日本経済新聞 韓国、市場介入でも止まらぬウォン高 :日本経済新聞 韓国、市場介入でも止まらぬウォン高 :日本経済新聞


このように、韓国は米国から激しく批判されながらも、ウォン売りドル買いの為替介入を行ってウォン高を阻止しようとしていますが、その結果対ドルレートは下がっても、それ以外の通貨も含めたウォンの価値を示す実質実効相場(実質実効為替レート)はウォン高のままです。これでは国際的な批判を受けるだけで、ウォン高阻止には何の効果もありません。

かつては日本もこのような為替介入を行って米国から批判されてましたが、アベノミクス以降は金融緩和により円安が進み、国際的にもその行動は容認されています。従って、韓国も為替介入ではなく、金融緩和をすれば良いように思えます。

しかも韓国はインフレ目標(韓国は3%)を達成できず、インフレ率は大きく目標を下回っています。普通に考えれば、高橋洋一氏が指摘するように日本と同様の大規模金融緩和を行うべき状況でしょう。

ウォン円レートは、日韓のマネタリーベースでかなり説明できるので、アベノミクスで韓国経済が相対的に日本経済に後れをとっているのは明らかだ。


[http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/8/d/600/img_8d86627ee18ea46851eef54bea7497c9145237.jpg:image]


2年前から、アベノミクスのよる金融緩和の影響について、韓国はかなり真剣に考えていた。筆者に対して、韓国のメディアは日本のメディアより、しばしば取材にきていた。実は、韓国大使館やその関係者からも今後の見通しを聞かれた。その際、韓国はどうしたらいいのかとも聞かれたので、日本と同じ金融緩和すればいい、韓国はインフレ目標なので、日本と同じ金融緩和すればいいといった。ところが、筆者の相手の韓国人はどうも歯切れが悪かった。

実際、韓国のインフレ目標は、2013年から15年まで2.5〜3.5%である。ところが、2012年6月以降、この目標はまったく達成されていない。2015年2月のインフレ率は0.5%であり、このままでは目標期間で一度も目標達成していないということになりそうだ。つまり、この間、金融緩和が不十分だったのだ。利下げをしているが、そもそも為替が安くならないように、つまり経済効果があまりでない範囲での、言い訳程度の利下げしかしていないわけだ。


[http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/7/5/600/img_752e9f68e822922c4090ab925118e172125945.jpg:image]


シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]



また、韓国国内でも、今の韓国経済がかつての日本のような「氷河期」「失われた20年」だという、深刻な記事が出ています。

 韓国メディアのアジア経済は20日、「日本に似ていく韓国」というタイトルで記事を掲載し、現在の韓国経済は「少消費病」であると同時に「春來不似春」(春がきたが、春らしくないという意)だと紹介した。
 記事は、現在の韓国経済は「氷河期」であり回復の兆しが見えないと指摘。「低金利・低物価・低成長基調は“日本の失われた20年"を踏襲しているようだ」と報じた。
 また、現在「日本の失われた20年」と類似していると言われている韓国経済は、韓国史上初となる国内基準金利1%時代が到来し、消費者の財布の紐も緩まないと指摘。さらには、消費者物価上昇率までも0%台にとどまっており、OECD(経済協力開発機構)の調査において、韓国の2014年の消費者物価上昇率は「1.3%」で、41年ぶりに日本の2.7%」よりも低く、OECD(経済協力開発機構)の2014年の平均値である1.7%にも及ばなかったと報じた。
 また記事では、この現在の韓国経済の姿は、日本が不況に入り始めた時期と酷似していると指摘。実際、「韓国の実質金利(名目金利物価上昇率)が2008年の金融危機以降、最高値となる現象が現れている」と論じた。
 続けて記事は、現在の韓国の消費パターンも1990年代の日本と類似点が多いと分析した。バブル崩壊直後の日本の20年間は、消費者が「低価格製品を好み、自社ブランド商品やアウトレット・食べ物のバイキングや超低価海外ツアー」など人気を集めた一方、日本のデパート業界では内需低迷により売上の伸び率がGDPの伸び率を大幅に下回ったと指摘。これは、現在の韓国流通産業も似ていると論じた。


韓国経済は「氷河期」・・・かつての日本のように=韓国メディア<サーチナ・モバイル> 韓国経済は「氷河期」・・・かつての日本のように=韓国メディア<サーチナ・モバイル> 韓国経済は「氷河期」・・・かつての日本のように=韓国メディア<サーチナ・モバイル>


