Baatarismの溜息通信

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オーストラリアは南極条約を無視するのか

 反捕鯨派の米国の環境保護団体「シー・シェパード」の活動家2人が南極海日本鯨類研究所の捕獲調査船、第2勇新丸に侵入して身柄を拘束された事件で、政府は16日、2人に略奪などの意図は見られないと判断して、釈放する方針を決めた。第2勇新丸の近くで待機しているシー・シェパードの船に電話などを通じて、第2勇新丸まで2人の身柄を引き取りに来るよう求めているが、応答はないという。

 水産庁などによると、拘束された豪州人(28)と英国人(35)の活動家2人は、それぞれ調査捕鯨の中止を求める抗議文を携え、犯罪目的で船に侵入したわけではないことを強調し、「抗議文を手渡しに来た」と説明。一時的に2人をロープで縛ったが、抵抗しなかったため、縛りを解いて船室で2人を保護したという。抗議文では豪州の連邦裁判所が豪州政府の許可のない日本の調査捕鯨の操業停止を命じたことを指摘しているという。

http://www.asahi.com/international/update/0116/TKY200801160073.html

 水産庁は15日、南極海を航行中の日本の調査捕鯨船が米国の環境保護団体「シー・シェパード」の活動家から瓶を投げつけられるなどの妨害行為を受け、船内に乗り込んできた男2人を不法侵入の疑いで拘束したことを明らかにした。

 妨害行為による身柄拘束は1987年に調査捕鯨が開始されて以来初めて。同庁は2人の身柄の取り扱いについて、外務省などと協議している。

 同庁によると、2人は日本時間の15日、ミンククジラなどを捕獲していた「第2勇新丸」(747トン)に大型のゴムボートで近付き、スクリューにロープを巻き付けたり、臭気を放つ液体の入った瓶を投げつけたりした。乗組員にけがはなかった。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080115i318.htm



日本の調査捕鯨船に妨害行為を行った上、乗り込んで逮捕された環境保護団体「シー・シェパード」の活動家は、「豪州の連邦裁判所が豪州政府の許可のない日本の調査捕鯨の操業停止を命じたこと」を抗議の根拠としているようです。
この判決ですが、オーストラリアが南極の一部の領有を主張していて、南極沿岸に排他的経済水域を設定しており、その海域をクジラやイルカの「保護海域」としているため、日本の調査捕鯨は違法だという論理だそうです。

 【シドニー=高佐知宏】オーストラリア連邦裁判所は15日、豪政府が南極海などに設定した「クジラ保護海域」での日本の調査捕鯨の差し止めを命じた。「保護海域」は2001年に豪州の排他的経済水域でのクジラやイルカ保護のために導入されたものだが、豪州が領有を主張する南極沿岸も含まれる。日本の調査捕鯨は主に南極沿岸で実施されており、日本外務省は「いかなる国の南極領有も認められず、判決は受け入れがたい」としている。

 命令は動物保護団体「ヒューマン・ソサエティ・インターナショナル」が調査捕鯨を請け負う共同船舶を相手取り、捕鯨差し止めを求めて04年に起こした訴訟に基づくもの。

 連邦裁は05年に当時のハワード政権からの政府間での解決が望ましいとの意見書を踏まえ訴えを却下したが、保護団体側が控訴した。07年12月に発足したラッド新政権は意見書を撤回、保護団体の主張を支持する姿勢を見せていた。(15日 23:01)

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しかし、オーストラリアも署名している南極条約によって、南極大陸における領土権は凍結されているはずです。ただ、領土権の主張までは否定されているわけではないので、オーストラリアはこんな論理を持ち出したのでしょう。

南極条約(なんきょくじょうやく)とは、南極地域の平和的利用を定めた条約。

南極は気象条件が厳しいため、人の定住が困難であり長い間未踏の地であったが、1908年にイギリスが南緯50度以南、西経20度から80度に至る範囲の諸島の領有を主張したのを切っ掛けに、他の国も南極の一定区画の地域の領有を主張するに至った。国際法における国家領域取得根拠としては先占 (occupation) があるが、南極はその気象などのため実効的支配が困難であり先占の法理をそのまま適用するのは困難であるとして、先占がなくても一定の範囲で領域の取得を認めるとするセクター主義が主張されたものである。

