Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

日銀の「量的緩和」について

12/1に日銀は臨時金融政策決定会合を開き、新たな追加緩和策を決めました。
今回の緩和策について、マスコミでは「10兆円を資金供給」とか「量的緩和」といった報道がなされていますが、どうも色々調べているとそんなものではないようです。
面白いことに、代表的なリフレ派の経済学者である田中秀臣さん(id:tanakahidetomi)と、JBpressで日銀寄りの主張をしているバジョット氏が、共にこのようなマスコミ報道の内容を否定し、「量的緩和」ではないとしています。

 群馬の講義を終えて、臨時の政策委員会・金融政策決定会合が開催されているのをラジオのニュースで聞きましたが、帰宅したら落ち着く間もなく連発で雑誌の取材を受けたのです。そこでも話したのですが、今回の日本銀行の政策はいわゆる「時間軸効果」(低い金利にすると宣言することで経済主体の将来の短期金利予想を低める政策)を中心として、おまけで結果としての日銀のバランスシートの膨張が生じる、という理解でいいのではないかと思います。


 つまり01年に日本銀行が採用したゼロ金利(時間軸効果)+量的緩和日銀当座預金残高目標)という政策とは異なり、簡単にいうとその組み合わせの前者だけを採用しただけといえます。ですので一部の報道が日銀が市場に10兆円を資金供給すると強調してますが、これは注意が必要でしょう。というのは従来の日本銀行の採用した「量的緩和」ではないからです。もっと消極的な位置づけです。この消極的な位置づけを、報道によれば、白川総裁は「量的緩和のようなもの」と「のようなもの」に託しているのでしょう。ここらへんの理屈付けはそのうち総裁記者会見などで明らかになるんでしょう(僕はまだ読んでません)。


 そして先に結論をいうと、日本銀行はいままでも景気対策として金融政策を事実上放棄してきたが、今回はデフレ対策、景気対策としてほぼ最低限のことしかしなかった、ということです。日本の悪化していく経済を積極的に支える意思よりも、やはり明日に予想される首相と総裁の会見を意識した、「景気対策」や「「デフレ対策」ではなく、一種の「政治術」が今回の政策決定の主なる原因でしょう。つまり「アリバイ」づくりですね。そしてこの程度の「アリバイ」で鳩山首相が納得してしまえば、2日の会談は緊張感もない、事実上の骨抜き会談になるでしょう。そしてそれは政権が事実上、日本銀行のデフレ対策の責任を放免し、自らその責任を引き受けることになってしまうでしょうね。

“なにもしない日本銀行”から“少ししかしない日本銀行”へ(政府は最小の支援で満足するのか?) - Economics Lovers Live


日銀が1日、臨時金融政策決定会合を開き、「新型オペで10兆円を資金供給する」という追加緩和策を決めた。


 新聞紙面では「量的緩和」などの言葉が踊り、あたかも強力な緩和策に踏み切った印象があるが、実態は既存オペを小細工しただけのお寒い内容。


 ワイドショーのテレビカメラの前で「必殺仕分け人」が官僚を罵倒する事業仕分けは、本質的な財政削減効果の無さとは裏腹に、国民の支持を得た。気を良くした民主党大衆迎合路線を突き進むことは間違いないが、本来は、技術的な金融政策を担う日銀までもが、政治の圧力に負けて、大衆迎合に傾きつつある。


大言壮語の解説で政策努力をアピール?


