Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

仙谷由人氏は候補者の話を聞いてなかったのか?

日銀執行部の後任として、政府は武藤副総裁、白川元理事、伊藤東大教授の3名を提示しましたが、野党は参院で武藤氏、伊藤氏については拒否し、白川氏だけを認めました。
しかし民主党が掲げる「財金分離」という理由が無理な理屈だとして、マスコミでもネットでも民主党に対する批判が相次いでいます。僕が普段見ているブログでも、多くの批判が上がってます。


民主党は本気で日本を滅ぼしたいらしい - A.R.N[日記]
現在の民主党に政権担当能力はないね - svnseeds’ ghoti!

まともな政策枠組みを口にしただけで拒否 - Economics Lovers Live
財金分離論って - Irregular Economist 〜hicksianの経済学学習帳〜
本石町日記 : 民主党、伊藤氏も拒否なの!!=福田首相じゃないが「理由が分らない」よ
雪斎の随想録: 民主党発「永田町不況」か。

(3/14追加)

http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20080312/p1
http://j-forrestal.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_4308.html
http://syoukensyougo.blog69.fc2.com/blog-entry-489.html


今回の件における野党の主張は、韓リフさん(id:tanakahidetomi)が言うように、まさに「トンデモ経済論のオンパレード」でしたね。ただ、「トンデモ経済論」というだけならすでに分かっていたことの確認でしかないのですが、どうもそれだけではなく、さらにその斜め上を行っている人もいるように思います。

民主党の仙谷氏は会見で、質疑応答での伊藤氏の発言について「インフレターゲット論はデフレスパイラルの時期の話である。今はデフレを脱しているので、インフレターゲットは彼の持論として撤回はしないが、これからの日銀の政策委員会の内部で議論して詰めていきたい、ということだった」と語った。

Bloomberg.co.jp: ニュース/コラム - 武藤日銀副総裁:予断を排し必要な政策は果断に実行―所信聴取(6)

この仙谷氏の発言ですが、よく読むとこれは仙谷氏自身の意見ではなく、伊藤氏が「今はデフレを脱している」という意見を表明したと、仙谷氏は認識しているということです。
ただ、伊藤氏の発言内容を見ても「今はデフレを脱している」という内容は、どこにも出て来ません。

――伊藤東大大学院教授の主な発言は以下の通り。

中央銀行の役割について、世界の中央銀行の大きな流れの中での日銀という見方から、金融政策の目標について考えてみたい。中央銀行の最大の責務は物価安定ということは、多くの国の研究者、政策担当者の間で認識が共有されるようになった。その場合の物価安定というのは、中期的に、つまり数年を平均するような概念でみてインフレ率が低いけれどもマイナスではない一定の範囲内に収まっているという意味だ」

「さらに、中央銀行がそのように物価の安定を図っているという市場関係者の期待、信任が得られているということも重要だ。つまり、物価安定というのは、実行と期待の両方が重要だということだ。私は日銀法第2条にある『物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする』というのが非常に適切な表現だと考えている」

「次に日銀の独立性について、日銀は1998年に施行された日銀法により、法律的な独立性を付与された。日銀は金融政策を自身の判断に基づいて行うことができるという意味で独立性を与えられている。そこで下す判断について、十分に透明で説得的な説明を行う責務があるとともに、結果についての説明責任を問われると考えている」

「日銀の総裁、副総裁は、政府、市場、ひいては国民全員あるいは海外の投資家や政策担当者に対して、日銀の金融政策の目的、経済状況の現状と予想の認識、適切な金融政策手段を説得的に説明することが求められている。このように独立である日銀は透明性、説明責任をどのように改善するかという課題を負ってきた。この点について、これまで私は金融政策や中央銀行制度の研究者として外から観察してきた」

「日銀は1998年4月以来、透明性や説明責任についてさまざまな改善の努力を行ってきた。10年前に比べると今の体制は大きく前進していると考えている。しかし、まだ完成の域には達していないと思う。今後も改善策を模索していくことになると思うが、その議論に積極的に副総裁として参加して、より良いものを目指していきたいと考えている」

中央銀行の法的な独立性の規定は、他の先進国および多くの新興市場国でも1990年以降、相次いで導入された。透明性、説明責任、市場との対話に有効という理由があったからだ。ただし、各国ともそれぞれの事情に合わせて金融政策の枠組みを考えているところはもちろん、日本も金融政策の実践と知見の長所を取り入れるにあたり、より良い枠組みを探し続けていくべきだ」

「諸外国では透明性、説明責任、市場の期待の安定化のためにインフレ目標政策を採用するところが多くなった。英国とスウェーデンは2%プラスマイナス1%、カナダ、ニュージーランドでは1−3%の目標を設定している。オーストラリアでは景気循環の期間を平均して2−3%としている。欧州中央銀行(ECB)ではインフレ目標とは呼ばず、参照インフレ率と呼んでおり、これは2%以下、ただし2%近い水準としているので、やはり0%は排除されている」

