Baatarismの溜息通信

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GSMを採用しなかったツケ

昨夜発表されたAppleの携帯電話iPhone、確かにAppleが満を持して出しただけのことはありますね。Engadget JapaneseにiPhoneの写真がたくさん載っていますが、これを見ると僕も思わず欲しくなってしまいます。



アップル iPhone発表 - Engadget 日本版


こうなるとiPhoneがいつ日本で発売されるかが気になりますが、このEngadget Japaneseの記事に気になる記述がありました。

北米での出荷は6月から。欧州は今年Q4、「アジア」は2008年。(携帯電話でいうときの「アジア」は=日本ではないことに注意)。

この「アジア」は2008年というところから日本でも2008年発売だと報じているところも多いですが、Engadget Japaneseはその説を否定しています。どうしてなのでしょうか?


記事でもあるように、今回発表されたiPhoneは「クアッドバンドGSM + EDGE」という規格を採用しており、日本で採用されているW-CDMA,cdmaOne,PDC,PHSのいずれでもありません。このGSMという規格は、日本と韓国を除く世界中の国で採用されているデファクトスタンダードな規格です。そのため、新しい機能の端末が発売されるときは、最初にGSMに対応することが多いようです。もし日本でもGSMが採用されていれば、少なくともこの「アジア」の中に日本も入っていたでしょう。



GSM - Wikipedia


さて、何故日本はGSM規格を採用しなかったのでしょうか?その理由を探してネットを検索していたところ、1998年に書かれたある記事を見つけました。この記事によると、GSMが日本で採用されなかった理由は、NTTと旧郵政省がGSMの日本進出を阻止したからだそうです。

 そんなことなら、初めから携帯電話の通話料を下げればむだな二重投資は避けられたはずだ。それなのになぜPHSが登場したのだろうか。ここからは萬晩報の推量である。1990年代はじめは世界的に携帯電話がアナログ方式からデジタル方式に移行していた時期でもある。アメリカではアナログ方式がかなり普及していたからあえてデジタルに切り替える顧客は少なかった。欧州とアジアでは導入時からデジタル方式が主流となった。日本も事情が同じだった。

 当時、勢いがあったのがイギリスで生まれたGSM方式だった。欧州で統一規格となり、アジアにシェアを伸ばしつつあった。実は郵政省とNTTが一番阻止したかったのがこのGMS方式の日本進出だった。GSM方式が入ってくるとまず、NTTの開発してきた技術が無駄になる。もう一つはGSM方式を導入すると日本での携帯電話料金が高い理由が説明できなくなる。郵政省は携帯電話の開発費を賄うため国際的に高い通話料金を設定していた。もうひとつ香港あたりで購入したGSM方式の端末を日本に持ち込まれるような事態になれば、郵政省による電気通信事業の体系が崩壊する。日本の電気通信事業はこの三つの困難を抱えていた。

 デジタル携帯電話の普及には通話料金の引き下げが不可欠だったが、ただちに引き下げればGSMが参入する可能性が強かった。この二律背反への答えとして、携帯電話とまったく異なるハンディーフォンの"規格"をつくり、新規格の携帯電話で価格引き下げを図ることになった。だからPHSは携帯電話の異種であるのに携帯電話とは名乗らせなかった。ジャンルが違えば価格体系が違っても不思議ではない。だから膨大な初期投資が必要であったにも関わらず、PHSは当初から格安の政策的料金体系でスタートできた。重ねていう電話料金は日本では認可制である。

 こうしてPHSは、みごとにGSM方式の日本上陸を波打ち際でうち砕いた。だがうまい話は長続きしない。結局、損をしたのはPHSへの設備投資で赤字の山をつくった電話会社と国境を越えたローミングの利便性を知らされていない国民である。



PHSが短命に終わりそうな本当の理由(HAB Reserch & Brothers Report)


日本でGSMが採用されず、国産技術であるPDCPHSだけが採用された結果、日本は国内キャリアとメーカーの独壇場となり、ケータイ鎖国と揶揄される状況になってしまいました。確かにこの状況は一時的には国内キャリアに莫大な収益をもたらしましたが、日本市場に特化した国内端末メーカーは海外では太刀打ちできず、またTreoBlackBerryのような海外メーカーのスマートフォンが使えなかったり(BlackBerryはようやく最近使えるようになったようですが)、国際ローミングが困難となるなどの不利益をユーザーにもたらしました。今回のiPhoneの件もその最新の例なのでしょう。


このように郵政省とNTTが自分たちだけの目先の利益のためにGSMの日本進出を阻んだことは、10年以上経った今でもユーザーに不利益を及ぼし続けています。iPhoneがいつ日本で使えるようになるのかとやきもきする人は、このような事情も知っておいた方が良いのではないでしょうか?