 金融緩和とは、本来、政策金利の誘導目標を引き下げる「利下げ」か、当座預金残高など量的指標の引き上げによる「量的緩和」か、いずれかの手段によって行われる。


 現状において、日銀は金利を操作対象としており、誘導目標である無担保コール翌日物は0.10%のまま変更されなかった。では、一体何が変更されたのか。「共通担保資金供給オペ基本要領」の一部が改正されたのだ。


 通常、この手の変更は金融市場の専門家だけが注目する極めて実務的なものだ。多少説明すると、従来から行われている「共通担保資金供給オペ」の手法として、金利固定方式も加えたというだけのこと。期間3カ月の資金供給が0.10%の固定金利で実施されることになる。


 金融市場での効果としては、「2年物までの国債利回りが低位で安定しやすい」(都銀)とみられている。ただ、そもそも、2年物の市場金利はかなり下がった状態にあり、今回の日銀の措置による効果は「極めて限定的」(外資系証券エコノミスト)だ。


 所詮、その程度のことが、2日の朝刊各紙では「追加緩和」「量的緩和」と大々的に報じられた。


 それは、日銀が大言壮語の解説を行ったからに他ならない。日銀は1日の決定会合後に参考用に1枚の資料を配布した。その中で、共通担保オペの改正を「新しい資金供給手段」と仰々しく位置付け、これによって「金融緩和の一段の強化を図る」と喧伝したのだ。


 日銀はこの資料にくせ玉までしのばせた。「新しい手段」による供給額として「10兆円」との数字を示したのだ。この金額は、政策運営上のターゲットでも何でもない。金利固定のこのオペを毎週1回・8000億円ずつ行っていけば、オペ残高が3カ月で約10兆円になる、というただの算数だ。


中身より「見出し」重視のマスコミ虚報


 何でも大きく報じたいマスコミはこの数字に飛びつき、「日銀追加緩和、10兆円供給」などの大見出しが飛び交うことになった。


 騒ぎに拍車を掛けたのが、白川方明総裁自身だった。決定会合後の会見で、政策スタンスについて「広い意味での量的緩和だ」と説明してしまったのだ。白川総裁はこれまで「量的緩和」という表現を頑として否定してきただけに、マスコミはこのフレーズにも飛びついた。

日銀追加緩和のお寒い実態 小細工オペで猫だましの「量的緩和」 | JBpress(日本ビジネスプレス)



さらにこれだけではなく、不思議なことに日銀は10兆円どころか、この一週間で16兆円以上の資金供給を行っているようです。こうなるとマスコミで報道された10兆円という数字の根拠すら怪しくなってきます。

 日銀は4日、金融機関が手元資金をやりとりする短期金融市場に5兆5000億円を供給した。日銀は1日の臨時金融政策決定会合で追加金融緩和に踏み切り、その翌日から通常を大幅に上回る大量供給を続けている。3日間合計の供給額は16兆7600億円に上った。
 連日の大量供給により、短期金利は全般に低下。円のロンドン銀行間取引金利LIBOR)も低下して6カ月物は3日時点でドルに並び、円高の一因とされていた日米金利逆転の状態は解消されつつある。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091204-00000098-jij-bus_all



もっとも、日銀が一週間でこれだけ多額の資金供給を行っていることは、日本経済にとっては良いことです。この一週間で円高傾向が止まり、株価も上がったのは、この効果だと思います。
ただ、マスコミに大々的に発表した「量的緩和」、「10兆円の資金供給」が実は羊頭狗肉であり、その裏でそれとは別に密かに大規模な資金供給(つまり金融緩和)をしているというのは、非常に分かりにくいですねえ。ひょっとして、ほとぼりが冷めたら日銀は資金供給を密かに止めてしまうのではないかと、不安になってしまいます。
今回のように日銀はやろうとすれば円高阻止はできるはずなのに、その事実を認めなくても良いようにいろんな策を弄しているのではないか、そんな疑いすら抱いてしまう今回の金融緩和劇でした。

12/7訂正

twitterで片岡剛士(goushikataoka)さんからご指摘いただいたのですが、緩和効果を見るためには資金供給額ではなく当座預金の増減を見ないといけないようです。*1
従って、この記事の後半は間違った議論でしたので、削除させていただきます。
間違った考え方に基づいて日銀を批判してしまい、誠に申し訳ありませんでした。

*1:このデータはhttp://www3.boj.or.jp/market/jp/menu.htmの確報値にあるそうです。