Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

日本の比較優位は摺り合わせにあるのでしょうね。

情報サービス産業に対しては,人月単価ベースのビジネスモデルがいけない,エンジニアを使い捨てている,高い単価でオフショアとどう戦うのか,とかいろいろなことがいわれているし,どっかに活路がないものかなとここ数年いろいろ調べたりもしたのだけれども,最近ふと別に情報サービス産業に明日がなくても構わないじゃないか,と考えるようになった.


結局のところ要件定義や仕様書に基づいてシステムをつくるという仕事は,ITが生む付加価値そのものを受け取るようにビジネスモデルができていないのだ.技術や製品・専門知識に希少性があった時代はそれでも儲かったが,ハードやソフト,それらに対する知識がコモディティ化した瞬間,サービスやソリューションそのものがコモディティ化することは避けられなかったのだろう.


僕はIT自体にはまだまだ可能性があると思うけれども,徐々にレントがIT製品を扱う企業から,ITを活用して新しい価値を生む側に移転するのは自然で避けがたい動きである気がする.そして彼らにとってソフトとは自分たちが使うためにつくるもので,仕様書通りかではなく,これまで以上に業務と一体で見直されるものになるのではないか.

情報サービス産業に明日がなくても構わない - 雑種路線でいこう


bewaadさんのところで紹介されていた記事なのですが、僕はこれを読んで、藤本隆宏氏が提唱している「インテグラル型(摺り合わせ型)」と「モジュラー型(組み合わせ型)」の概念がIT業界にも適用可能ではないかと思いました。
そもそも要件定義や仕様書を作る理由は、そこに書かれた部分をモジュールとして分離して開発するためなので、要件定義や仕様書が必要な開発はモジュラー型であると言えるでしょう。一方、要件定義や仕様書の作成が難しい開発というのは、他の部分との関連が強かったり、外部からの要求(言い換えれば関連性)が頻繁に変更されるものであり、そのような開発は摺り合わせが必要なインテグラル型であると言えるでしょう。
だから、この記事の中で南方司(id:mkusunok)氏が有望視している分野というのは、「インテグラル型のソフトウェア開発」という言葉でまとめられるのではないかと思います。


そのような「インテグラル型のソフトウェア開発」が具体的にどのようなものであるかを考えてみると、僕は大きく3つの分野に分けられると思います。


1つめは、日本が比較優位を持つ自動車や精密機械などの機械産業において、そのような機械をコントロールしたり、外部とのインターフェースを提供するソフトウェアです。このようなソフトは文字通りハードウェアとの摺り合わせが必要ですし、ハードの変更にあわせてソフトも改良していく必要がありますから、インテグラル型のソフトウェア開発と言えるでしょう。
2つめは、一般ユーザー相手のアプリケーションやサービスで、ユーザーの要求を細かく受け入れて改良を繰り返し、ユーザーやコミュニティと一緒に成長していくタイプのソフトウェアです。はてなmixiはこのタイプの典型的な例と言えるでしょう。この場合、摺り合わせの対象はユーザーの要望や好みということになります。
3つめは、企業内部において、企業の中核的な業務システムを構成するソフトウェアやシステムです。南方司氏が言うところの「ITを活用して新しい価値を生む側」において、その業務プロセスと摺り合わせを行うことで業務を最適化し、付加価値を生み出していくようなシステムです。このようなシステムは企業価値を生み出すために分離不可能な部分ですから、内製化されることが多いと思います。


この3つのいずれにも当てはまらない分野は日本において比較劣位であり、経済原則に基づいてインドや中国へと移転していくのではないかと思います。


だからbewaadさんが言うようにIT産業全体が日本において比較劣位にあるのではなく、「モジュラー型のソフトウェア開発」が日本において比較劣位にあるのだと思います。従って、日本のIT産業は「インテグラル型のソフトウェア開発」に特化すべきだというのが僕の考えです。