それにも関わらず韓国が不十分な金融緩和しかしていない理由として、高橋氏は韓国の対外債務は短期ものが多く、ウォンが安くなると外資は韓国から引き揚げやすいからだと言っています。つまりウォン安がキャピタルフライトを招きかねない状況だということです。

その理由は、韓国では思い切った金融緩和ができにくい事情があるのだ。韓国の対外債務は短期ものが多く、韓国ウォンが安くなると外資は韓国から引き揚げやすいからだ。ちなみに、日本は対外資産が対外債務よりかなり大きくGDP比でみて6割程度の純債権国であるが、韓国は5%程度の純債権国にすぎない。


シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] シャープへの金融支援は功を奏するかもしれない。その理由を示そう  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

これについては、東京三菱UFJ銀行系のシンクタンクである国際通貨研究所でもレポートが出ています。このレポートは、韓国と中国や東南アジア諸国の対外純資産ポジションを比較しているのですが、韓国は「足の遅い」海外からの直接投資が少なく、「足の速い」(経営権取得目的でない)株式・債権の投資や銀行からの借り入れが多いことが分かります。

対外純資産からみた韓国ウォンの脆弱性 - 国際通貨研究所 対外純資産からみた韓国ウォンの脆弱性 - 国際通貨研究所 対外純資産からみた韓国ウォンの脆弱性 - 国際通貨研究所


ただ、このような議論についてはやや疑問も感じます。なぜなら、かつてアジア通貨危機の時、韓国はウォンへの通貨アタックを招いたドルへの通貨ペッグ制(固定相場)を放棄し、それに替わる通貨安定策としてインフレ目標を採用した経緯があるからです。なのに、インフレ率が目標を大きく下回っているのに十分な金融緩和を行わず、キャピタルフライトを恐れて対ドルレートの維持を最優先とするのは、まるで通貨ペッグ制への回帰のように見えるからです。それが不可能であるというのが、アジア通貨危機で得られた教訓ではなかったのでしょうか。


この疑問を解く鍵は、アジア通貨危機への対策として作られた日韓通貨スワップ協定が、韓国の反日政策によって崩壊したことにあると思います。アジア通貨危機のあと、日中韓ASEAN諸国は、チェンマイ・イニシアティブという相互通貨スワップ協定を策定しました。それに加えて、日韓は独自に通貨スワップ協定を行い、最も多かった2011年には合計700億ドルに達しました。
しかし、2012年の李明博韓国大統領の竹島(独島)上陸、今上天皇への謝罪要求などをきっかけに、日韓の通貨スワップ協定は次々に廃止され、2015年2月には全て終了しました。これによって韓国の通貨スワップの主要な相手国は中国となり、通貨危機の際、西側諸国が韓国を支える仕組みは失われました。

この日韓通貨スワップ廃止について、日経新聞編集委員で韓国に詳しいジャーナリストの鈴置高史氏と、真田幸光・愛知淑徳大学教授の対談で面白い記事がありました。アジア通貨危機の際、日本は最後まで韓国を助けようとしましたが、IMF救済を主張するアメリカの圧力に屈し、救済を断念しました。それにもかかわらず韓国では日本が通貨危機の原因だという主張が出てきたため、「恩を仇で返された」という不信が日本に広がり、韓国を助けようという動きがなくなっていったというのです。

−今後、韓国が金融面で困った時に日本は助けないのですか?

真田:容易には助けないと思います。日本の金融界には「恩を仇で返された」との思いが強いからです。韓国人は、あるいは韓国メディアは「1997年の通貨危機は日本のために起きた」と主張します。
 でも、それは全くの誤りです。あの時は、欧米の金融機関が韓国から撤収する中、最後まで邦銀がドルを貸し続けたのです。韓国の歴史認識は完全に誤っています。

鈴置:当時、真田先生は東京三菱銀行で韓国を担当しておられました。私も日経新聞のデスクとしてアジアをカバーしていました。
 あの頃は、韓国人の中でも分かった人は「日本は最後まで面倒を見てくれた」と語っていました。1998年と思いますが、危機の原因を追及した韓国国会でも、それを前提にした質問があったそうです。
 でも今やそんなことを語る人はいない。韓国では日本が悪者でなければならないからです。当時をよく知るはずの記者も「日本の貸しはがしが危機の引き金となった」と書きます。

