Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

英エコノミスト誌の日本分析

エコノミスト誌(2009年1月24日号)が日本経済についての記事を載せていますが、日本人が思っている以上に先行きは暗いようです。

 金融危機の嵐に直撃されなかった日本経済が、今ほかのどの先進国よりも急速に縮小している。

 日本の近年の出来事の中で、1990年に始まった、信用インフレから生じた不動産および株式バブルの崩壊ほど人々の記憶に深く焼きついていることはない。

 しかし昨年秋以降の日本の工業生産と輸出の急激な落ち込みは、ほぼ間違いなく、バブル崩壊後に起きた数回の景気後退局面が穏やかなものに見えるような、未曾有の大不況の到来を物語っている。

 バブル崩壊後最悪の年だった1998年に、日本経済は2%縮小した。しかし大半のエコノミストは、2008年の第4四半期だけで日本経済はそれ以上縮小したと考えている。ゴールドマン・サックスは2009年の日本のGDP国内総生産)成長率が3.8%のマイナス成長になると予測している。

 戦後最長となった約6年間の景気拡大期を経て、日本は早ければ2008年第2四半期から景気後退局面に入ったと見られている。しかし、当初はかなり緩やかな景気下降だったものが年末の2〜3カ月間で、信用危機の嵐のただ中に巻き込まれた国々が味わっているよりもはるかにひどい不況に姿を変えた(図参照)。

 11月には、輸出額が前年同月比27%落ち込んだ。状況は悪化する一方で、12月にはマイナス幅が35%に拡大した。輸出急減の主因は米国の景気後退で、対米輸出は前年同月比36.9%減少した。

 世界的な景気後退が今度はアジアのサプライチェーンに打撃を与え始め、12月に日本の対中輸出は35.5%減少、アジアの「虎」(香港、シンガポール、韓国、台湾)向けの輸出は対米輸出以上に落ち込んだ。

 輸出は日本の工業生産のほぼ半分を占めるため、鉱工業生産も統計を取り始めて以来、過去最大の下げ幅を記録している。11月の鉱工業生産は前年同月比16%減少した。12月には、景気の先行指標である工作機械受注額が前年比72%減少した。

 BNPパリバ証券エコノミストの白石洋氏は、鉱工業生産は昨年12月時点で既にバブル後最低だった2001年の水準まで落ち込んでおり、堅実な回復とされていた過去6年間の成長分が吹き飛んだと見ている。

 不況が終わるまでに、生産高は1987年の水準にまで落ち込むと白石氏は予測する。

 2002年以降の日本経済の回復を牽引してきた輸出需要が、自動車と消費者向けハイテク製品という極めて限定された産業に支えられていたことも裏目に出た。この2業種の落ち込みは特に激しく、自動車メーカーは生産台数をほぼ半減し、結果として鉄鋼、半導体、化学品メーカーにも大きな影響を与えている。


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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/501



そしてこの大不況に対処すべき政府や日銀についても、このように述べています。

 政治の機能不全は、今や日本経済にとって最大の問題になっていると言っても過言ではない。政策立案者は、高齢化と人口減少が進む社会で内需を拡大する策を議論すべきだ。

 例えば、医療分野や高齢者向けサービスでは、サービスの受け手よりもサービスの提供者の方を手厚く保護している規制を撤廃したらいいだろう。

 しかし政府は今、2兆円(220億ドル)という比較的小規模な景気刺激策を巡って、野党とばかりか、与党内でも不毛な争いを繰り返すばかり。しかも、このカネの大部分は、使われることなく消費者のポケットに収まることになる。

 JPモルガン証券菅野雅明氏は、今の需要減に対抗するには、生産性の向上を目的とした4倍の規模の刺激策が必要だと考えている。

 政府が大胆な刺激策を打ち出せないのは、バブル後に急増した国の膨大な債務が背景にある。日本の純債務はGDP比90%以上に達している。しかし金利は極めて低く、このため債務の利払いコストも非常に小さい。そのうえ日本の国債保有者はほとんど日本人で、移り気な外国人ではない。リスクを考えれば、より積極的な行動を取った方がいいはずである。

 中央銀行についても同じことが言える。もともと慎重な日銀だが、政治からの指針の提示や議論がないため、その傾向が強まっている。例えば、日銀は明確にインフレを目標とするだけでなく、株式を買い取って商業銀行の自己資本――その多くは価値が下がり続ける保有株式から成る――を増強するといった手段だって正当化できるかもしれない。

 それにしても皮肉な話である。米国をはじめ、日本以外の先進諸国が必死になって日本のバブル後の経験を避けようとしている時に、当の日本はお粗末な政治のせいで、重い足取りで他国の後ろをのろのろとついて行く羽目に陥っているのだから。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/501



政治は定額給付金という「2兆円(220億ドル)という比較的小規模な景気刺激策」を巡って大混乱し、日銀は「政治からの指針の提示や議論がないため」、つまり政府と日銀のコミュニケーションが取れていないため大胆な政策が打ち出せない*1という状況です。そのため「重い足取りで他国の後ろをのろのろとついて行く羽目に陥っている」わけですね。


日本が政府・日銀一対となって、この記事で書かれているような本当に積極的な財政・金融両面での刺激策を打ち出すのはいつの日になるのでしょうか?

*1:ただし、円高を怖れてFRBにお付き合いするような政策は打ち出していますが。