Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

財政政策なしでインフレ期待を生み出せるのか?

このブログのタイトルはかんべえさん(吉崎達彦氏)の有名なサイト「溜池通信」をもじったものなのですが、そのかんべえさんが『諸君』の11月号の東谷暁氏と松原隆一郎氏の鼎談で、リフレ派を批判する発言を行っていました。ただ、その時の発言を読んだ限りでは、かんべえさんのリフレ派批判が東谷氏と松原氏の批判とごちゃ混ぜになってしまい、かんべえさんの批判の理由がよく分かりませんでした。
そのかんべえさんと親交があり弟子でもあるHacheさんのブログ「寝言@時の最果て」の今日の記事を見たところ、かんべえさんのリフレ派批判の理由が書かれていると思われるところを見つけました。

 なお、主として金融政策を通して物価に関する期待に働きかける政策に関しては、3人とも言いたい放題でした。私などは、日銀が「改心」して金融政策を転換すればよいだけなら、とっくに言われなくてもやっているでしょと居直りました。だいたい、この種の主張をする方たちは、政策の有効性に関する批判に自らの有効性の説明には甘く、効果がないということを説明する立証責任を負わせるという点でアウトかなと。さらに言えば、2002年頃のような状態で金融政策が「デフレ脱却」にコミットするなら、財政政策も動員するのが当然でしょと。本当に、「デフレスパイラル」一歩手前なら、マネタイゼーションで確実にインフレ期待が生じるところまで行うというのなら、理解しますが、財政政策なしでも解決するのであれば、ゼロ金利から量的緩和をやった時点で期待が変化するだろうと。それでダメなら、財政政策をミックスするというのが、筋というもの。3人で話をしながら、そんな話をしておりました。

寝言@時の最果て: 気分しだいの物価よもやま話

この文章によると、かんべえさんやその弟子の先崎さん、Hacheさんは、リフレ派が財政政策なしでデフレ脱却できると主張していると考えているようです。


このような財政政策なしでは人為的にインフレを起こすことはできないのではないかという疑問は、実はリフレ派の中にもあります。ネットでも、以前svnseedさん、bewaadさん、fhvbwxさんがこの件について論じています。svnseedさんのエントリでは、ネットにおけるリフレ派の代表的な存在である銅鑼衣紋(ドラエモン)さんが反論してますね。

あるいは「金利がゼロならインフレにコミットして国債を買えばいいじゃない」の逆襲について。って例によってこんなことはきっと銅鑼衣紋さんあたりがとっくにどこかに書き込んでいることだとは思うのですが、思いついちゃったのでせっかくだから書いてみます。

金利がゼロであっても、国債等を購入し続けることによりデフレから確実に脱却できる方法としてよく挙げられるものに、「バーナンキ背理法」というものがあります。「エコノミストミシュラン」(ASIN:4872337956)115ページより引用すると、「バーナンキ背理法」とは(読みにくいので改行入れてます);

中央銀行国債を含む資産を買ってもインフレが起きない」と仮定しよう。この場合、すべての市中国債を買い取っても、さらには政府が発行する新発国債をすべて引き受けても、さらにはあらゆる資産を購入してもインフレにならないとなるため、たとえば財政支出をすべて中央銀行による国債購入代金でまかない無税での国家運営が可能となる。

しかし、この結論は誤り。従って「中央銀行がどれだけ国債や資産を買ってもインフレが起きない」というそもそもの仮定が間違っていることになり、中央銀行が市中の国債流通高をネットで減少させる規模で国債購入を継続する限り必ずインフレが発生することが証明される。

これは、バーナンキがゼロ金利のもとでも金融政策がリフレ政策として有効であることの説明で用いた。ただ、この説明を「バーナンキ背理法(reductio ad absurdum)」と名づけ、流通させたのは、日本のネット社会である。