真田:米欧が貸しはがす中、我々は最後まで引かなかった。「日本が引き金になった」とは言いがかりも甚だしい。これだけは記録に留めていただきたい。邦銀の担当者は本店を説得し、欧米が逃げた後も最後まで韓国にドルをつないだのです。
 韓国が国際通貨基金IMF)に救済を申請した後でも、KDB韓国産業銀行)とIBK(中小企業銀行)へは日本輸出入銀行がドルを融資しました。我々、邦銀の韓国担当者が走り回った結果です。
 それなのに「我が国の通貨危機は日本が起こした」と世界で吹聴する韓国。そんな国を助ける気になるでしょうか?
 麻生太郎財務相が2014年10月に「韓国から申し出があれば、スワップの延長を検討する」と国会で答弁したのも、恩を仇で返す国への不信感が背景にあったと思います。


「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン 「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン 「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン

また、韓国は米国に対しても、中国カードを使ったチキンゲームを行っており、そのことが米国とのすれ違いを招いているとも指摘しています。

真田:韓国は米国に対しては「中国カード」を使えると考えているフシがあります。いざという時は「中国に人民元スワップを発動してもらう」と言えば、米国がドルを貸してくれる、と計算していると思います。

鈴置:そこの、米韓の心理的なすれ違いに注目すべきですね。韓国は「中国側に行くぞ」と脅せば米国が言うことを聞くと考えている。なぜなら「米国は自分を手放せないはずだから」です。
 一方、米国は「そんなに中国が好きなら、そっちへ行け」と放り出せば、韓国は戻ってくると信じている。「韓国は自力で国を守れないから」です。
 先生が指摘されたMD、ことに終末高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)の韓国配備の問題でもそうですが、米韓はチキンゲームを始めています。
 中国の怒りを避けようと韓国は「配備計画など米国から聞かされていない」と言い張る。「THAADで追い詰められた韓国が中国側に行ったら大変」と米国が思うはず、と考えているからです。
 これに対し米国は「もう、韓国と相談を始めている」などと“勇み足の発言”をしては「米中どちらの味方なのか」はっきりするよう、韓国に迫っています。

真田:そこが分析のポイントです。ただ、米国のハラが読みづらい。韓国を脅せば戻ってくると計算しているのか、あるいは「戻ってくればよし、戻ってこなくてもよし」と達観しているのか――。
 レームダック化したこともあり、オバマ政権は朝鮮半島に関し思考停止した感があります。問題は肝心の、米国を本当に動かしている金融と軍事の2つのパワーセクターが、この半島をどうしようとしているのか、迷っているように見えることです。

鈴置:ことに米国の金融界がどう動くかが注目ですね。ウクライナ問題でもそうですが、最近の米国は軍事力での勝負を避け、金融力で相手を圧倒しようとします。
 そして仮に米国が「朝鮮半島を捨てる」時も、単に捨てるのではなく中国と交渉するための「カード」にするのだろうと思います。


「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン 「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン 「人民元圏で生きる決意」を固めた韓国:日経ビジネスオンライン


このように、日本も米国も、韓国経済を本気で助けようという意志はもうありません。また、中国についても、韓国が米国へのカードとして使っているのであれば、本気で中国に助けを求めるのは躊躇するでしょう。
ということは韓国が再び経済危機に陥ったとき、韓国が頼れる国はありません。日本も米国も(韓国がそれを嫌がっていることをわかっていながら)冷淡にIMF支援を要請するでしょうし、中国に頼った場合は、どんな交換条件を押しつけられるか分かったものではありません。韓国はこの点で完全に孤立していると言って良いでしょう。
韓国が自分でもそれを認識しているのであれば、何が何でも経済危機を避けようとして、少しでも経済危機に繋がる政策は避けようとするでしょう。日本の例を見ても、金融緩和は大幅な通貨安を伴いますから、韓国はそのようなウォン安が通貨危機を招くのではないかと恐れ、インフレ目標が有名無実になっても、国内がどれだけ不況になっても、金融緩和に踏み出せないのでしょう。
しかし一方で、ウォン高が進むと輸出依存度の高い韓国経済は大きなダメージを受けるので、何とか通貨介入でそれを防ごうとするのでしょう。その結果、皮肉なことに、韓国はアジア通貨危機以前に似た、事実上の通貨ペッグ制になりつつあります。
しかし、通貨ペッグ制は市場から足下を見られるため維持不可能というのが、多くの経済危機の歴史と経済理論(国際金融のトリレンマ)から得られた教訓です。
もしウォン高要因が大きくなれば、韓国はデフレに陥り、かつての日本のような長期不況に陥るでしょう。
逆にウォン安要因が大きくなれば、韓国は通貨アタックを受けて、金融危機に陥るでしょう。しかも韓国を救済する国は、下心を持った中国だけです。


