Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

パキスタンの偉大な歌手

あけましておめでとうございます。

普段は経済や政治について書くことが多いこのブログですが、正月と言うことで、今日はちょっと違った話題を書いてみたいと思います。

私が普段よく見ているブログでは、時々クラシックの話題が出てくるのですが、残念ながら僕はクラシックは聴かないので、話題について行けません。w
ただ、若い頃にワールドミュージックにはまったことがあって、世界中の色んな音楽を聴いていたので、その中からある偉大なミュージシャン*1を紹介したいと思います。


その名前は「ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン」(Nusrat Fateh Ali Khan)と言います。パキスタンの伝統的なイスラム教の宗教音楽「カッワーリー」の歌い手でした。残念ながら1997年に48歳の若さで亡くなったのですが、今なおパキスタンのみならず南アジアにおける最も偉大な歌手の一人でしょう。

ヌスラト・ファテー・アリー・ハーン(نصرت فتح علی خان, Nusrat Fateh Ali Khan, 1948年10月13日 – 1997年8月16日) は世界的に著名なパキスタンのミュージシャンで、イスラム神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリーの歌い手である。日本ではヌスラット・ファテ・アリ・ハーンと表記されることが多い。
(中略)
ヌスラト・ファテー・アリー・ハーンは西洋の多数の聴衆の前で公演した南アジアで最初の歌手のひとりでもある。 ピーター・ガブリエルとの交友とともに、マーティン・スコセッシ監督の映画『最後の誘惑』のサウンドトラック『パッション』(1988年)を含むいくつかのアルバムやサウンドトラックに参加し、これらは西洋や日本での知名度を上げるのに役立った。 2 枚のリミックス・アルバム (『ナイト・ソング』1994年, 『スター・ライズ』1997年)がカナダのギタリストマイケル・ブルックによってプロデュースされており、1995年にはティム・ロビンス監督の映画『デッド・マン・ウォーキング』のサウンドトラックにおいてパール・ジャムのエディー・ヴェダーと共演している。 ピーター・ガブリエルのリアル・ワールド・レーベルからは 5 枚の伝統的な演奏のアルバムがリリースされている。
日本においては、 1987年に国立劇場で初来日公演を果して以来、1992年のウォーマッド横浜などでいくどかの公演を行った。 また、1996年には、福岡市に招かれ、第7回福岡アジア文化賞の芸術・文化賞を受賞した。
1997年、腎臓移植を受けるためにパキスタンからロサンジェルスへと向かう途中ロンドンにおいて倒れ、8月16日に 48 歳で死去した。 遺体はファイサラーバードへと送られ、参列した数千の人々が狂乱する中、葬儀と埋葬が行われた。

ヌスラト・ファテー・アリー・ハーン - Wikipedia

カッワーリー(qawwali)はイスラム神秘主義(スーフィズム)と深い関係にある宗教歌謡である。

用いられる言語はペルシア語、パキスタンの国語であるウルドゥー語のであるが、北インドではカッワーリーの創始者といわれるアミール・フスローの用いた古ヒンディー語が、パキスタンではパンジャービー語が好んで歌われる。

演奏される場所は主にダルガー(聖者廟)の中である。ここ行われるカッワーリーの集会は木曜日の晩や聖者のウルスのとき最高潮に達する。一般民衆は一歩でも神に近づこうとカッワーリーを聞きながら、真実の愛の陶酔にひたろうとしている。カッワーリーはスーフィズムの理想を追求する神聖な音楽なのである。

国の大部分がムスリムであるパキスタンではカッワーリーは全国的大衆音楽として圧倒的人気を博しており、カセットをバザールで手に入れられる他、マスメディアでも頻繁に流されている。

カッワーリー - Wikipedia

イスラム神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリー」などと言われると堅苦しいように感じてしまうのですが、実際にはパキスタンやインドのムスリムの間で人気がある大衆音楽であり、文化や宗教の壁を越えて欧米や日本でも多くの人を魅了した音楽です。楽器構成は基本的にはハルモニウムという小型の手回しオルガンとタブラ(パーカッション)、それに数人から十数人の人の手拍子と声ですが、時にはその他にも楽器が入ることもあります。
ヌスラットはその第一人者であり、その豊かな声が生み出すパワーと緊張感は、一度聴くと忘れられなくなります。その体験は、ナチュラルトリップと言っても良いくらいかもしれません。


死語10年も経っているのでCDも入手しにくくなってしまっているのですが、日本ではJVCから出ているアルバムが入手しやすいでしょう。まずはこれらのアルバムを聴くことをお薦めします。

法悦のカッワーリー(1)

法悦のカッワーリー(1)

法悦のカッワーリー(2)

法悦のカッワーリー(2)


奇しくもヌスラットが亡くなった後、パキスタンは軍事クーデターやアメリカの対テロ戦争の影響で混乱し、イスラム原理主義の影響が強まっています。イスラム原理主義コーランの教えに従って歌舞音曲を禁止する傾向があり、かつてイラン革命の時は多数の歌手がアメリカなどに亡命しましたし、1990年代のアルジェリアでは当時人気があった大衆音楽「ポップ・ライ」の歌手がテロの対象となって、多くの歌手がフランスに亡命しました。もしパキスタンイスラム原理主義国家となれば、カッワーリーは宗教的異端として弾圧され、音楽家達はイギリスやインドなどへ亡命を余儀なくされるかもしれません。
僕はヌスラットのファンの一人として、パキスタンにそんな時代が来て欲しくはないですね。

*1:正確には西洋の「ミュージシャン」という概念には収まりきらない存在なのですが。