Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

「外需から内需への転換」は正しいのか?

 [ピッツバーグ 25日 ロイター] 鳩山由紀夫首相は25日、国連総会や20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)など一連の外交日程を終えて訪問先の米ピッツバーグで会見に臨み、子ども手当の創設やガソリン税暫定税率廃止などを通じて個人消費を刺激し、日本経済をこれまでの外需依存から内需主導に転換すると宣言した。円高が進行する為替市場の動向については「為替は安定的であることが最も望ましい」と語った。また、国連気候変動首脳会合で表明した温室効果ガス25%削減目標の達成は、日本の科学技術力を展開すれば不可能ではなく「十分に自信がある」と強調した。


 <為替は安定が望ましい、G8なくすべきでない>


 金融サミットでは、各国が世界経済の不均衡是正に向けた取り組みを行うことで一致、日本も一段の内需拡大が求められることになる。鳩山首相は、これまでの日本経済が米国の強い需要を背景に「外需依存で発展を遂げることができた。今でも日本の産業界は外需依存がまだ高いのが現実の姿だ」とした上で、「金融危機の中で消費が減退し、米国も貯蓄を高めていかなければならない。外需依存の仕組みが日本の景気をリードすることができなくなった」との認識を示した。


 その上で、鳩山政権が打ち出している「子ども手当」やガソリン税などの暫定税率廃止、高速道路料金の無料化などの新規政策を挙げ、「今まで以上に消費を刺激する施策を大胆に行わなければいけない。内需振興に思い切って経済を転換させていく」と表明。こうした政策は「海外からも理解される話だと思う」と語った。

UPDATE1: 内需主導に経済を転換、温室効果ガスの削減目標達成に自信=鳩山首相 | Reuters


 [東京 30日 ロイター] 藤井裕久財務相は30日午後の会見で、10月2─3日にトルコのイスタンブールで開かれる7カ国財務相中央銀行総裁会議G7)について、各国が協調しながら経済運営するための合意を得る会議になるとの認識を示した。そのうえで、日本として経済を内需主導に転換し、国際協調を必ずやると説明すると語った。最近の外国為替市場における円高の動きについては、取り上げる予定はないと述べた。


 藤井財務相G7での日本は何を言うべきか、との質問に対し「政権が変わったために、これまでの経済運営と変わったことを言わなければいけない。内需主導の経済体制に大きく転換するのだと、そしてその上に立って国際協調をやるんだと申し上げる」とした。ただ最近の足もとの円高傾向について日本から取り上げたり発言したりするかについては「ない」と述べた。

UPDATE1: G7で円高取り上げるつもりない、内需主導転換と国際協調を説明=藤井財務相 | Reuters



鳩山政権の経済政策に関する発言を見ていると、「内需主導」という言葉が目立ちます。これまでの日本経済が輸出に頼る「外需依存」であって、金融危機以降、アメリカの消費低迷でこの路線が行き詰まったので、「内需主導」に転換しなければならないという考え方のようです。


経済学の考え方では、需要は消費(ここでは住宅投資も含みます)、設備投資(正確には民間企業設備投資)、公共投資(公共事業)、輸出(正確には輸出から輸入を引いた純輸出)の4つに分類できます。輸出は明らかに外需ですから、内需というのは、それ以外の消費、設備投資、公共投資となるでしょう。
ただ、民主党は公共事業には批判的ですから、鳩山政権が伸ばそうとしているのは消費と設備投資でしょう。
しかし現在の日本経済のようなデフレの元では、消費を先に延ばした方が物やサービスが安く買えたり、より品質の良いものが買えたりし、個人の所得も減少します。従って消費は活発にはなりません。
また設備投資についても、デフレでは全体的に売り上げや利益が減少しますので、金利が低くても設備投資は活発にはならないでしょう。*1
従って、デフレが続く限り消費も設備投資も増えず、「内需主導」への転換は難しいと思います。


鳩山政権は子ども手当の創設やガソリン税暫定税率廃止といった財政政策や、環境などの新産業育成によって内需主導に転換すると言ってますが、どちらもマネーの量を増やす政策ではないので、デフレ脱却は期待できないでしょう。だから鳩山政権の「内需主導」への転換は、このままでは失敗すると思います。
一方、主要国でデフレなのは日本だけですから、デフレを放置すると円高となって外需は減少します。従って、外需が減少する一方で内需は拡大できず、日本経済は衰退することになります。そして経済の衰退は内需を減少させますから、結局、デフレの元では内需、外需ともに減少し、日本経済の衰退を止められないという結論になるでしょう。


これを止めるには、マネーの量を増やすことでデフレを脱却する必要があります。具体的には日銀による国債の購入や政府からの引き受け、あるいは政府通貨の発行が必要でしょう。また、期待インフレ率を高めると共に、過度のインフレを防ぐためのインフレターゲットも必要でしょう。
ただ、このようなデフレ脱却政策は円安を招いて外需も増大させるため、やはり「外需依存」から「内需主導」への転換にはなりません。


このように考えると、そもそも「内需主導」か「外需依存」かという二者択一の考え方が間違っていると思います。金融を緩和してデフレを脱却すれば内需も外需も伸びますし、このままデフレを放置すれば内需も外需も縮小します。
だから、外需から内需への転換という考え方ではなく、デフレ脱却で需要全体を伸ばすという考え方こそが、鳩山政権には必要ではないでしょうか?

*1:名目金利が低くてもデフレで実質金利が高いと投資が行われないというのは、この現象を別の言葉で言い換えたものです。