結局、韓国が自分勝手な外交によって日本と米国の信頼を失ったことが、韓国がリフレ政策を採用できない理由だということになります。韓国はなんとも愚かなことをしたものだと思います。
これを解決するには、韓国がその夜郎自大な態度を改め、日米との和解を進めるしかないのでしょう。例え韓国がそれを、日米への屈服だと感じたとしても。

最近の日銀と金融政策について

エイプリルフール記事を除けば、4ヶ月ぶりの更新です。


この間に日銀審議委員人事が2回あり、原田泰氏と布野幸利氏が選ばれました。
原田氏は岩田副総裁と並ぶリフレ派の代表的な経済学者であり、これまで政策委員会の票数確保に苦しんできた執行部にとって、これ以上は望めない人選だったと言えるでしょう。その見識も確かであり、今後金融緩和政策を進めてインフレ目標を目指す上で、大きな力になることは間違いありません。
布野氏はトヨタ自動車の出身で、いわゆる「産業枠」での人選でした。ただ、これまで審議委員だった森本宜久氏が東京電力出身で、輸入産業側の立場だったのに対し、トヨタ出身の布野氏は輸出産業側の立場です。従って、この人事も金融緩和政策にマイナスになることはないでしょう。


ただ、その一方で、2%のインフレ目標達成は2年で実現できず、達成時期を16年度前半ごろに遅らせることになりました。

日銀の黒田東彦総裁は30日の金融政策決定会合後の記者会見で、物価安定の目標とする消費増税の影響を除いた消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)の上昇率2%の達成時期について「(エネルギー価格の影響がほぼなくなる)2016年度前半ごろ」と、これまでの「15年度を中心とする期間」から後ずれさせた。物価の中心的な見通しについては「不確実性が大きく、下振れリスクが大きい」とした。


日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞 日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞 日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞

こうなってしまった要因としては、消費税増税原油価格下落が考えられます。
前者については、もし黒田総裁が財政再建など財政政策への発言を控え、消費税増税賛成発言を繰り返していなければ、インフレ目標未達の要因として消費税増税があったと主張できたでしょう。
また、後者については、エネルギー価格を含む「コアCPI」ではなく、エネルギー価格を除いた「コアコアCPI」をインフレ目標の指標とすべきでした。そうすれば、「原油価格下落は経由に良い影響を与えるのに、なぜ金融緩和をするのか」という批判を受けずにすんだでしょう。
これらはいずれもリフレ派が以前から指摘していた点であり、黒田日銀の金融政策はリフレ派の主張から逸脱した部分でボロを出してしまいました。
これらの点で逸脱していなければ、今回のインフレ目標未達についても、はっきりと説明責任を果たすことができたと思います。


さて、このどちらが主要な要因だったかについてですが、高橋洋一氏はインフレ率がマネタリーベースの推移と消費税増税の影響でかなり説明できると分析しています。

 2%インフレ目標がすぐには達成できないのは明らかである。その理由として、黒田総裁は、物価上昇の基調は変わりないものの、原油価格下落で当面のインフレ率が伸び悩むと説明していた。

 黒田日銀が2年たったので、その前の2年とあわせた4年間における、インフレ率(消費者物価指数総合の対前年同月比)の分析をしてみよう。それによれば、インフレ率は、マネタリーベース対前年同月比(3ヵ月ラグ)と消費増税(半年ラグ)でかなり説明できる。


[http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/f/7/600/img_f78bda90aaa8b5a909f0a53c2a03a09f146516.jpg:image]


インフレ率=−0.68+0.044*マネタリーベース対前年同月比(3ヵ月ラグ)
      −0.54*消費増税(半年ラグ)
相関係数0.94

 やはり、消費増税の影響は大きかったと言わざるを得ない。もし消費増税が行われなかったら、2%インフレ目標は2015年度の早い段階で確実に達成できただろう。


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また、片岡剛士氏によると、消費者物価指数に対するエネルギー価格の寄与は、2014年は減少しているもののまだプラスであり、2015年になってからマイナスになると予測しています。

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(このレポートはPDFファイルなので、具体的な内容は6ページ以降を参照して下さい)


これらの分析から考えると、やはりインフレ目標未達の主因は消費税増税であったと見なすのが適切でしょう。
従って、黒田総裁が金融政策の責任者でありながら、財政再建の持論のために財政政策に口を出して、消費税増税を支持する発言を繰り返した結果、インフレ目標未達の理由が消費税増税であったと認められなかったことは、今回の事態における日銀の説明責任を不十分なものにしたと思います。

