Baatarismの溜息通信

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民主党金融対策チームの危険な方針

過去2回のエントリーでは、民主党の枝野議員の発言を取り上げましたが、民主党が政権を獲得したときの経済政策に与える影響という点では、この大塚議員の発言の方がより深刻でしょう。

 [東京 2日 ロイター] 民主党大塚耕平・金融対策チーム座長は2日、財務省の視察後に記者会見し、外貨準備の規模が大きすぎるとした上で、現状で国内総生産(GDP)比で約20%に達する外貨準備の規模を、約10年間で10%程度まで半減を目指すべきとの考えを示した。


 大塚座長ら金融対策チームは同日、外国為替資金特別会計の実態と運用の実情の把握するため財務省為替市場課を視察した。いわゆる「埋蔵金」を財源として活用することを視野に、1)外貨準備の規模の圧縮、2)外貨準備の運用の透明性――について財務省から意見を聴取した。視察には、菅直人代表代行も同行した。


 財務省視察後に会見した大塚座長は、米欧に比べて日本の外貨準備高の対GDP比が高すぎると強調し「20%の比率を10%に半減することをターゲットに10年の計画は十分に立てられる」と述べた。ただ、大塚座長は、ドル売り・円買いを「いますぐ大々的にやることは必ずしも適切ではない」とも述べた。


 財務省によると、2007年末現在、日本の外貨準備高は9541億ドルで対GDP比は21.8%となっている。同時点の米国は740億ドルで同0.5%、英国が495億ドルで同1.8%。欧州中央銀行とユーロを導入している各国の中央銀行で構成するユーロ圏でも2349億ドルで同1.9%。


 ただ、財務省の杉本和行次官は同日の定例会見で、外貨準備について「適正規模についての国際的な意見の一致は見られていない」とし、「外貨準備を減らすと、外貨準備を売却することになる。為替市場に不測の影響を与えかねない。慎重に考える必要がある」と否定的な見解を示した。


 <外準の情報公開を>


 民主党は、外為特会による米政府系住宅金融機関(GSE)債の保有状況が非公開になっていることを問題視している。大塚座長は、外貨準備の規模圧縮を計画的に進めるためにも「外為特会の情報開示が重要だ」と強調した。


 また、金融対策チームの大久保勉事務局長は記者会見で、外為特会について「約100兆円の資金をわずか18人で運用している。大手金融機関のディーリングルームに比べて(財務省の)設備は貧弱だ」として、リスク管理体制の問題を指摘した。さらに、運用の手法について「米国債だけでなく、他にどんな運用ができるかがまったく議論されていない。これを明らかにして、専門家の知恵を入れながら、より正しいリスクコントロールが必要だ」と述べた。


 <埋蔵金として活用可能>


 さらに、2006年度決算では、外為特会の利益部分となる剰余金は3兆5322億円。このうち一般会計に1兆6290億円を繰り入れている。大塚座長は、外為特会の「埋蔵金」の認識について、剰余金の約3.5兆円を指摘し、「フローの果実として財源になり得る」との認識を示した。さらに、約100兆円の外貨準備の残高部分についても規模が大きすぎるとして「ストックをスライスして減らす中で埋蔵金として使える」と述べた。


 菅代表代行は2日の記者会見で、外為特会の剰余金から一般会計への繰り入れを除いた積立金について「19兆円余りあると財務省も認めている。最終的に国会あるいは政府で判断すべきものということで、この活用は可能だということを確かめた」として、財源としての活用に前向きな考えを示した。


 (ロイター日本語ニュース 村井 令二記者、伊藤 純夫記者、志田義寧記者) 

再送:UPDATE1: 外準規模は大きすぎ、GDP比10%まで削減を=大塚・民主金融チーム座長



日本の外貨準備が大きすぎるというのは確かに間違ってないのでしょうが、今のタイミングでこんなことを言い出すべきではないでしょう。
この発言の問題点については、「起業ポルノ」(id:T-norf)さんがまとめています。

