Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

普天間基地問題でどちらも妥協できない理由

普天間基地の移設問題は、結局鳩山政権は年内に決着させることが出来ず、移設先の検討をするという名目で結論を来年に先延ばししました。しかし、アメリカは相変わらず辺野古への移設を主張しているようです。
しかし、アメリカはなぜ辺野古への移設にこだわっていて、それ以外の選択肢を認めようとしないのでしょうか?また、なぜ辺野古にこだわる理由を説明しようとしないのでしょうか?*1
確かに過去の合意事項を一方的に変更しようとしているのは日本側ですから、アメリカはそこを指摘するだけで正当性は主張できるという立場なのでしょうが、こういう態度は柔軟さに欠けているように思います。ブッシュ政権ならともかく、「チェンジ」を掲げているオバマ政権らしくはないでしょう。*2


そのような疑問をずっと氷解させてくれたのが、この「週刊オブイェクト」の説明でした。

普天間基地移設先は沖縄県内でなければならない理由・・・それは、地政学などといった御大層な代物を持ち出すまでもありません。事は単純に「ヘリコプターの航続距離の関係」だからです。

海兵隊の大型強襲ヘリコプターCH-53E「スーパースタリオン」は2000kmのフェリー航続距離を持ち、戦闘時にはその半分1000km以下の航続距離となります。戦闘行動半径は500km以下、装備状態にもよりますが300〜500kmぐらいです。

それでは先ず台湾海峡有事を想定してみましょう。この際に日本政府は有事法を発動し、真っ先に下地島空港を接収、在日米軍に引き渡します。そして普天間基地の米海兵隊ヘリコプター部隊は、戦況次第で急ぐ必要がある場合は、強襲揚陸艦の到着を待たずに普天間基地から飛び立ち、台湾の首都・台北に直接ヘリボーン降下し、米軍による直接介入を果たします。そして帰りは下地島空港に降りて、燃料を補給して普天間基地に戻ります。普天間-台北-下地島は約1000kmで、これなら空中給油無しで作戦を行えます。

下地島上空の航空優勢を完全確保できるようなら、出撃基地として利用できるようになり、輸送能力は大幅に上がります。以上、挙げた作戦計画は台湾海峡有事の際の対応手段の一つに過ぎず、有事となれば必ずこのような運用を行うとは限りませんが、そうなる機会があるならば、即座に台北へ直接ヘリボーン降下できる位置に海兵隊の航空基地がある事の重要性が、理解できると思います。朝鮮半島有事だけを考えれば別に佐賀空港でも構いません。ですが台湾海峡有事を考えるならば、沖縄県内になければ即応投入は出来ません。ヘリコプターは巡航速度が遅い為、遠くから飛んでくると時間が掛かる上、パイロットの疲労の限界も考えれば、空中給油を繰り返して休養も与えずに戦場へ投入するのは可能な限り避けたい所です。例えば湾岸戦争でも米本土からサウジアラビアに緊急移動展開したF-15戦闘機パイロットは、移動後の丸1日を休息として与えられています。その時間すら惜しい場合、常時実戦部隊が駐留している前線基地の存在価値が非常に重要になってきます。


(中略)


つまり、普天間基地を国外ないし県外へ移転しろという主張は、台湾を見捨てるという主張に繋がります。何年か前、民主党長島昭久議員のブログのコメント欄がまだ使えていた頃、長島議員が普天間基地のグアム移設を主張していたので、「沖縄の海兵隊は台湾救援用だが、台湾を見捨てるという主張と受け取って良いか?」と聞いてみたのですが、長島議員はそれから突然黙って反応は無くなってしまいました。・・・まぁ、親台湾派として有名になりつつあった長島議員としたら、「はい見捨てます」とは言えなかったんでしょうけれど・・・というより、もしそんな事を言ったら台湾人の独立派に「長島は台湾を裏切ったようだ」と伝える気でしたけどね。

なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか : 週刊オブイェクト



確かに普天間基地の県内移転にこだわる理由が台湾有事に備えるためであるならば、アメリカが県内移転にこだわる理由も、なぜこだわるかはっきり言わない理由も理解できます。対中関係を重視しなければならないオバマ政権としては、「台湾防衛のために普天間基地の機能を沖縄県内に留めなければならないのだ」とははっきり言えないでしょう。そんな発言をするだけで、対中関係を混乱させかねません。


一方、鳩山政権の方も、どうしても普天間基地の県外・国外移設という旗印を捨てられないでいます。さすがに国外移設は難しいとしても、県外移設はなんとか実現したいようです。こちらはなぜなのでしょうか。
高橋洋一氏と竹内薫氏の新刊「鳩山由紀夫の政治を科学する (帰ってきたバカヤロー経済学)」によると、民主党の支持母体は日教組自治労、パチンコ業界の3つだそうです。*3このうち、日教組の沖縄における組織である「沖縄県職員組合(沖教組)」と自治労沖縄県本部は一貫して辺野古への移転に反対してきましたから、支持母体の意向に反する辺野古移転を民主党は認めるわけにはいかないのでしょう。



このように、アメリカも民主党も妥協できない理由があるとなると、いくら先延ばししたところで合意に達するのは困難でしょう。それどころか、日本が民主党政権であるかぎり、もしくは台湾問題が存在し続ける限り、解決できないということになってしまいます。そうなると結論としては現状維持、つまり普天間基地の存続と言うことになってしまうわけですが、沖縄にとってこれは最悪の展開になってしまいます。また、このままでは日米関係の冷却化も避けられないでしょうし、もし事故でも起こったら一気に緊迫化してしまいます。
どうやら日本の政権交代はとんでもないパンドラの箱を開けてしまったようですね。

*1:考えてみれば、インド洋での給油作戦中止の場合は、ここまでアメリカは頑なではなく、別の選択肢も受け入れていました。

*2:例えば、フィナンシャル・タイムズ紙のこの記事も、そのような違和感を表現したものだと思います。「http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20091113-01.html

*3:この本の内容については、田中秀臣氏のブログ「Economics Lovers Live」に詳しい解説があります。「鳩山政権と予算のソフト化・ハード化:高橋洋一・竹内薫『鳩山由紀夫の政治を科学する』