Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

福田氏の長所と短所

安倍首相の突然の辞任表明で始まった自民党総裁選も明日が投票日。麻生派以外の全ての派閥の支持を受けた福田康夫氏が優勢という流れは変わっておらず、サプライズがなければこのまま自民党総裁、総理大臣になるでしょう。
ただ、この福田康夫という人物は、これまで首相候補とされていたにもかかわらず、あまりその人物像を伝える情報がなく、評価に困るところがありました。
そう思っていたところ、SAKAKIさんの「湖北庵通信(旧 浦安タウンの経済学)」*1より、「途転の力学」*2というブログを紹介してもらいました。このブログは福田康夫論を非常に詳細に論じられているのですが、その結論部分で次のようにまとめられています。

<まとめ:福田政権誕生は本当に「悪夢」なのか>


というわけで、
ようやく本題の答えを出して締めくくりたいと思うのですが、
果たして「福田政権」誕生は本当に「悪夢」なのでしょうか。

それに対する私の答えを
ご批判覚悟で述べさせて頂きたいと思います。


まず、内政面に関して。


福田さんは「小泉構造改革路線」の継承者であるため、
小泉路線を支持する人にとっては「悪夢」ではないが、
逆に、路線の転換を求める人にとっては「悪夢」である。


次に、外交面に関して。


福田さんは「超現実主義路線」を取るものと思われるので、
感情的には受け入れがたい部分も出てくるかもしれないが、
保守系の方々が考えているような
「亡国」の状況にはならないと思われる。
その点では「悪夢」ではないと考えていいのではないか。



政策面に関しては、このように考えております。


しかし、それよりも最大の難点なのは、
彼にリーダーとして必要な「決断力」がないことと、
これまでろくな「ケンカ」をしたことがないことにあると思われる。


それで本当に政策遂行が出来るのか、
「ケンカ」巧者の小沢さんに立ち向かうことができるのか。


ここに、はなはだ難があると考えられ、
「話し合い」という大義名分の元に、必要以上に
民主党に引きずれられてしまう可能性が高いという点では、
これこそが本当の「悪夢」なのかもしれません。

http://keyboo.at.webry.info/200709/article_20.html


この結論に至るまでに、3エントリー(見方によっては6エントリー)に及ぶ分析があるので是非読んでいただきたいのですが、僕がこのブログ記事を読んで思ったのは、次のようなことです。

  • 福田氏は一文字で言えば「冷」です。それが良い方向に出れば「冷静」、悪い方向に出れば「冷酷」となるのでしょう。雪斎さんやJSFさんが福田氏を評価していることや、アメリカや中国(北朝鮮もそうかも)で彼が評価されているのは、その冷静さや現実主義故でしょう。一方、1回目の小泉・金正日会談で拉致被害者家族を憤慨させたような対応は、彼の冷酷さ故なのでしょう。ただ、全体としてみれば、これは政治家として悪い側面ではないと思います。
  • しかしその冷静さの裏側として、福田氏は喧嘩や博打を好まない傾向があります。経験した主なポストも官房長官のみですし、これまで総裁選に出た経験もありません。彼は負ける戦をしようとしない人物なのでしょう。そのため、これまで逆境を経験したことがほとんどありません。これは政治家として非常に心配な側面です。


福田氏は冷静で現実的な人ですから、状況が与党に都合の良い時や、都合が悪くても想定の範囲内ならば、正しい対処ができると思います。しかし、(例えば安倍内閣年金問題や閣僚不祥事のように)想定していない問題が吹き出したり、野党に追い詰められてしまったときは、逆境の経験がないことがマイナスに働く可能性が大きいと思います。その場合、福田氏が正しい決断をできるのか、それとも安倍首相のように間違った決断をしてしまうのかは、そのときになってみないと分からないのでしょう。


それを防ぐためには幹事長ポストに喧嘩が出来る人を当てるのが良いと思うのですが、自民党屈指の喧嘩師である小泉前首相や麻生(前)幹事長を起用するのは難しいでしょう。そんなサプライズ人事ができたら福田氏を見直します。(笑)それに次ぐ存在としては二階氏か古賀氏といったところでしょうが、この二人にとって今回の幹事長ポストが魅力あるかというと、それも疑問です。いずれにせよ、幹事長に誰を起用するかは注目点ですね。


あと、このブログではこんな分析もしています。

さらにもう一つ興味深かったのが、
朝日の世論調査におけるこの部分。


【参考】次の首相、福田氏53%、麻生氏21% 本社世論調査(朝日)
http://www.asahi.com/politics/update/0916/TKY200709160117.html