しかし、セクター主義には反対する国家も多く、国際法として確立しているわけではなかった。しかし、科学技術の進歩により実効的支配による先占の可能性も否定できなくなり、領土の獲得競争が展開されるのは必至となった。それを阻止し、南極地域(すべての氷棚を含む南緯60度以南の地域)の継続的な平和的利用のために締結されたのが、本条約である。

当時南極における調査研究に協力体制を築いていた日本、アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ソビエト連邦(現ロシア)等12か国が、1959年12月1日に南極条約を採択した。条約の概要は下記のとおり。

  • 南極地域の平和的利用(軍事的利用の禁止)
  • 科学的調査の自由と国際協力
  • 南極地域における領土主権、請求権の凍結
  • 核爆発、放射性廃棄物の処分の禁止
  • 条約の遵守を確保するための監視員の設置
  • 南極地域に関する共通の利害関係のある事項についての協議の実施
  • 条約の原則及び目的を助長するための措置を立案する会合の開催

南極条約締結国は、現在、46か国となっている。

なお、条約成立前のセクター主義に基づく領域の主張は、条約上は、否定も肯定もされているわけではない。

南極条約 - Wikipedia



しかし、南極条約がある以上、そのような主張が国際的に認められるはずはないので、日本としてはそんな主張に従う理由はありません。おかしいのは南極条約を無視するオーストラリアなのですから。
このオーストラリアの論理に対して、日本政府も黙っているわけではなく、町村官房長官はこんな談話をしています。

 −−捕鯨の関係で、オーストラリアの連邦裁判所が、日本が南極海で行っている調査捕鯨が独自に定めた保護区でのオーストラリアの国内法に違反しているとして、調査捕鯨の中止を命じる判断を下しました。これに関して、日本の船が捕鯨に反対する環境保護団体の2人を拘束をした。この2人は判決の内容を伝えに来たということだが、この問題に対しての現状認識と受け止めは


「判決の内容を精査をしているわけではございませんが、あらましを聞いてみると、オーストラリアが南極大陸に対してオーストラリアが一定の地域の領有権を持っているという、その主張に基づいて、南極大陸の200カイリに排他的経済水域を設定していると。したがって、そこには豪州国内法を適用できると。こういう理屈のようでありますが、南極大陸については、どの国も領土主権を持たないというのが国際的なコンセンサスであります。日本もそういう立場を取っております。したがって、そういう誤った前提の判決というものは日本のみならず、いかなる国であっても受け入れることができないはずであります。そういう意味で、公海上で実施をしております、しかも国際捕鯨取締条約に基づいた、公海上における合法的な活動というものに対して、そういう判決が出ても、それは何ら影響をもたらすものではないということだと私どもは理解をしているところでございます」

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080116/plc0801161355004-n1.htm



捕鯨批判のためであれば、すでに国際的に認められている条約すら無視するようなオーストラリアの主張は、決して認めてはならないでしょう。オーストラリアがこんな論理を振りかざす限り、捕鯨国ばかりでなく他の反捕鯨国も、オーストラリアの主張を支持できないと思います。支持するのは「シー・シェパード」のような、手段を選ばず捕鯨を阻止しようとする過激な環境保護団体だけでしょう。
労働党政権になってからのオーストラリア政府は、国内の反捕鯨イデオロギーに迎合して、なりふり構わない反捕鯨外交をしているように思えます。その姿は反日のためならなりふり構わない韓国や中国を見ているかのようです。イデオロギーに囚われた人たちの行動や言動は、国や民族、主義主張は違っても、似通ってしまうのでしょうね。


たぶん次の展開としては、このオーストラリアの南極条約無視を批判する動画が、日本のネットユーザーの手によってYouTubeに投稿されるのでしょう。それを見たオーストラリアは官民とも大騒ぎして、ますます反捕鯨イデオロギーを強めるのでしょうね。こんなことを繰り返しているうちに、日豪関係が日韓関係や日中関係のようにゴタゴタを続ける状況にならなければ良いのですが。