Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

インフレか、消費税増税か

参院選直前の7/26の記事で、自民党参院選に負けたら大増税になるというかみぽこさんの予測を紹介しました。


「かみぽこ政治学」的に参院選の争点を検証する。(4) | かみぽこぽこ。 - 楽天ブログ


その後、消費税増税論者の与謝野馨氏が官房長官となりましたが、安倍政権の崩壊と共に地位を失いました。これで少しは増税への流れも弱まるかと期待していたのですが、残念ながら政府・自民党の消費税増税への流れは強まるばかりのようです。かみぽこさんの慧眼には恐れ入るばかりです。


内閣府が10/17の経済財政諮問会議に出した将来試算も、そんな流れを反映した物でしょう。10/19の日経新聞の社説では、この試算を次のように説明しています。

 試算が示す財政の将来像は厳しい。政府は昨年、11年度までに基礎的財政収支を黒字にする目標を掲げた。毎年の経済成長率が名目3%(実質2.4%)で 14兆円余りの歳出削減をすれば増税せずに達成できるが、名目成長率が2.2%(実質1.6%)に落ち、毎年1兆円の新たな歳出を上積みした場合は6兆 6000億円の増税が必要になる。


 実態は後者のシナリオに近づきつつある。国際通貨基金IMF)は最新の世界経済見通しで08年の日米欧の成長率予測を春時点から下方修正し、日本は実質1.7%に鈍化する。

社説1 財政立て直しの基本は成長と歳出削減(10/19)

政府としてはこれを根拠に消費税増税はやむを得ないという結論に持って行きたいようですが、僕は別の考え方をしました。「名目成長率が2.2%(実質1.6%)」ということは、インフレ率を0.6%と予測していることになりますが、消費者物価が1%の下方バイアスを持っていると考えれば、政府はデフレが継続するとの予測を前提として、増税を訴えていることになります。
このサイトにも貼っているリフレ派バナーにあるような2%のインフレが実現すれば、実質成長率が1.6%にとどまっても名目成長率は3.6%となります。
経済成長率が名目3%で14兆円余りの歳出削減とした場合と、名目成長率が2.2%で毎年1兆円の新たな歳出(4年で4兆円)と6兆6000億円の増税、つまり差し引き2兆6000億円の増税をした場合が、どちらも基礎的財政収支を黒字にする目標を達成するわけですから、名目成長率が0.1%上がれば約2.1兆円の増税と同じ効果があることになります。
ということは、名目成長率が3.6%であれば、あと1.5兆円の歳出削減をすれば目標を達成できることになります。もう少しインフレ率を高めれば、名目成長率も高くなりますから歳出削減も不要になるでしょう。


また、この社説でも指摘しているように、増税をすれば成長率は低下して税収も減少しますから、その分を補うためにはさらなる増税が必要となり、悪循環に陥ります。従って、増税で目標を達成しようとすれば、さらに多額の増税が必要になるでしょう。

 増税幅を広げて財政赤字を埋めるようでは、実体経済を冷やして税収があがらない悪循環に陥る。内閣府試算によると、現在の医療・介護サービスの水準を変えずに政府の債務残高を減らすには、25年度に8兆―29兆円の増税が必要という。消費税1%分の収入を2.5兆円とすれば最大11%の増税に相当する。大増税のもとで名目2%成長を想定するのは非現実的だろう。

社説1 財政立て直しの基本は成長と歳出削減(10/19)



これに対して日本は需要不足ですから、2%程度のマイルドなインフレ率では成長率を低下させることはないでしょう。そのため、インフレ率を高めても悪循環には陥りません。


このように考えると、基礎的財政収支を黒字にするためには、政府が言う消費税増税以外に、リフレ派が主張するインフレターゲットがあることになります。今の政府・自民党では「インフレ政策は悪魔的な政策」と主張する人が大きな力を持っているので、インフレターゲットという選択肢があることを国民に気づかせたくはないのでしょうが、消費税増税を批判する野党側がインフレターゲットを主張すれば、衆院選に向けた大きな争点を作ることができるでしょう。
過去30年ほどの歴史を見ても、消費税(もしくはその前身の一般消費税や売上税)の増税を争点にした選挙では、野党側が勝利を収めてきました。先の参院選では民主党年金問題を取り上げることで国民の怒りをかきたてて勝利しましたが、次の衆院選で同じ問題を争点にするのは簡単ではないでしょう。ここは政府・自民党で消費税増税論議が進んでいることを奇貨として、民主党インフレターゲット、リフレ政策で消費税増税に対抗して、国民の支持を得る、そんな戦略を考えても良いのではないでしょうか?
民主党の小沢代表はインフレターゲット政策に批判的だと聞いたことがありますが、今は政権交代への千載一遇の好機ですから、その考え方を変えてリフレ政策を採用した方が良いと思います。きっと、民主党に大きな利益をもたらすと思うのですが。