Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

日銀と民主党政権の微妙な関係

先週の総選挙では民主党が圧勝し、政権交代が実現することになりました。
これまで民主党は金融緩和を渋る日銀の姿勢に理解を示し、白川総裁誕生の時には事実上の立役者ともなってきましたが、いざ政権を取るとなると、これまでのように日銀の主張を100%認めるわけにも行かなくなってきたようです。

 日銀が民主党政権の誕生に神経をとがらせている。金融危機対応に追われてきた日銀だが、民主党幹部が公約した政策の財源捻出(ねんしゅつ)のため、日銀に国債買い取り増額を求める可能性を示唆するなど新たな対策を迫られかねないためだ。民主党は「日銀の独立性」に理解を示してきたが、日銀には「政権に就くと、変心するかもしれない」との警戒感もくすぶる。【清水憲司】


 ◇「現状で限界」財政規律崩壊を懸念
 ◇理解者のはずが


 日銀の白川方明総裁は1日、民主党本部に鳩山由紀夫代表を表敬訪問した。代表は「突っ込んだ話はなかった」と語ったが、総裁が望んでいたこととはいえ、民主党からの急な面会要請に日銀内に一時、緊張が走った。

 民主党はこれまで「財政と金融政策の分離」を主張。昨年春の日銀正副総裁人事で政府が提案した財務省OBの起用にことごとく反対し、日銀出身の白川総裁の就任を後押しした。昨年10月は山口広秀理事の副総裁昇格もあっさり認めた。

 日銀は政治とのパイプが細く、自民党政権では金融政策をめぐって、たびたび政府・与党の「圧力」にさらされてきた。一方、野党の民主党は政策に介入しない「理解者」役を務めてきた。

 だが、日銀出身の大塚耕平民主党政調副会長が8月上旬、市場関係者向けマニフェスト政権公約)説明会で「日銀に財政ファイナンス(財源確保)に協力していただく余地はあるかもしれない」と長期国債買い取り増額の要請をほのめかしたのを機に、一気に日銀内に困惑が広がった。


 ◇「出口」影響は?


 民主党が公約した経済政策は財源が疑問視され「国債増発に頼らざるをえない」との指摘も出ている。日銀は、市場に資金供給するため、長期国債買い取りを月1・8兆円に増額している。国債が大量増発された場合、消化のため、日銀に買い取りの増額を求める可能性があるが、日銀は「ほぼ限界」とけん制する。

 日銀が財政赤字穴埋めで長期国債買い取りを増額すれば、市場で「財政規律崩壊」と受け止められ長期金利が急騰、景気に冷や水を浴びせかねないためで、白川総裁も否定的見解を繰り返している。

 日銀は企業の資金繰りを支援する社債やCP(コマーシャルペーパー)の買い取りも実施しており、期限の年末までに打ち切るかを判断する。金融政策を平時に戻す「出口戦略」を民主党がすんなり受け入れるかどうかも焦点となる。

 日銀は「民主党内では意見集約されていない」とみているが、「民主党の出方は景気次第。追加の金融緩和を要請されてもおかしくない」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏)との観測も根強い。

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090904ddm008020015000c.html


 <金融政策> 
民主党
 ◎岡田克也幹事長
  日銀との関係:「日銀の判断を基本的に尊重する。金融政策について政府と対立する
状況は好ましくないのでコミュニケーションをよくしたい。日銀に認められた権限は、日
銀の責任で行使してもらう」(7月28日インタビュー)
 ◎大塚耕平政調副会長
  日銀との関係:「日銀法4条の趣旨に則り、政府と中央銀行の政策の整合性維持に努
めたい」「厳しい経済状況を乗り切るには、中央銀行当局と財政当局間で共通の価値観、
何らかのアコードを見い出すことはあり得る」(8月7日説明会)
  日銀の国債買入:「財政ファイナンスに協力していただく余力はあると推測している。
(ただ、)こちらからお願いしたり、財政当局から圧力をかけることがあってはならな
い」(8月7日説明会)      

http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20090818-00000565-reu-bus_all



8/10の記事民主党大塚耕平氏が政府と日銀のアコードについて言及していることを紹介しましたが、同時に大塚氏は日銀による財政ファイナンス(日銀による政府が発行した国債の買い取り)についても言及していたようです。日銀寄りの主張を行っている毎日新聞は、これを批判しています。


今回の選挙で、民主党子育て支援や高速道路無料化など大規模な財政支出をマニュフェストで公約する一方、財政規律重視や当面の消費税増税否定も公約しています。民主党は予算の大幅な組み替えで財源を捻出すると主張していますが、その実現を危ぶむ声も大きく、財源をどうするかが問題となっています。
そのような「無い袖は振れぬ」状況を脱却するために、大塚氏はアコードや財政ファイナンスに言及したのでしょう。
もちろん大塚氏は日銀出身ですし、これまでの発言を見ても日銀と同様の考えを主張していましたから、考え方が日銀と大きく違うはずはないでしょう。ただ、野党として政権を批判している間はそれでも良かったのでしょうが、政権交代が実現して実際に経済政策を担うとなると、政府が金融政策に指一本触れられないかのような現状を放置していたのでは、民主党政権の政策の幅は大きく制限されてしまいます。
さすがに大塚氏もそこには気づいているでしょうから、このような発言が出てきているのでしょうね。


ただ、このような考え方を実現しようとすると、日銀の独立性を再検討して、金融政策の目標は政府と日銀で共有し、日銀の独立性は金融政策の手段だけに留めるようにしないといけないでしょう。また、財政ファイナンスを行うのであれば、インフレ率が高くなりすぎないようにするため、インフレターゲットが必要でしょう。これらの政策は日銀が強硬に反対してきたのもであり、大塚氏を始めとする民主党の金融関係議員が強く反対してきたものでもあります。
もし本当に民主党がアコードや財政ファイナンスを行おうとするのであれば、日銀の独立性の再検討やインフレターゲット実施に踏み込まなければいけません。果たして大塚氏や鳩山首相にそこまで踏み込む覚悟はあるのでしょうか?


もしその覚悟がなければ、民主党政権の経済政策の幅は大きく制限されてしまい、やがて日銀の金融引き締めで景気は再び悪化し、その後の選挙で民主党は負けてしまうのでしょう。それでは今回自民党が辿った末路と同じ道を辿ることになります。