Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

円独歩高の原因

 27日の東京外国為替市場で円相場は大幅に5日続伸して始まった。8時30分時点では1ドル=92円91―94銭前後と前週末の17時時点と比べて2円23銭の円高・ドル安水準で推移している。世界的な株安連鎖を背景に低金利で調達した円を売って高金利の外貨資産に投資する「円キャリー取引」の巻き戻しが進み、前週末の海外市場で円は一時90円87銭と1995年8月以来の円高・ドル安水準を付けた。米株式相場が大幅に下落したこともあり、円買い・ドル売りが広がった。こうした流れを受け、週明けの東京市場で円は高く始まっている。


 円は対ユーロで大幅に5日続伸して始まった。8時30分時点では1ユーロ=116円92―97銭前後と前週末の17時時点と比べて3円60銭の円高・ユーロ安水準で推移している。世界的な株価下落を受けて、前週末の海外市場では円高が加速し、円は対ユーロで113円台に急伸する場面があった。週明けも引き続き円は高い水準にある。〔NQN〕(08:49)

NIKKEI NET(日経ネット):外為早朝・円、92円台後半に続伸して始まる 対ユーロは116円台後半

 外国為替市場で円相場が独歩高の展開となっている。金融システムが比較的安定している日本に資金が逃避しているためだ。政府が打ち出す緊急市場安定化策は株価の下支えや銀行の資本増強が柱で、しばらくは円高基調が続くとの観測が根強い。ただ主要国が円売り介入で協調するのは難しいとの見方が多く、日本は状況次第で単独介入に動く可能性も探る見通しだ。


 先週1週間で円は対ドルで10円以上も上昇。24日の欧州市場では一時、約13年ぶりの高値となる1ドル=90円台まで上昇した。円はユーロや英ポンド、豪ドルや南アフリカランド、ブラジルレアルなどに対しても急伸した。(07:00)

NIKKEI NET(日経ネット):円独歩高に警戒強く 資金逃避の長期化も



先週末から急速に円高、それも円の独歩高が進み、すでに1ドル90円を突破しかねない状況となっています。この状況に対して、マスコミでは日本の実態経済や金融システムが相対的に安定しているからだという説明がなされていますが、これは本当なのでしょうか?


id:econ2009さんは、データに基づいて検討した結果、日本の為替レートにおいては実質実効為替レートの寄与よりも相対物価の寄与の方が大きいと結論づけています。

 与謝野氏に言わせれば円の信認が増大したからだということだろうが(笑)、印象論ではなくデータに基づいて検討してみることにしよう。着目点は、為替とマネー(物価)の関係である。手がかりとなるのは以前行った、名目実効為替レート対前期比の要因分解である。名目実効為替レートが上昇(伸びがプラス)すれば円高、下落(伸びがマイナス)すれば円安となるわけだが、名目実効為替レートの変化率と実質実効為替レートの変化率の間には以下の関係がある。

名目実効為替レートの変化 = 実質実効為替レートの変化+(貿易相手国の物価水準÷日本の物価水準)の変化

 以前エントリした際の結論は円高が進んだ07年8月から08年3月までの期間においては、名目実効為替レートに対する相対物価の寄与が実質実効為替レートの寄与を一貫して大きく上回っている。相対物価の寄与が高まったとは、貿易相手国の物価水準の伸びが我が国の物価水準の伸びを上回っているということを意味しているわけである。


 本年9月までの結果を追加してグラフにすると以下のとおりだが、やはり9月の円高も我が国の物価の伸びが他国よりも低いことが影響している。恐らく、今般進んだ円高も同じだろう。つまり、受動的な金融政策(何もしないということ)が影響しているわけである。

Econviews-hatena ver.∞



実態経済や金融システムが安定していることは物価とは関係ありませんから、実質実効為替レートに影響を与える要因に分類できるでしょう。一方、相対物価に与える要因としてまず考えられるのは金融政策です。
そこで最近の金融政策について考えてみると、まず思いつくのは、欧米の協調利下げに日銀が同調しなかったことです。*1
その結果、日本の金利は欧米に対して相対的に0.5%引き上げられたことになりますから、これは円の独歩高を招く大きな要因となるでしょう。
為替レートへの寄与は実質実効為替レートよりも相対物価の方が大きいわけですから、日本の実態経済や金融システムの相対的安定は円高の原因としては小さく、日銀が欧米の協調利下げに同調しなかったことこそが、今回の円高の最大の原因であると考えられます。


さて、経済学の基礎を知っている人が少し考えれば、日銀が欧米の協調利下げに同調しなかったことと今回の円の独歩高の関連は当然気づいて然るべきだと思うのですが、日本のマスコミやエコノミストはこの関連について全く指摘していません。何故誰もこの関連を取り上げないのか、それが今回の円高における最も大きな疑問だと思います。そこまでして日銀を守りたいんでしょうか?w

*1:この件については、僕も10/9のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20081009/1223523519)で取り上げました。