この点については高橋洋一氏が手厳しく批判していますが、僕もこの通りだと思います。

4月7〜8日(2015年)、日銀の政策決定会合が行われた。その後の記者会見では、毎度のことであるが、昨年4月からの消費増税の影響はほとんど語られていない。このため、最近の物価の見通しについて、かなりトンチンカンな説明になっている。

消費増税の影響を除いた消費者物価対前年同月比は「当面はゼロ%程度で推移する」というものの、なぜそうなったのかの説明がないので、今後の展開や追加緩和の見通しがはっきりしないのだ。

筆者なりに説明すれば、消費増税によって需要が落ち込んだが、1年経過してその影響が和らぎつつあるので、需要が盛り返し、物価も上がるということだ。

この単純さに引き替え、黒田総裁の説明は複雑だ。個人消費は賃上げなどで雇用・所得環境が着実に改善している、設備投資も企業の景況感がいいから期待できる、海外も経済回復している、と消費増税という言葉を使わない。海外要因を除くと、国内要因の根っこにあるのは消費増税の影響がなくなりつつあることなのだが、根っこを説明しないで、枝葉を説明するから、まどろっこしくなる。

黒田総裁が、消費増税を需要落ち込みの原因と言えないのは、黒田総裁自身が消費増税に積極的で、消費増税の影響は軽微であると言ったからだ。その影響は軽微どころではなく、黒田総裁の見通しは大外れであったが、それを認められないということだ。

記者会見に出ているマスコミも、消費増税に賛成した大手紙などは、今さら消費増税の影響が大きかったとは言えない。だから、4月8日の記者会見では、消費増税の話を避けて、お互いが話すので、第三者からみれば、かなり滑稽な会話になっている。しかし、当事者はそれぞれ過去を背負っているからか、滑稽だということすら気がついていない。


高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース

北方領土、独立を宣言

[クリリス*1 1日]本日、択捉島国後島色丹島歯舞諸島から成る南クリル諸島は、「南クリル共和国」として独立を宣言した。同時に大統領選が行われ、初代大統領に南クリル友愛党のゴールーピー氏が就任した。首都は択捉島のクリリスクに置かれる。
 南クリル諸島は1945年にソ連によって日本から解放された地域であるが、今でも日本は「北方領土」と称して領有権を主張している。この状況に心を痛めたゴールーピー氏は南クリル友愛党を結成し、プーチン大統領との交渉の結果、独立を認められた。
 南クリルの人々の総意によって独立が達成されたことで、日本の領有権主張は根拠を失うことになる。ゴールーピー大統領は日本に対し、独立の承認と国交樹立を呼びかける声明を発表した。
 この声明に対して日本のハトヤ元首相は、「南クリルの人々の総意によって民主的に独立が決定され、ロシアが独立を承認したことで、北方領土問題解決への道が開かれた。日本政府も南クリル共和国の独立を承認し、北方領土問題を解決させるべきである。必要ならば私自身が政府特使として南クリル共和個を訪問し、外交交渉に当たりたいと思う。また個人的にも南クリル共和国との民間交流を活発に行い、南クリルを平和の島、平和の海とすることに貢献したい」と、歓迎のコメントを述べた。


南クリル、独立を宣言 - オソ・ロシアの声

この「南クリル共和国」というのは、併合前のクリミアやウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの「共和国」、モルドバ沿ドニエストルグルジア南オセチアアブハジアと同じく、ロシアの影響力の元に作られた「国家」だと思われます。ロシアはこれまで紛争状態にある他国の領土の一部を「独立」させるという方法を取っていましたが、今回は自国が支配している地域を「独立」させることで、ロシア影響下の国家として国際的に認めさせようという、新たな外交的方法を採用しました。
もちろん日本政府がこの「国家」を認めることはありませんが、中国など日本と対立している国がこの「南クリル共和国」を認めると、外交的に難しい状況になります。またこの記事の元首相のように、日本国内でも「南クリル共和国」の承認を求める勢力は出てくるでしょう。
今回の「独立」はロシアが打った外交的奇手ですが、日本としては対応が難しい状況に追い込まれたと思います。

