Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

受け身の宰相

中国産の冷凍餃子から農薬が発見された事件(いわゆる「毒餃子事件」)は、日中双方の捜査当局が真っ向から対立する見解を出してしまい、完全に暗礁に乗り上げてしまったようです。
産経新聞福島香織記者は、このような状況になってしまった原因の一つに、福田首相がこの問題で自ら中国の指導者に働きかけなかったことがあるのではないかと推測しています。

■というわけで日中警察の怒りのメンツのぶつかり合いになってしまった、という事態が、この事件処理の一番の障害となっているといえそうだ。日本側が、農薬混入地点は中国国内とする決定的証拠を出さない限り、証拠不足の法廷闘争みたいに、長期化、泥沼化する可能性大ありだ。もっとも長期化、泥沼化しても最後に勝てば日本は正義なのだが、中国警察のバックにはあるのは中国共産党、つまりプロパガンダのプロ中のプロ。つまり老練な弁護士がついているようなもんだ。しかも、国際世論が、必ずしも日本サイドに同調するかというと、そうともいえない。中国の経済的影響力と対外工作力を甘くみないことだ。

■というわけで、逆転無罪どころか、真犯人はおまえだ!みたいな結果にならないとも限らない。たとえ混入地点は日本国内ではない、と立証できても、中国国内で混入されたという証拠がなければ、疑わしきは被告人の有利に、だ。で中国メディアは、「逆転無罪!」の見出しで、これで中国の食品は安心!!と大宣伝するわけだ。

■以上、私の勝手な妄想だが、今の状況で、混入が中国国内で起きたという結論で決着する可能性はきわめて低い、というのは多くの方が予測することだろう。ならば、どうするか、というと?司法取引?ならぬ、政治的決着をさぐる、ということだが、なんか、日本側がわりを喰いそうだな〜。相手側弁護士は、相当優秀ですから。

■もしも、という仮定は意味がないというが、かりに、事件発生当初、日本がどう振る舞っていたら、よりましな、結果が引き出されただろうか。私はやはり、事件発生直後、首相自らが中国の指導者に働きかけるべきではなかったかと思う。雪害も大変でしょうが、対日関係も大きいですよ、と。死者の出ていない、食品中毒問題なんて、13億人人口の中国にとっては、本来はほんとうにとるに足らない問題なのだ。だが、胡錦濤主席の訪日は決まっており、指導者レベルでは、日本の対中世論操作、つまりパブリック・ディプロマシーは中国にとってもかなりプライオリティの高い問題であるはずだし、首相直からホットラインがあれば、雪害対策がどんなに大変でも、彼らも真剣に考えたのではないだろうか。ギョーザ事件は、国内では真相究明をめざす刑事事件として扱う一方で、政治問題として、トップレベルでの外交的駆け引きはすべきだったろう。

■いや、本当は、福田首相は密使を派遣して、非公式にそういう話をしているんですよ、というなら、へえ、日本もやるな、と思うのだが、とりあえず今の段階で、胡錦濤主席、温家宝首相のいずれも、ギョーザ問題について何も発言していないから、あんまりやっていないんじゃないかな。この国では、ひとこと胡錦濤主席が何かいえば、ウヤムヤですますつもりの事件が一気に解決、なんてマジックもあるかもしれないよ?


http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/497667/


そろそろ福田政権が誕生してから半年になろうとしていますが、これまで福田首相を見ていて最も強く思ったのは、この首相は問題が発生したときの初動が遅く、問題が大きくなってからやっと対処しようという傾向があることです。問題に対していつも受け身で対応しているという言い方も出来るでしょう。今回の「毒餃子事件」では、そのような福田首相の欠点が最も強く出てしまったのでしょうね。
日中双方の政府とも、胡錦涛総書記訪日を控えてこの問題をあまり大きくしたくないのが本音なのでしょうが、すでに日本では中国食品ボイコットが広まってますし、中国ではこの事件を日本の陰謀だとする意見が広まってます。中国でこの手の意見が放置されていると言うことは、その背後には反胡錦涛の政治的な動きがあるのでしょう。だから、この事件はすでに反日と反中がお互いを強め合うスパイラルに入っているように思います。
すでに中国側が国内での農薬混入を認める可能性はほとんどなさそうですから、この状況で4月に胡錦涛訪日を実現したとしても、日本側の反応は冷たいでしょうね。その反応が中国に伝われば、さらに中国の世論も硬化するので、このまま北京オリンピックまで日中の感情的な対立が続くように思います。もしナショナリズム的な怒りに燃えた一人の日本人が、胡錦涛総書記に冷凍餃子を投げつける事件が起こったら、日中外交はその瞬間に小泉時代に逆戻りしてしまうでしょう。
福田首相日中関係の改善を進めたかったのでしょうが、そのためには「相手の嫌がることはしない」だけでは不十分で、何か問題が発生したときに素早く消火作業を始める機動力も必要でしょう。皮肉なことに、福田首相はそのような資質が欠けていたために、自ら日中関係を損なってしまったのかもしれません。


まあ、未だに「中国は前向き」と言っているところを見ると、福田首相はそんなことは全く考えていないようですが。w