Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

米中経済戦争から軍事戦へ?

「ぺきん日記」さんによると、今中国のネットでは、『良き日を想い、中国人の破産を望まないために、ぜひ読んでいただきたいのです』というタイトルの、出所不明の「論文」が広がっているそうです。

「株で大儲けした、不動産で儲かった、などと喜んでいる人は、自分の墓穴を掘っているようなものです。」
と言う書き出しのこの論文を大雑把に要約すると以下のような内容です。

人民元の上昇についてはしゃいでいる中国人がたくさんいますが、アメリカのことを理解せずに喜ぶのは大間違いです。アメリカとの金融戦争は既に厳しい局面に入っているのです。
80年代末の日本のバブル崩壊、90年代末のアジア経済危機は、すべてアメリカ政府が引き起こしたものなのです。80年代後半の円高はアメリカの罠で、これが原因で日本は多くの財産を失うことになりました。アメリカは病みつきになって、10年後にアジア経済危機をも引き起こしたのです。
いまの中国の株価上昇も不動産の高騰もすべてアメリカの策略なのです。台湾海峡中央アジアに目を奪われている間に、アメリカとの経済戦争は既に始まっているのです。戦争の目的は、敵国の資源を叩き潰して、敵国民を奴隷の如く酷使して搾取することなのです。ソ連の崩壊すらも、アメリカとの経済戦争の結果と考えても良いでしょう。


アメリカは中国に莫大な人民元の発行をせまり、バブルの崩壊を誘発しているのです。
人民元は中国国内資産と同等の価値だけあれば充分なのに、悪意を持った外国投資ファウンドのために、既に10.6兆RMB(1.36兆US$、約160兆円)も余計に人民元を発行しています。人民元が15%上昇すれば、奴らは2,000億US$(約24兆円)儲かる計算なのです。
いっぽう、人民元が上昇すれば1RMB(約16円)のものが0.8RMB(約13円)で手に入れられるハズなのに、実際は給料以外のすべてが値上がりしています。北京、上海など大都市部での物価上昇は決して偶然ではなく、不動産バブルがインフレを招いている証拠なのです。住宅の購入費は、世界平均が年収の 5倍であるのに、中国都市部は10倍もするのです。
かつて外国人が中国でマネーロンダリングしていたのに、今や金を儲けた中国人が海外でマネーロンダリングしていますが、そんな状況に浮かれていて良いのでしょうか?


中国の指導者の対応はうまくできていません。中央政府がバブルをソフトランディングへと導くことは無理です。このままでは、外国資本の攻撃によって、中国経済は崩壊します。


国際環境は一層悪化・複雑化しています。中国はまず軍事戦と経済戦争の準備を進めるべきです。
人類の歴史上、戦争によって他国の財産を奪い取るということはよくある話です。中国人民の財産を守り、いずれ怒りうる軍事衝突に備えるため、中国は、陸・海・空、そして宇宙の軍備を増強すべきです。宇宙の非軍事化など、そもそも絵空事に過ぎないのですから。
現状では、軍事戦争に代わって経済戦争が、他国の財産を奪い取るための手段になっています。1997年のアジア経済危機がまさにそうでしょう。中国の政府と人民はこのことを忘れてはならないのです。既に外資は伏兵を中国に送り込んでいます。彼ら、つまりアメリカが中国の扉を押し開き、人民元を掲げて暴利を貪ろうとしているのです。


原文は具体的な事例や数値データを盛り込んで、説得力のある文章になっています。
そして、以下の文章で締めくくられています。

つまり、中国は苦しみを怖れてはならないのです。そして死をも怖れない強大な陸・海・空、そして宇宙の軍隊を整備して、戦争に備えなければなりません。
同時に国家を熱愛し、国際的な視野を持ち、金融のグローバル・スタンダードを熟知し、これらを「無敵軍隊」として経済戦争に立ち向かっていかなければなりません。
そうしてこそ、中国の安全と人民の財産を守ることができるのです。
良き日を想い、中国人の破産を望まないために、この文を最後まで読んでいただきたいのです。そして、バブルに浮かれる人民がすぐに目覚めるようにネットを通じて多くの人々に伝えられることを望んでいます。

中国:「バブルを崩壊させないために軍事力増強を」と主張する"論文"がネットで大ブレイク中!! : ぺきん日記 -中国/北京より- (元祖exblog版)


貿易や投資を国家間の競争とみなす考え方は、「国際競争力」という言葉が一般化していることでも分かるように、世界中に広まってますが、それが進むと、この「論文」のように「経済戦争」という認識となったり、経済問題の原因を全て他国の「陰謀」に求めようとする考え方になります。
日本でもバブル崩壊後は「マネー敗戦」という言葉が流行したことがありましたし、今でも経済問題の原因を「グローバリズム=アメリカ」に求める論者は多いです。
ただ、この中国の「論文」ではそれに留まらず、「経済戦争で失ったものを軍事戦で取り返そう」と言っているように思えます。ここまで来るとただの間違った経済認識だけではなく、安全保障上の問題ともなってしまいます。


考えてみれば1930年代の日本も、金本位制への旧平価での復帰という経済政策の失敗によって生じた不況を、中国の侵略という軍事的な手段で解決しようとしました。もし中国でバブル崩壊が起これば、それはアメリカの陰謀ではなく、中国自身の経済政策の失敗によるものになるでしょう。しかし中国でこの「論文」のような考え方が主流となってしまうと、経済の問題を軍事で解決するわけですから、正に当時の日本の二の舞となってしまいます。
中国がかつて自分を侵略した国の真似をするということになると、それはとんでもない皮肉になってしまいます。中国はかつての日本の轍を踏んでしまうのでしょうか?それとも過去の日本の失敗に学び、どこかで軌道を修正するのでしょうか?