*1:「クリリスク」とは、択捉島の紗那のロシア名です

ギリシャ、人民元を通貨に採用

[北京 1日]中国を電撃訪問したギリシャのチプラス首相は習近平主席と会談し、ギリシャがユーロと平行して人民元を通貨として採用することで合意した。
 会談後の記者会見で、チプラス首相は4月にも政府の資金が底を突く状況であり、そのための支援を中国に要請したことを明らかにした。会談の席で、中国がギリシャにEUやIMFへの返済資金を融資すると同時に、ギリシャ人民元を通貨に採用することでユーロ圏から段階的に離脱することを提案、EUとの交渉が行き詰まっていたギリシャ側もこれに応じて、人民元圏入りと中国からの援助で経済を再建する方針を決定した。
 当面、緊急に必要となる支援は中国政府が行うが、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の発足後は、AIIBが財政支援と経済再生のための融資を行う方針である。
 また、中国はギリシャへの支援国として、ギリシャの債務軽減に協力する。ギリシャ第二次世界大戦中のナチスドイツによる被害に対する賠償金や、当時ナチスドイツからに強制された融資の返済をドイツに要求しているが、中国はギリシャの立場を支持し、ドイツに支払いを要求する方針である。
 中国にとっては、ギリシャ人民元圏に加えることで、人民元を国際通貨にしようとする目標に近づくことになる。今後もギリシャのように経済危機になった国に対して人民元採用を提案する方針であり、ユーロ参加で苦境に陥っている南欧や東欧の諸国がギリシャに続いて人民元圏入りし、ユーロに匹敵する巨大通貨圏が誕生する可能性もある。
 これに対して、3月にAIIB参加を決めたばかりのイギリス・フランス・ドイツなどは一斉に反発し、「AIIBはアジアのインフラ投資を行うための組織であり、アジアではないギリシャに、インフラ投資以外の融資を行うことは、設立の趣旨に反する」と批判している。
 これらの批判の本当の理由は、AIIBにはこれらのEU諸国も出資するが、その資金の一部がギリシャに回ることでEUはギリシャに圧力を加えることができず、要求してきた緊縮政策が行われない結果となるためである。さらに欧州に人民元採用国が増えることは、EUにとって悪夢でしかない。特にドイツは、第二次世界大戦時の賠償問題を取り上げられることも懸念している。
 しかしAIIBには常設の理事会が置かれないため、中国人の総裁の決定に対して出資国が意見を言う機会は限られており、AIIBがギリシャに融資しても、EU諸国がそれを止めることは事実上不可能である。「バスに乗り遅れるな」とばかりに、中国からの商業的利益だけを考えて拙速にAIIB参加を決めたEU諸国は、今回の合意によって手痛い打撃を受けることになる。
 この決定に対して米国政府は「EUとの交渉が行き詰まり、ギリシャ財政の破綻が目前に迫っている状況では、中国がギリシャを支援することを容認せざるを得ない。その結果EUが不利益を受けることになっても、それは米国とは関係が無いことである。」と突き放したコメントをした。
 この決定について経済学者のポール・クルーグマン教授は、「最適通貨圏を超えて拡大してしまったユーロは、やがて崩壊する運命だった。その運命をもたらしたのが中国だったにすぎない。しかし中国が作ろうとしている「人民元圏」も、最適通貨圏の理論に反している。だからいずれ「人民元圏」も崩壊するだろう。こんな経済圏に参加するの愚か者だけだ」と皮肉に満ちたコメントをした。


ギリシャ人民元を通貨に採用 - フィナンシニカル・タイムズ

3月になって英国を皮切りに世界中の国がAIIBに参加し、米国と日本は孤立しているという意見もありました。しかし主要国が参加を決めた途端に、中国がこのような一方的な決定を行うとは驚きました。AIIBのガバナンスに対する米国や日本の懸念が、早速裏付けられた形です。
AIIBがギリシャ支援を行うことは「アジアインフラ投資銀行」という名前には反しますが、中国がAIIBを設立する本当の理由が、米国が中心となって設立されたIMF世界銀行への対抗であることは明らかですから、この名前自体が単なる名目に過ぎなかったことになります。
IMFやEUが失敗しているギリシャ支援に中国が成功すれば、米国中心の経済体制は正当性を失い、計り知れない打撃を受けるでしょう。
しかしギリシャへの支援そのものは、ギリシャ危機を沈静化させて世界経済の安定に貢献することも事実です。欧州がこの問題を解決出来ない中、渦中の栗を拾って支援を打ち出した中国の決定は高く評価すべきだと思います。その裏に通貨覇権への野望があったとしても、中国の支援で多くのギリシャ国民が救われることは間違いないのですから。