要するに無税国家というのはあり得ないので、中央銀行国債等を買い続けていればいずれは必ずインフレになるということが確実に言えるよ、と言うことです。

ところがここでは「あり得ないこと」の例として無税国家を想定しているので、その実現には財政政策が絡む必要があります(減税や税の廃止も財政政策なので)。そのため、「バーナンキ背理法」によれば中央銀行は単独ではインフレは起こすことはできない、という見解があります。

しかしこれは、国債残高がたっぷりあり、かつ既発債がすべてなくなり国債利払い費がゼロになったとしても税収で財政支出を賄えないため毎年国債を新規に発行せざるを得ない、つまりプライマリーバランスが赤字の日本のような国に関しては、正しくありません。この点を明確に示すために、以下「バーナンキ背理法」を少し変更して、整理した形で示してみます。


1. 中央銀行国債等の資産を購入し続けてもインフレになることはない、と仮定する

2. すると、中央銀行は既発国債をすべて買い切り、その後は新発国債を買い切り続けることができることになる

3. つまり、これは政府支出を中央銀行がシニョリッジ(貨幣創造)によりファイナンスし続けることができることを意味するが、これは経験的にあり得ない

4. したがって、1の仮定は誤りであり、中央銀行国債等の資産を購入し続ければインフレになることが証明された


これは要するに、無から有は生み出せない、つまりシニョリッジでファイナンスされた政府支出はインフレ税で徴収されるという、高インフレ国ではどこでも見られる普通の現象を言っているに過ぎません。

そして注目すべきなのは、ここでは政府の追加的なアクションは全く仮定されていないことです。つまり、中央銀行の行動のみでインフレを起こすことが可能なわけです。協調的な財政政策の存在が前提されていない、という点で、これを『「バーナンキ背理法」のweak form』と呼びたいと思います。


(中略)


銅鑼衣紋
2005/12/12 13:56


お呼びなのできますた。

趣旨は結構なんですが、あっち側の言い分とはマッチしてません。あっち側は、「財政のリカーディアンレジーム」を仮定してます。つまり、差し当たり(それが10年でも20年でも)プライマリー赤字が続いていても、永久
の未来まで考えれば結局は国債の市場価値=プライマリー「黒字の」現在割引価値だからです。要するに、目先は財政破綻しそうな勢いで赤字が増えているが、政府は最終的にはプライマリー黒字を出して破綻を回避するものであると仮定しているんですな。だから、そういう市場の期待がある限りは「弱い背理法」は成り立たないわけです。そのコロラリーとして、デフレをとめたけりゃ(それが厚生改善的かどうかは別にして)リカーディアンではないことが重要ということになり、やっぱり財政であって金融ではないという筋書きになる。これ以上の説明と反論は営業上(ry

svnseeds’ ghoti! - 「バーナンキの背理法」のweak form、あるいはプライマリーバランスが赤字の国においては中央銀行が単独でインフレーションを起こすことが確実に可能である件について

実はwebmasterも「『バーナンキ背理法』によれば中央銀行は単独ではインフレは起こすことはできない」という見解だったのですが、このsvnseedsさんのエントリを機に考え直してみたところ、ひどい間違いをしていたように思い至りました。


svnseedsさんの解は直接ご覧いただくとして、webmasterの別解は次のとおりです。


「『バーナンキ背理法』においては『無税国家が可能』であるのが矛盾なので、現に無税国家とするかどうか=減税を行うかどうかはどうでもいい。言い換えれば、『可能』であることを示せばそれで足りる」


これも間違っているようでしたら、ぜひともお導き下さい>読者諸賢

archives of bewaad institute@kasumigaseki(2005-12-13) バーナンキの背理法の真意がやっとわかった、かな?

