Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

民主党の「空気」の研究

額賀大臣が守屋元防衛事務次官の接待に同席していたとして、民主党が「証人喚問の全会一致」慣例に反して証人喚問を議決した件は、与党のみならず他の野党や世論、マスコミ(左右を問わず)の批判を受けた結果、証人喚問見送りとなってしまいました。

このような形での証人喚問は実現したとしても、議院証言法の規定により偽証罪での捜査機関への告発ができないという指摘もあります。

 野党が単独で額賀福志郎財務相らの証人喚問を議決した参院財政金融委員会のようなケースでは、証人喚問の細則を定めた議院証言法の規定が壁となり、事実上、強制力を伴う喚問にならない「弱点」がある。

 証人喚問は、任意の出頭による参考人招致と異なり、(1)証人の偽証に十年以下の懲役(2)正当な理由なく出頭しなかった場合は一年以下の禁固−などの罰則が定められている。

 ただし、処罰を求めるには、委員会に出席した議員の三分の二以上で議決して捜査機関に告発することが必要だ。

 参院財政金融委は、委員二十五人のうち野党が十四人(民主党十三人、共産党一人)で、三分の二に達していない。仮に額賀氏が喚問に出頭しなかったり、虚偽の証言をしたりした場合でも、与党委員が反対すれば告発できない。ほかの参院の委員会も同様だ。

 一方、自民、公明両党で三分の二以上を占める衆院では、与党単独で決めた証人喚問でも、証人を告発できる。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2007113002068524.html


雪斎さんは「馬鹿の四乗」という言葉を使って、民主党の行動を批判しています。

 「大本営・総軍(南方軍)・方面軍・第15軍という馬鹿の四乗がインパールの悲劇を招来したのである」。
 戦時中、インパール作戦時の第三十一師団長であった陸軍中将・佐藤幸徳が遺した言葉である。


 参議院民主党が「全会一致」の慣例を破って額賀福志郎大臣の証人喚問を議決したことには、雪斎は戦慄を覚えた。


(中略)


 「馬鹿の四乗」という言葉は、佐藤中将における「陸軍の雰囲気」批判である。往時の陸軍には、インパール作戦の失敗を口に出す雰囲気はなかった。
 今、民主党に、「とにかく、自民党の足を引っ張れ」という雰囲気があり、その雰囲気の中で現在の事態が続いているのであれば、幾多の民主党議員が「馬鹿の四乗」を構成するかもしれない。民主党の中から、「いい加減にしろ」という声は出てこないのであろうか。

馬鹿の四乗: 雪斎の随想録

結局、「へタレた」わけである。


 □ <額賀氏喚問>見送りで参院与野党合意 江田議長の要請で
                     11月30日19時4分配信 毎日新聞


(中略)


 昨日のエントリーでインパール作戦時の佐藤幸徳中将の言葉を引き合いに出しながら、額賀証人喚問を急いだ民主党の対応に噛み付いていてみた。それが一転して、このざまである。この状況は、ミッドウェー海戦時の敗北を招いたとされる「「雷爆換装」の遅延の類であろうか。それとも、レイテ海戦時の「栗田艦隊・謎の反転」と同じ謂いであろうか。要するに、額賀証人喚問も、「とりあえず、やってみたかった」というレヴェルの話でしかないのであろう。


 民主党の対応を観察すれば、そこに浮かび上がるのは、度し難いほどの「戦略性の欠落」である。将棋の名手は、何十手も先を読みながら指していくわけであるけれども、今の民主党は、何手先を見ているのであろうか。おそらくは、この前言撤回によって、「証人喚問の全会一致」慣例が再確認されたわけであるから、民主党にとっても、「証人喚問」を政局運営のカードとして使うのは難しくなったと視るべきであろう。これを文字通りの「自縄自縛」という。

馬鹿の四乗・続: 雪斎の随想録


このような「とにかく、自民党の足を引っ張れ」という雰囲気や、「戦略性の欠落」は僕もあると思います。
そして、民主党がそのようになってしまったきっかけは、先月の連立協議→小沢辞任劇→辞任取り消しという一連の事件だったのだと思います。
あの事件の結果、それまで民主党を率いていた小沢氏はリーダーシップを失ってしまいました。民主党はリーダーなき政党になってしまい、リーダーによって求心力を保つことができなくなってしまったわけです。
また、民主党は党内の意見に大きな幅があるため、政策で結集することもできません。自民党のように「与党のうまみ」で求心力を得ることもできません。
しかし一部が民主党を飛び出たとしても、参院与野党逆転をするのに必要な数を結集することは困難でしょう。そのため、結局民主党を維持するしかありません。
そのような状況で最も手っ取り早く求心力を得るために、自民党を徹底的に敵視する必要があったのでしょう。つまり、組織維持のために自民党という「敵」を必要としているのが、今の民主党なのだと思います。
しかし、ここで自民党を敵視している理由は、もはや政権交代という外向きの目標のためではなく、組織維持という内向きの目的のためです。政権交代を目指すための反自民路線なら効果的な戦略は必須でしょうが、組織維持のための反自民路線ならただ自民党を攻撃し続けていれば求心力を得られ、目的を達することになるので、戦略は必要ありません。
その結果、「とにかく、自民党の足を引っ張れ」という雰囲気が生まれ、喚問の根拠となる事実の確認を怠ったり、証人喚問の実効性を確認せずに、証人喚問に突っ走るということになったのでしょう。そしてそのような愚行の報いを受けてしまったわけです。


考えてみれば、第二次大戦のときの日本軍もアメリカとの戦争を有利にすることよりも、国内や軍内部の権力闘争を有利にするようことを優先していたように思います。雪斎さんが民主党を当時の日本軍に例えたのも、そのような内向き優先の体質が共通していたからなのかもしれませんね。