Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

自殺のインセンティブ

前回のエントリーid:arnさんとid:sunafukin99さんから、近年イジメが悪化してるという証拠があるのかというコメントを頂きました。
ただ、今回のイジメ自殺の件で文科省のイジメ自殺統計が去年までゼロだったことが問題視されているように、イジメ関係の統計にはまだまだ問題が多いようです。
そこで未成年者の自殺統計を元にして考えてみればどうなるかと考えてデータを捜したところ、次の資料が見つかりました。


平成16年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究 分担研究報告書 青少年の自殺予防対策のあり方に関する精神保健的研究(pdfファイル)


この資料の中に、人口動態統計による10歳〜19歳の自殺率の推移をまとめたグラフがあります。(数字は人口10万人当たりの自殺者数です)





これによると、

  1. 1950年〜1960年
  2. 1986年
  3. 1998年以降

の3カ所に、その前後よりも自殺率が上昇している時期があります。一方、イジメ報道が多く行われるようになったのは1980年代後半以降ですが、その時期には自殺率の上昇は見られません。
そして先ほど上げた3カ所の上昇ですが、1950年〜1960年は左右のイデオロギー対立で社会が混迷していた時代、1998年以降はデフレ不況で就職状況が悪化していた時代であり、いずれも青少年から見れば未来が不透明で希望を抱きにくい時代であったと考えられます。また、1986年はアイドル歌手の岡田有希子が自殺してマスコミ報道が過熱し、その結果後追い自殺が相次いだ年です。このようにグラフ上で自殺率が顕著に上昇している3カ所とも他の理由で説明が可能なので、イジメとの関連性は薄いと思われます。


このように統計データではイジメと自殺の関連性を伺わせるものは確認できませんが、それではイジメと自殺は関連性がないのでしょうか?これについては2通りの解釈が可能だと思います。

  1. マスコミが言うようにイジメが自殺の大きな原因である。その場合、イジメは過去50年以上に渡って自殺の大きな原因であったため、グラフ上では顕著な上昇として現れなかったことになる。我々はイジメ自殺に対して、あまりにも長い間満足な対策を打たずに放置していた。
  2. イジメは自殺の真の原因ではない。真の原因は上に挙げたようなイデオロギー対立による社会の混迷、デフレ不況、マスコミの異常な自殺報道であり、イジメはせいぜい自殺のきっかけに過ぎない。

このどちらの解釈が正しいかは、別の角度でイジメと自殺の関連性を調べないと明らかにならないでしょう。ただ、どちらが正しいとしても、イジメ自殺は最近急増したものであるという説は否定できます。従って、マスコミでよく流されている、原因をゲームや携帯、インターネットなどの最近登場したメディアに求める議論は間違いであると思います。