Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

書評「危機の宰相」

以前、副会長さんのところで紹介されていた本ですが、ようやく読むことが出来ました。w


http://blog.livedoor.jp/k95123548/archives/50214073.html


危機の宰相

危機の宰相


戦後日本に決定的な影響を与えた事件はまず第一に高度成長であると思うのですが、高度成長の始まるとなった「所得倍増」政策がいかにして生まれたかを、3人のキーマンである池田勇人首相、田村敏雄宏池会事務局長、エコノミストの下村治氏の3人を軸にして語っています。
彼らが高度成長政策を唱えたとき、経済学者のほとんどは反対であり、政界の理解者も池田氏、田村氏などわずかでした。しかし、彼らが信念を持って実施した政策は大成功を収め、日本のみならず世界をも変える成果を上げたのです。
それが可能だった理由は、下村治氏が徹底的に統計資料を分析し、ケインズを始めとした当時の最高水準の経済学の成果を取り入れ、さらにそれを鵜呑みにするのではなく利用して自らの理論を組み立てた結果として、立案した政策であったからでしょう。
一方、この政策を批判した側は、いかに高名な学者であってもまともな根拠を持たず、世間知と時代遅れの理論を元に批判したため、間違った結論を導き出したのでしょう。そして高度経済が達成された後、彼らが主張したのは高度成長の「歪み」論であったというのは、現在の経済論壇を見る者として苦笑してしまいます。w

それにしても「所得倍増」に対する批判者たちの立論の変遷を辿っていくと、この国の「口舌の徒」に対する絶望感が襲ってくる。「所得倍増」は不可能だといっていた人びとが、それが可能な状況になると自らを批判することなく、高度成長の「ひずみ」論にずれ込んでいく。少なくとも、池田とそのブレーンたちは、自分たちの構想した日本に責任をとろうという姿勢を持っていた。


第八章の後半にあるこの文章がそのまま当てはまる「口舌の徒」は、今でも山のようにいるのでしょうね。