Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

はてなブックマークは逆選択か?

最近、池田信夫氏のブログに対して、汚い言葉で誹謗中傷するはてなブックマークコメントがつけられていて、池田氏はそのようなコメントを「ネットイナゴ」と批判しています。
最新のエントリーで池田氏は経済学を援用して、以下のような批判をしていました。

梅田望夫氏によれば、はてなの取締役会で「ネットイナゴ問題」が話し合われているそうだ。私の問題提起を受け止めていただいたようなので、参考までにこういう問題について経済学ではどう考えているかを説明しておく。


(中略)


これは経済学で「逆淘汰」とよばれる、おなじみの問題だ。たとえば中古車の質に「情報の非対称性」があり、どれが不良品かわからないとき、消費者は不良品をつかまされるリスクを一定の確率で評価するから、不良品の確率が高いと中古車の価格は下がる。そうすると価値の高い(不良ではない)中古車は市場に出てこなくなって不良品だけが出回り、消費者も買わなくなって市場が崩壊してしまうのである。


同様にネットワークでも、イナゴが群がってS/N比が下がると、ブログの社会的評価が下がる。そうすると、社会的価値の高い記事を書く人にとっては、ブログで得られる社会的評価よりイナゴに食われるコストのほうが大きくなるので、質の高い記事は出てこなくなる。そうすると社会的価値の低い不良品ばかりが出回ってS/N比がさらに下がる・・・という悪循環によって誰もブログを読まなくなり、悪貨が良貨を駆逐するわけだ。私も、最近はヤフーの「ブログを含めない」という検索オプションを使っている。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/accdf9e44f13a20620e513865403fc91

経済学ではこの中古車のような例は「逆淘汰」というよりも「逆選択」という方が多いように思うのですが、このような事が起こる原因は、「情報の非対称性」を悪用して質の悪い商品を質がよいように見せかけようとする人が存在するからでしょう。


さて、このような逆選択の話は、池田氏が言うようにブログとはてなブックマークにも当てはまるのでしょうか?
まずブログに情報の非対称性があるかどうかですが、それはあると思います。ブログで何らかの意見を主張する場合、世の中にはその意見にとって都合の良い事実だけではなく、都合の悪い事実も存在するでしょう。そして作者によっては、自説に都合の良い事実だけをブログで取り上げて、都合の悪い事実は隠そうとする人もいるでしょう。このような都合の悪い事実の隠蔽は、ブログの作者と読者の間に情報の非対称性を産むと考えられます。
次にはてなブックマークのコメントが、このようなブログの情報の非対称性にどう影響するかを考えてみます。はてなブックマークのコメントには、作者の主張を支持するコメントや批判するコメント、さらに汚い言葉で誹謗中傷するコメントもあります。
作者の主張を支持するコメントは新たな情報を付け加えることがないため、情報の非対称性に影響を与えないでしょう。また、誹謗中傷するコメントには意味のある情報はありませんから、やはり情報の非対称性には影響を与えないと思われます。
一方、作者の主張を批判する意見は、隠蔽された都合の悪い事実を指摘しようとするため、情報の非対称性を緩和する効果があるでしょう。
だから、はてなブックマーク全体としては、情報の非対称性を緩和する効果があると考えられます。
従って、はてなブックマークによって「逆選択」や「逆淘汰」が起こるという池田氏の主張は、論拠が薄いと思います。


ただし、誹謗中傷するコメントは情報の非対称性には影響を与えませんが、作者がブログを続けようとするインセンティブや、新たにブログを始めようというインセンティブには影響を与えるでしょう。だからブログの書き手を少なくする効果はあるでしょうし、その結果ブログ全体の質が低下することもあるでしょう。
従って池田氏が「社会的価値の高い記事を書く人にとっては、ブログで得られる社会的評価よりイナゴに食われるコストのほうが大きくなるので、質の高い記事は出てこなくなる」と書いていることについては、「逆淘汰」と切り離しても成り立つと思います。何百件もの誹謗中傷コメントが押し寄せれば、ショックを受ける人は多いでしょう。


以上の議論をまとめると、作者の主張を批判する意見は情報の非対称性を緩和することでブログ全体に良い影響を与えるが、誹謗中傷するコメントはブログを書くインセンティブを引き下げてブログ全体に悪い影響を与えるということになります。
はてなはてなブックマークの改善を検討しているようですが、改善する際は批判的なコメントと誹謗中傷するコメントをきちんと分ける仕組みを構築して、批判と誹謗中傷を一緒に排除してしまわないことが重要だと思います。