次期首相に一番力を入れて取り組んでほしい政策(四つから選択)では
「年金」が32%と最も多く、以下、「経済格差」30%、「財政再建」19%、
「外交や安全保障」16%の順。
「格差」を挙げた人では、福田氏57%対麻生氏17%と
差がやや開くのに対し、
「外交・安保」を選んだ人は46%対40%と接近しているのが特徴だ。


ここからわかることは、国民は


「福田さんの方が『格差問題』に取り組んでくれる」


と考えているということです。


それともう一つこれ。


首相から続いてきた経済成長や競争重視の改革路線については、
「受け継いでほしい」が54%で、「そうは思わない」の36%を上回った。
福田氏を挙げた人は53%対40%、麻生氏を挙げた人は63%対27%。
総じて麻生氏のほうが安倍政権の継承色が強いと
受け止められているようだ。


これも非常に興味深い内容で、


「福田さんの方が小泉・安倍路線から転換してくれる」


ということを期待していることがわかります。

http://keyboo.at.webry.info/200709/article_18.html

<福田さんは小泉構造改革の継承者である>


次に、国民が恐らく誤解しているであろうことはこれ。


福田さんが麻生さんに比べて、


? 「格差問題」により取り組んでくれ、
? 「小泉・安倍路線」をより転換してくれる


と考えていることです。


3回目の記事で、麻生さんと福田さんに違いについて考えましたが、
あのときの私の推論が当たっているとすると、
事実は全く逆ですね。


【参考】ポスト安倍と政界再編の可能性を探る(その2:福田と麻生の違いは何か?)
http://keyboo.at.webry.info/200709/article_16.html


これは以下の発言を見ても解る。


平成21年度までに基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に
引き上げることになるが、今の財政状況でカネをひねり出すのは難しい。
政経費を節減する工夫をしなければならない。
消費税も含めて手段を考えていくのは当然必要になってくる。


公共事業の3%減と地方経済の問題は、悩ましい問題だが、
地方にもがんばってもらい、その程度の協力はお願いしていく。


彼の真意はまさにここに表れている。
「カネ出さないよ」。
そして、その「ホンネ」は彼の公約にも見て取れる。


【参考】「自立と共生への改革を」 福田氏立会演説会の要旨
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/84870/


「カネは出さんが自立せえよ」と。


つまり、福田さんは
「経済政策を修正する必要があるとは考えていない」
ということがわかります。

【参考】「新福田ドクトリン」策定を
http://naigai.cside6.com/kiji/tokyokouen/fukuda.htm

格差があると言えばある、ないと言えばないということではないか。あえて問題にするとしたら、東京と地方のギャップはものすごい。都市対地方というのは日本の政策としてこれからの大きな課題だ。

また正規雇用者と非正規雇用者の(賃金の)ギャップが固定化しては大変だ、と言われている。だが人口は減る、労働生産力も減る、団塊の世代が一斉に退職する。そういう時代になった時、日本の企業は人を確保しなければいけないというマインドになるのではないか。


これは一体何を意味するのか。


それは、


「福田さんこそが小泉改革の継承者である」


ことを意味することに他なりません。


だからこそ、小泉さんは福田さん支持を早々と表明したのでしょう。
もともと派閥が同じだったからという理由だけではないと思います。


【参考】小泉前首相も福田氏支持、応援「先頭に立つ」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070914it02.htm


もし、小泉構造改革路線を否定する人物として
福田さんを望んでいるというのであれば、
国民は大いなる誤解をしていると思われます。

http://keyboo.at.webry.info/200709/article_19.html



というわけで、国民は福田氏に構造改革の是正を望んでいるのに、福田氏自身は構造改革の継続をするつもりであるということになります。僕から見ればむしろ麻生氏の方が地方対策などの格差是正策に積極的という印象があるのですが、麻生氏は逆に構造改革派だとみられているようですね。
ということは、やがて誤解が解けたとき、格差是正を期待した最初の支持者は離れて行くのでしょう。その代わりに構造改革支持の層を味方につけられるかですが、この層は小泉支持の色合いが強いので、小泉氏とは人間性が正反対の福田氏を支持してくれるかは未知数でしょうね。また、国民だけでなく古賀氏、谷垣氏、山崎氏、加藤氏なども福田氏を誤解していることになりますので、支持率が落ちれば党内もゴタゴタしてくるのでしょう。逆境の経験がない福田氏はこれにどう対応するのでしょうか?


こうやって考えると、福田氏は首相には簡単になれそうですが、なった後は内政面で問題を抱えるのでしょう。このような福田内閣の姿が、安倍内閣の姿にダブって見えてしまうのは僕だけでしょうか?w