Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

ネット紅衛兵?

ノースカロライナ州の大学で、チベットを支持する学生グループと中国政府を支持する学生グループとの衝突を回避するため、仲裁にあたった中国人女子学生が、その後、インターネット上で「売国奴」と糾弾され、言葉の暴力などの深刻な被害を受けていることがわかった。17日付の米紙ニューヨーク・タイムズが1面で伝えた。

 同紙によると、女子学生は同州のデューク大学に在学中。サンフランシスコで聖火リレーが行われた今月9日、学内でチベット支持グループの学生と中国政府支持派の学生とが衝突寸前になった際、双方のグループに友人がいたことから仲介にあたった。

 チベット支持派の学生に対し、中国政府支持派の学生と対話するのであれば、シャツの背中に「自由チベット」と書くことを認めることで、その場を収めた。

 しかし、その翌日には中国人学生向けサイトに女子学生の顔写真や連絡先、中国の実家の住所まで掲載され、顔写真の額には「売国奴」と中国語で書かれていた。「帰国したらおまえの死体は細切れになるだろう」といった脅迫メールも送られてきた。中国の実家にも汚物がまかれ、女子学生の両親は安全のため、別の場所に避難したという。

 女子学生は、同紙に「売国奴が中国に害を与えたいと思う人のことをさすなら、私はそうではない」「これからもずっと売国奴といわれるのだろう」と心境を語っている。

http://sankei.jp.msn.com/world/america/080418/amr0804181742015-n1.htm

■さて、前回エントリーのコメント欄で紹介されていたのだが、サンフランシスコで、チベット擁護側にたったデューク大学華人留学生、王千源さんが、ネット上で中国人同胞から大バッシングにあって、「帰国したら、石で頭をかち割られるぞ」といったような、あきらかに脅迫罪に問れるような悪質な暴言を浴びせられ、自宅の写真などをネット上でばらまかれ、自宅前に汚物をまかれるなどのものすごい嫌がらせにあっている。国内でも「王千源事件」と注目をあびるこの事件ひとつみるだけでも、中国で異論を唱えることがいかに勇気のいることか、分かってもらえるだろう。言論の自由がない、とはこういうことをいう。

■コメント欄に貼り付けられたアドレスをたどってみることができるのは、日本の華人留学生が集う掲示板「小春留学日本論壇」。日本という比較的自由な世界で勉強する機会が与えられた優秀な中国人学生ですら、匿名の身分で、一般市民を名指しで個人攻撃しプライバシーをあばくことの非に気づいていない。普通なら、擁護者のひとりもでてくるのに、それが出てこないのは、自分が彼女のような立場になるのが怖いからだろう。まるで、いじめだ。個人攻撃は、国家や政治家や記者、著名人の言動を批判、非難するのと意味あいがまったく違うということを、せっかく日本に留学しているのなら、学んで帰ってほしい。日本のいじめ体質など悪い部分はまねなくていいよ。

■ここで、書かれていることを簡単に紹介しよう。サンフランシスコの聖火リレーのとき、デューク大学華人留学生らが、北京五輪支持・チベット独立反対の愛国集会を開いた。このとき、チベット族支持の欧米学生らとにらみ合いにになり、王さんは、チベット支持側にたった。ニューヨークからの報道によれば、仲裁を買ってでたという報道をもある。しかし彼女はチベット旗(雪山獅子旗)を振り、どちらかといえばチベット族に同情的であった。さらに、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)の取材にこたえて、「ブッシュが五輪にボイコットしなかったのは残念」。チベット旗を振ったことについて記者から質問を受け「香港には香港旗(紫荊花の旗)があるのに、どうしてチベットに旗があってはダメなのか?」と語ったという。

■私なら、400人以上の中国人留学生が愛国を叫ぶのに向かって、ひとりチベット旗を振るその勇気だけで、たとえ自分と違う意見を主張されても、尊敬の気持ちを持ってしてしまうけれどね。しかし中国人留学生たちは違った。「グリーンカード奨学金ほしさに祖国を売った売国奴」と、あくる日からバッシングの嵐がはじまったのである。

■彼女は、10日付けで、中国人留学生ネチズンにむけた手紙で心境を次ぎのように書いている。それを読めば、彼女は彼女の価値観と分析でもって祖国の未来を案じ憂いている愛国者であることがわかる。

■彼女はこう語りかける。
(前略)「鷸蚌 ( いつぼう ) の争い、漁夫の利となる」ということわざをしりませんか。いままさに、後発者(米国)の圏内に(チベットは)はいっているのです。曹植の七歩詩の憂慮が、まさに今思い出されます。「豆を煮るために、豆がらを燃やすと、釜の中の豆は泣く。同じ根っこから生えているのに、なぜお互いを煮ることを急ぐのだ?(兄弟で殺し合ってはだめだという意味)」と。わが国の領土というなら、なぜその領土を他人(米国)にやっていいものか。チベットに(今のやり方で)せまれば、友だった者が敵となるだけです。もともと平和を愛するチベットを梁山に追い込み、背水の陣の戦いに挑ませれば、収集不可能な深刻な衝突をもたらすだけです。
 チベットにたずねてみればいい、中国と米国、どちらに親しみをもち、どちらを遠く感じるか。中国領土内で、安らかに眠れるか?と。(後略、間違っていたらごめん)

http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/547151/

サンフランシスコの五輪トーチ・リレーにあわせて行われた親チベット、親中国両派の抗議活動で、チベット側についたとして人民の敵になってしまった中国人留学生、王千源さんの手記が、ワシントンポストに掲載されていました。