その1:日本の外貨準備は、ほとんど政府の借金だよ



外国為替資金特別会計平成18 年度財務書類(PDFファイル)


http://www.mof.go.jp/jouhou/kaikei/zaimu/200331/k.pdf


平成19年3月31日時点と若干古いけど、上記の決算書類によると、外為特会は総資産119.8兆円で負債が103.4兆円。確かにストック側にも16.4 兆円の純資産的なものがある。ただ、残りの大半が政府短期証券っていう短期国債による借金を元手に外貨準備を作っている。率で言うと86.3%が借金なのだ。


なんでこんなに外貨準備を作ったかと言うと、為替介入で円売りドル買い介入をバンバン続けて円安を維持して輸出企業を助け、輸入資源価格の上昇で苦しむ庶民、漁師さん、運送業、輸入関連企業などなどは助けなかったからだ。


でも、調べてみたら大塚耕平氏は元日銀マンだったので、そんなことは当然知ってるはずだ。そうすると、どうして冒頭引用のような誤解を招きかねない記事が出てくるのか不思議だ。ロイター記事も「ストックをスライスして減らす中で埋蔵金として使える」との発言を引用しているので、これは100兆規模の外貨準備を半減すれば50兆円もの財源が出てくるというようにミスリードを狙った発言と考えるのが妥当だと思う。


でも、なんで起業系ブログでid:itoshiki氏とかid:AntiSeptic氏*1みたいな罵倒をしなきゃいけないんだよ。記者さんっていうのは、記者会見で質問したり、こういう発言の報道記事に注釈を入れてミスリードを防ぐのが仕事だろうよ。財源なしのバラマキ政策を標榜した政党が政権取って、日本経済をグダグダにしてくれたら、どう責任取ってくれるんだよ。マスゴミさんよ。

その2:日本の外貨準備の大きさは問題だけど論点が違いすぎる



『外為特会が抱える100兆円規模の外貨準備の国内総生産(GDP)比を現在の約20%から「少なくとも半減ぐらいを目指すべき」』という主旨自体は私も賛成だが、これを半減する過程で財源が捻出できると発言しているところが、元日銀マンなのに痛い。


ほとんどがドル資産で100兆円規模だ。これを円高ドル安を誘発せずに市場で売れると思っているのだろうか。どれだけ為替ヘッジをかけているかは分からないけど、規模的に無理なのと3%から4%程度の運用益を出しているところからも想像すると、為替ヘッジはほとんどできてないだろう。そして、日本が外貨準備を意図的に減らし始めたら、年間平均5兆円ペースに抑えても必ず先回りして円を買う動きが加速して、円高ドル安になる。


先に述べた通り、外貨準備の原資は86.3%が借金で純資産相当は13.7%しかない。そうすると、外貨準備削減の方針発表から簡単に派生する15%程度のドル安で外為特会は債務超過転落。一般会計から補填をしなければいけない事態となる可能性が高い。


というか、外貨準備を削減しなくても、今の米国経済危機で、1ドル110円が93円(15.4%の下落)なんてことは、アッサリと起ると思う。


つまり、今この経済情勢で外為特会に埋蔵金があるなんて喜んでいるのは、よっぽどの楽天家であって、言うなればアホだ。問題は、日本政府が100兆円規模で FXのようなことをやっていて、巨大なリスクを背負ってしまっていることだ。そして、最大の問題はその投資先の米国が青息吐息で、ドルを売るに売れないってことだ。

その3:米国発の世界的金融危機が起きているタイミングで...