米連邦準備制度理事会FRB)および米連邦公開市場委員会(FOMC)はインフレ目標を掲げていない。しかし、研究者の間では、グリーンスパンFRB議長の時代から1%から2%を目指しているということは市場に浸透している、という評価がなされている。従って、先進国の中で0%の国はない。インフレ目標の導入、あるいは導入しない場合の透明性の確保については各国が模索を続けている。日本も同様の模索を続けている」

「誤解があるといけないので、インフレ目標政策はインフレを引き起こすことが目標ではなく、インフレ率を低位だがマイナスではない範囲に安定的に抑える政策だ。決してインフレ率をどんどん引き上げて、例えば、5%以上にして何らかの政策効果を狙うことは全く意味していない」

「世界経済は米国のサブプライム問題に端を発した信用の収縮、その結果としての生産活動の低下、つまり不況のリスクの高まりという第1のショックと、中国、インドの需要増を背景とした資源関連の価格の高騰という第2のショックに同時に見舞われている。一番恐れられているシナリオは成長率の鈍化と物価上昇の組み合わせ、いわゆるスタグフレーションだ。実はこのような物価上昇を伴う成長率の鈍化に対して金融政策の対応が非常に難しいことが知られている」

「インフレを抑えようと金融引き締めを行えば、さらに成長率を鈍化させる。一方、成長率の鈍化を防ごうとして金融緩和をするとインフレ率を加速させてしまう。お認めいただけるとすれば、日銀副総裁としてこの困難な問題に真剣に向き合い、総裁、もう1人の副総裁と協力して最適な金融政策を検討していくつもりだ」

Bloomberg.co.jp: ニュース/コラム - 武藤日銀副総裁:予断を排し必要な政策は果断に実行―所信聴取(6)

日銀の副総裁候補となっている伊藤隆敏東京大学大学院教授は11日午前の衆院での所信聴取で、中央銀行の最大の責務は物価安定だと述べた上で、インフレ率は低いがマイナスではないということが物価安定だとの認識を示した。

 その上で、諸外国にはインフレ目標を採用するところが多いが、先進国の中でインフレ目標の下限がゼロ%の国はない、と指摘した。

 伊藤副総裁候補は、日銀のあるべき姿と果たすべき役割について「金融政策の最大の責務は物価安定との認識が各国研究者や当局の間で共有されている」とし、「この場合の物価安定はインフレ率は低いがマイナスではない、一定の範囲内に収まっているという意味だ」と定義した。さらに「中銀が物価安定を図っているというマーケット関係者の信任・期待を得られていることも重要。つまり、物価安定というのは実行と期待の両方が重要だ」と述べた。

 日銀の独立性に関しては「十分に透明で説得的な説明を行う責務があるととともに、結果に対する説明責任を問われる」と指摘。日銀の総裁・副総裁は内外に金融政策の目的、経済状況、現状と見通しなどを説明することが求められているとした。そうした課題について日銀はこれまでいろいろと改善努力をして前進したが、まだ完成の域には達していないとして、今後の改善のための議論に副総裁として参加していきたいと述べた。 

 日本の金融政策の枠組みについては、透明性・説明責任・市場の期待に対応するために「諸外国ではインフレターゲットを導入するところが多くなった」と指摘。さらに「先進国の中でその下限がゼロ%の国はない」とも述べた。インフレ目標を導入しない場合の透明性については各国とも模索を続けているとした。

 ただインフレ目標はインフレを引き起こすことを目的としているのではなく、インフレ率を低位だがマイナスではない範囲に安定的に抑える政策だと付け加えた。

 世界経済の現状については、不況のリスクの高まりという第1のショックと資源価格の高騰などの第2のショックに見舞われているとの認識を示した。その上で「一番恐れられているのは成長率の鈍化と一般物価上昇の組み合わせであるスタグフレーションだ」と指摘、「金融政策の対応が非常に難しい」と語った。「日銀の副総裁としてこの困難な問題に真剣に向き合い、総裁・副総裁・審議委員と協力しながら最適な金融政策を検討していくつもりだ」と決意を述べた。

 伊藤副総裁候補はこれまでの経験から各国の政策当局にネットワークを築いていることを披露し、「もし副総裁に就任できればこのネットワークが貢献できると思う」と述べた。

先進国でインフレ目標の下限がゼロ%の国ない=伊藤日銀副総裁候補 | ビジネス | Reuters



こうなると、仙谷氏は伊藤氏の発言内容をきちんと聞いていたかという疑問が出てきます。
日銀総裁・副総裁就任の賛否を問うための重要な所信聴取で、仙谷氏が候補者の発言をまともに聞いていなかったとすれば、伊藤氏や武藤氏への賛否以前に、仙谷氏に日銀総裁選出に関わる資格があるのか、疑問に思わざるを得ません。「どうせインタゲ野郎は否決に決まってるんだから、まともに聞く必要はないだろう」などと思っていたんでしょうかねえ?w
仙谷氏は「トンデモ経済論」なだけではなく、人の意見すら自分の思いこみでねじ曲げてしまう人物のように思います。もし民主党が政権を取ってこういう人物が経済政策に関わるようになると、思いこみに基づいた政策で日本経済をメチャクチャにしかねませんね。