昨日のエントリーの続きです。プライマリーバランスが赤字の国においては中央銀行が単独でインフレーションを起こすことが確実に可能について。

基本的なアイデア

前提は今の日本。無税国家が実現した後までバーナンキ背理法の弱形式を拡張。(経済学的に意味があるのかまでは知らないけど、超素人のおもちゃとしては面白い)

デフレ下で政府の財政政策が国債発行残高の収束条件を満たしていない場合、無税国家が可能であっても国がデフォルトしなければインフレは可能

限定条件ですが、バーナンキ背理法が無税国家が不可能じゃなくても成立することに気がつきました。おかしかったら指摘してください。というかどっかおかしいはず。
デフレ下ですから、普通ドーマー条件を満たさず、国債発行残高は発散することになります(デフレのまま国債発行残高を収束させる現実的な方法が世の中にあるのなら教えて欲しいです)。そこで、国債発行残高が発散することを前提にします。今、「中央銀行国債を買い続けてもインフレが起きない」と仮定します。この場合、すべての市中国債を買い取っても、さらには政府が発行する新発国債をすべて引き受けてもインフレにならないとなるため、政府の国債発行残高が発散するため、日銀の国債を買い取るための通貨供給量も当然発散します。しかし、ものの価値は資源が有限である以上、物価の合計は有限の値です。従って、貨幣発行量と物価の比も発散します。これはどうみてもインフレです。本当にありがとうございました。仮定から導かれた結論は仮定に矛盾します。ゆえに仮定は誤りです。
最後のところがうまく表現できないので、そこだけ訂正してもらえれば正しいかどうか分かる気がします。

Ver2.0

svnseedsさんのご指摘を受け修正。
今、国債発行残高が発散している状況において中央銀行国債を買い続けてもインフレが起きないと仮定します。この場合、すべての市中国債を買い取っても、さらには政府が発行する新発国債をすべて引き受けてもインフレにならないとなるので、政府の国債発行残高が発散するため、日銀の国債を買い取るための通貨供給量も当然発散します。しかし、ものの価値は資源が有限である以上、物価の合計は有限の値です。従って、貨幣発行量と物価の比も発散します。これはどうみてもインフレです。本当にありがとうございました。仮定から導かれた結論は仮定に矛盾します。ゆえに仮定は誤りです。
ところで、デフレ下ではドーマー条件を満たせないので、国債発行残高は通常発散します。従って、デフレ下では通常中央銀行単独でインフレを起こすのは可能になります。

教訓

デフレ下では政府は有効な財政政策を採らなくても中央銀行によって長期的にはインフレにすることが出来る。しかし、プライマリーバランスの均衡を目指してはいけない。

よくわからないところ

オリジナル「バーナンキ背理法」のインフレというのはインフレデフレのインフレじゃなくてインフレ圧力に近い気がする。原文に当たってみた方が良いのかな。【そこまでする気もないのにfhvbwx】
貨幣発行量と物価の比が発散しているという状態は直感的にはどう見てもインフレですが、本当にインフレと呼んでしまって良いのだろうか。【手元にまともな経済学の教科書がないfhvbwx】
というか中央銀行国債を買うとインフレ圧力が発生するって言うのはどう見てもトリビアルにしか見えないんですが。

バーナンキの背理法もどき - 節電対応中


以下は僕の考えですが、これらの説明により、財政政策なしでも(金融政策だけでも)人為的にインフレを起こせることは分かります。ただこの場合、どこまで中央銀行国債を買い続けるとインフレが発生するかがはっきりしないので、金融政策だけでインフレ期待を発生させることができるという論拠としては弱いように思います。


ただ、リフレ派の主張の中にはインフレターゲットだけではなく政府と中央銀行のアコードも含まれているので、インフレターゲットを達成するためには、中央銀行だけではなく政府も必要な政策を取らなければならないということになります。だから必要な場合は財政政策も動員するべきだという主張は、リフレ派の主張の中に含まれていると思います。
だから「リフレ派が財政政策なしでデフレ脱却できると主張している」というのは、かんべえさん達の誤解ではないかと思います。