大塚氏はロイターによると「(ドル売り・円買いを)いますぐ大々的にやることは必ずしも適切ではない」とも言っている。


でも少々フォローをしたところで、この米国発の世界的金融危機が起きている最中に、ドル資産中心の100兆規模の外貨準備を、長期スパンとはいえ半減させるべきという発言は、政権を担おうとしている政党の「金融対策チーム座長」さんとしてはありえないだろう。*2


今、ドル安を誘発するような発言は、金融対策的には絶対NGだ。目先のバラマキの原資に気をとられて、世界経済にダメージを与えて国民生活を脅かそうとしている点は言い逃れようができないアホだ。


「短期的にはマーケットの安定化を考慮して運用するが、長期的には日本企業の米国投資を促進し、マーケットの許容範囲で削減することが望ましい。」ぐらいが妥当で、時期や規模を明言するとヘッジファンドの為替攻撃のエサになって大損するのがオチだ。

民主党のアホな外貨準備論の件 - 起業ポルノ



大塚議員は民主党の金融対策チーム座長です。民主党は政権を獲得したら、100人程度の議員を官庁に送り込む方針です。ということは、大塚議員も財務省金融庁へ送り込まれる議員をとりまとめる立場になるのでしょう。財務相か金融相になる可能性も少なくないと思います。

 民主党代表の無投票3選が確実になっている小沢一郎代表が近く発表する政権構想で、各省の副大臣政務官などを大幅に増員し、各省に現在のほぼ2倍の 100人規模の国会議員を送り込む案を打ち出すことが6日、明らかになった。次期衆院選後に民主党政権ができれば、官僚主導の予算編成や政策立案を抜本的に改め、政治主導にする狙いだ。

政治家100人、各省幹部に 民主・小沢氏、政権構想に明記 - NIKKEI NET(日経ネット)



そのような人物が、アメリカの金融危機が深刻化している時期に、その多くが米国債で運用されている100兆規模の外貨準備を半減させる方針を示すというのは、国際金融に無用の混乱をもたらしかねないでしょう。また日本政府が米国債を売却すれば、日本側にも莫大な売却損が発生するでしょう。
どうしても外貨準備を削減する方針を示すのであれば、例えば高橋洋一氏が提言しているような、米国債とアメリカ政府が救済する金融機関の株式をスワップするなどの方法で、金融危機解決の助けになり、売却損も押さえられるような方法を打ち出すべきでしょう。

 よって、いずれにしても当面、日本は巨額な外為資金を持たざるをえないだろう。であれば、その結果のリスクとリターンを考慮してポートフォリオを入れかえ、たとえば、ドル建て債券の代わりにアメリカのファニーメイ、フレディーマックなどの株式に投資するという政策は、十分に検討に値する。
 こういう意見に対して、官僚サイドから、不適切であると反論がすぐ出てくる。ただし、彼らの反論は、「現行制度の下では不適切だ」というものにすぎない。現在の状況は現行制度では全く想定していない話であるから、現行制度の枠内で処理できるわけがないのだ。当然、戦略的対応は、大きな制度変更を伴うので官僚の手に余る話である。
 ただし、この戦略投資のリスクを現状と比べると、為替リスクは同じ、信用リスクは投資するタイミングに依存し、金利リスクはほとんど変化しない、ということだろう。注入する金融機関の損失処理後に投資すれば、信用リスクはほとんど変化しない。こうしたリスクに見合ったリターンがあるかどうかについては、投資するタイミングにある程度依存するが、どちらにせよ投資自体が世界経済にとって大きな貢献だろう。
 それをよりアピールするために、アメリカ政府と日本政府が協力することが望ましい。たとえば、アメリカ政府が米国債を発行して、救済金融機関の株式を取得した後で、日本政府が保有するドル建て米国債スワップ(デット・エクイティ・スワップ)すれば、米国政府を通じて、日本政府は外為資金のポートフォリオを変更できる。しかも、この方式は救済期間後に確実に残高が減らせる。現状の為替リスクを抱えたままの残高増よりましだ。これは、実際に、金融市場戦略チームで提案された大きな世界戦略であるが、新内閣はどのように考えるだろうか。

http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080924-01-1501.html



そのような配慮もなしに外貨準備の半減を言い出すような人物を、経済政策の中心に据えるのは、非常に不安です。民主党に投票したくなくなる理由としては、枝野議員の発言よりも、この大塚議員の発言の方が大きいかもしれません。