王さんは、留学先のデューク大でチベット人学生と知り合い、チベット人への理解を深めていたことで、デモでは積極的に両派の仲裁につとめたといいます。

… 抗議行動が激しくなる中、ある中国人の集団はわたしを取り囲み、わたしを指差して1989年に天安門広場民主化デモを先導した若い女性のことを持ち出した。「柴玲を覚えてるか?中国人はあいつを油の中でゆでたいと思っている。おまえはあいつみたいだ」。彼らはわたしの頭がおかしいとか、地獄に落ちろとか言っていた。出身地と出身校を聞いてきたので、それに答えた。隠すことなど何もない。しかし怒り狂う集団はわたしを襲う気配を見せたので、わたしは警官のエスコートを受けてその場を離れた。

寮の部屋に戻り、他の人々の意見を確かめようと、デューク大の中国人学生・教師協会のウェブサイトにログインした。協会の銭方舟は、「われわれの力を見せてやった!」と勝利宣言していた。

わたしは、チベットの独立は支持しないが、中国人の自由、チベット人の自由を支持するという投稿をした。中国の憲法に従い、すべての人々は自由で、基本的権利は守られなければならないと書いた。建設的な議論になることを期待していたが、人々はただわたしを非難するだけだった。

翌朝、ネットは大変なことになっていた。おでこに売国奴と書かれたわたしの写真が広がり、そして恐ろしいことに、両親の市民番号まで投稿されていたのだ。ショックだった。なぜならその情報の出元は、中国の警察しかありえないからだ。.

「恥ずべき犬」に思い知らせてやろうと、中国のわたしの実家への地図や、電話番号も投稿されていた。これは大変なことになったと思った。脅迫電話が何本もかかってきた。なんて皮肉なんだろう。わたしはまさにこういうことを防ぎたくて行動したのに。しかもターゲットはわたしなのだ。

翌朝わたしは母に電話した。母は、脅迫を受けたので父とともに隠れていると言った。そして電話をかけてきてはいけないと言った。それ以来、両親とのコミュニケーションはショートメールでしか交わしていない。やがて実家の写真がネットに掲載され、玄関には糞がまかれていた。より最近のものでは、窓が割られ、ドアには汚らわしいポスターがかけられていた。わたしの出身高校ではわたしを非難する集会が開かれ、わたしの卒業が取り消され、愛国教育を強化したとも聞いた…。


Caught in the Middle, Called a Traitor
ワシントンポスト 08年4月20日(英語)


文革の子供たち: Meine Sache 〜マイネ・ザッヘ〜



アメリカの大学に通う、ある中国人留学生の女性が、先日のサンフランシスコの聖火リレーで、チベット支持派と中国支持派の仲裁をしたところ、ネットで実家の住所や電話番号を晒されて、家族が脅迫されたり、売国奴として罵られたりしてるそうです。
日本でもネットで悪事を自慢した人が、住所や電話番号を晒されたり、学校や勤務先に通報されて退学や解雇されたりということは時々あって、ネットが批判される理由の一つともなっていますが、それには自業自得という側面もあるでしょう。
ただ、中国のようにナショナリズムの絡みでこういうことを起こされてしまっては、批判された人はかわいそうと言うしかないですね。


前回のエントリーでmozuさんが以下のようなコメントをおっしゃってますが、僕もこの動きからは文化大革命の頃の紅衛兵人民裁判を連想します。

mozu 2008/04/21 05:01
わたしも1930年代の日本帝国を想起した一人ですが、デモ隊の様子を見ているとなんだか文化大革命紅衛兵を彷彿とさせます。英語圏の中国研究者でnew CR cultureなんて言っている人もいますね。いったいどういう権力闘争が展開されているのかさっぱり分かりませんが。反日デモの時と同じく在外華僑の遠隔地ナショナリズムとネットを介して接続、連動している点は現代的に見えますね。



考えてみれば、かつての日本のナショナリズムで「昭和維新」なんて言葉が叫ばれたように、今後の中国のナショナリズムでも文革時代への回帰を求める声が出てくるのかもしれませんね。文革が終わってから30年、そろそろ当時を知らない世代が理想化を始めてもおかしくない頃だと思います。そうなると、中国はますます世界から理解されない国になってしまうのでしょう。


今回の件は、すでにニューヨーク・タイムズワシントン・ポストでも報道されてますから、アメリカでは中国のひどさを象徴するエピソードとして捉えられるのかもしれません。そうなると中国側からはさらなる反発が予想されますから、中国のイメージがますます悪化していくのでしょうね。