Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

ウイグル情勢についての雑感

7/6に中国新疆ウイグル自治区ウルムチで、ウイグル人のデモ隊と治安部隊との衝突があり、これをきっかけにしてウイグル情勢が緊迫化しています。
この話については、発生直後から御家人さんのブログ「日々チナヲチ」の記事が詳しく解説しています。


ウイグル人デモ隊に発砲、警察車両突入で轢死者17名!…ウルムチ市。 - 日々是チナヲチ。
ウイグル弾圧:「六四モード」と「人民戦争」が、再び? - 日々是チナヲチ。
ウイグル弾圧:今年で55周年。民族衝突より「漢人vs漢人」かも。 - 日々是チナヲチ。
ウイグル弾圧:胡錦涛は、「漢人の暴走」を止められるのか。 - 日々是チナヲチ。


これらの記事や、様々なマスコミ報道を読んで思ったのは、今回の事件では「民衆vs共産党」という従来の「暴動」で目立った対立構造よりも、「ウイグル人vs漢族」という民族対立の構造の方が強いと言うことです。
しかし、中国政府の行動を見ていると、昨年のチベット問題と時にダライ・ラマを批判したときと同様、在外ウイグル人組織「世界ウイグル会議」やその代表のラビア・カーディルさんを「暴動の主導者」として批判していて、今回の件をウイグル人反政府運動であるととらえているようです。


もし問題を民族対立としてとらえるのであれば、漢族であろうがウイグル人であろうが関係なく、暴動や破壊活動を起こした者を逮捕・鎮圧して社会秩序を回復し、その後で民族宥和政策を徹底するのが解決策となります。
一方、ウイグル人反政府運動であるととらえるのであれば、ウイグル人の「反政府組織」とみなした人物や団体を弾圧するのが解決策となるでしょう。
この2つの解決策の違いは、漢族や破壊活動の暴動に対しても中国政府が厳しく取り締まるのかどうかという点にあります。


しかし最近の報道を見ていると、中国政府の弾圧はウイグル族に厳しく、漢族に甘いものであるようです。

 【ウルムチ(中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区)=関泰晴】中国新疆ウイグル自治区ウルムチの暴動から12日で1週間となる。

 中国当局は3万人ともいわれる武装警察部隊などを動員し、184人の犠牲者を出した暴動を力で押さえ込んだ。だが、ウイグル族容疑者の拘束を強化する一方、漢族数千人による7日のデモへの処罰は見送る構えの当局に対し、ウイグル族は不公平感を募らせている。漢族側の民族的な反発も強まるなか、双方の対立感情は水面下で先鋭化している。


 ◆装甲車◆


 地元紙は11日、当局がウイグル族の容疑者の摘発強化を進め、9日午後〜10日未明に200人を拘束したと報じた。胡錦濤共産党総書記(国家主席)が暴動を組織した容疑者の徹底摘発を厳命する中、7日までに1434人に上った拘束者は、着実に増加中だ。

 警察当局は11日も暴動現場となった人民広場と国際大バザールでの完全封鎖を続行した。同バザールに近いウイグル族居住区では一般車両の通行が禁じられ、警官以外の漢族の姿は徐々に少なくなっている。さらに武装警察部隊は11日、装甲車など13台で宣伝用の車列を作り、容疑者の密告を奨励して回った。

 これに対し、ウイグル族の住民は「不公平だ」と訴える。7日の漢族のデモで暴徒に商店が破壊されたというウイグル族の男性(50)は、「警察は漢族の容疑者を見逃し、必要な捜査をしない」と憤る。


 ◆死者数◆


 当局は11日、死者の民族別内訳を、漢族137人、ウイグル族46人、イスラム少数民族回族1人と発表した。これもウイグル族の激しい怒りを招いている。中心部の暴動現場付近に住む男性(45)は、「平和的なデモに対して治安部隊が無差別に発砲していた。本当はウイグル族の死者の方が多いはずだ」と訴えた。

 漢族は5日の暴動を、ウイグル族への非難を込め、「7・5事件」と呼ぶ。一方、ウイグル族は7日のデモを「7・7事件」と呼んで抗議の念を強調する。当局が漢族の報復行動を押さえ込み、「沈静化」を演出する陰で、双方の反感は不気味な膨張を続けている。
(2009年7月12日07時24分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090712-OYT1T00126.htm



このような中国政府の行動から考えられることは、中国政府は真の原因である民族対立には目をつぶって、「ウイグル人反政府運動」という自分たちが打ち出した公式見解に基づいて、問題を解決しようとしているということです。しかし、真の原因に目をつぶっている限り、新疆ウイグル自治区の問題を改善することはできないでしょう。


何故中国政府がこのような見解に固執しているかというと、一つには面子を重んじる中国人の傾向があるでしょう。ただ、中国政府も必要があれば面子を保ちながら行動や見解を変えていく現実主義は備えているはずですから、今回そのような現実主義が見られない背景には、中国国内や政府内部にこのような見解に固執しなければならない要因があるのでしょうね。恐らく、チベット問題でダライ・ラマを批判し続けている理由もそれと同じようなものでしょう。


そのような要因として一つ挙げられるのは、チベットウイグルの問題で少しでも民族融和や自治の方向に動いてしまうと、アリの一穴から堤防が決壊するように、国家分裂を招いてしまうのではないかという恐怖でしょう。僕には大げさな心配だと思えるのですが、民主主義ではなく正当性に弱いところがある中国共産党にとっては、それも大げさな考え方とは思えないのでしょうね。
もう一つは「日々チナヲチ」でも指摘されているような、漢族のウイグル人に対する民族差別的な感情、もっと具体的に言えばウイグル人を「犯罪者」とみなすような感情なのでしょうね。*1このような感情があるところでウイグル人を優遇するような政策を打ち出すと、漢族の不満が高まり、今回のような漢族のデモや「暴動」も招いてしまうということなのでしょう。


このあたりの問題を乗り越えないことには、ウイグルチベットの問題が改善されることはないのでしょう。もっとも胡錦涛あたりはそれも十分分かっていて、それでも国内政治的な原因で必要な手を打てないのかもしれません。中国政府は決して無能ではないのでしょうが、結局は国内要因が足を引っ張っているということだと思います。

*1:そもそも今回の事件のきっかけとなったのが、広東省のおもちゃ工場で雇用されたウイグル人が女性労働者への暴行を疑われ、怒った漢族労働者がウイグル人を襲撃し、そのニュースが新疆ウイグル自治区に伝わったことでした。http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090627-OYT1T00700.htm