Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

日銀が「産業政策」?

4月30日の日銀金融政策決定会合では、政策金利の変更はなかったのですが、中央銀行としては異例の政策が検討されることになりました。

 [東京 30日 ロイター] 日銀30日の金融政策決定会合で、成長基盤強化の観点から、民間金融機関による取り組みを資金供給面から支援する方法について検討することを決めたが、市場では新型オペや長期国債の買い入れ額の増額に追い込まれることで「量的緩和」の世界に逆戻りすることを避けたい日銀の意図がこの裏に隠されているのではないか、との思惑が広がっている。


日銀が成長基盤強化に向けた支援策検討、「量的緩和」圧力けん制との声 | ビジネスニュース | Reuters 日銀が成長基盤強化に向けた支援策検討、「量的緩和」圧力けん制との声 | ビジネスニュース | Reuters 日銀が成長基盤強化に向けた支援策検討、「量的緩和」圧力けん制との声 | ビジネスニュース | Reuters このエントリーをはてなブックマークに追加



この「民間金融機関による取り組みを資金供給面から支援する方法」ですが、高橋洋一氏によると日銀が成長基盤強化のために必要と考えている環境・エネルギー関連産業に低利の資金供給を行うそうです。これは従来民間銀行や政府系金融機関が行ってきたミクロ経済面での産業ごとの融資を、本来マクロ経済政策を担うはずの日銀が行うということです。

 大型連休中、日本の閣僚は海外に行くことが多い。ちなみに菅直人副総理兼財務相も1日から4日までウズベキスタンに行った。そこで鬼のいぬ間というわけではないが、4月30日の日銀の金融政策決定会合はサプライズだった。金融緩和措置ではない。経済成長の基盤強化を促す新たな資金供給策を導入し、環境・エネルギー関連の研究開発や設備投資などに融資する金融機関に低利の資金を供給するというのだ。

 これは、これまで民間銀行あるいは財務省と産業所管官庁の政策金融機関で行ってきたことだ。日銀はマクロ経済面で金融緩和・引き締めを行い、財務省と産業所管官庁の政策金融機関はミクロ経済面で産業ごとに低利融資を行うという役割分担があった。その役割分担に抵触しかねない日銀の動きについては、連休中でなければ、政府各府省と日銀の間でひと悶着あったかもしれない。


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ただ、そのためには日銀が民間銀行のように、どの産業が成長するかの判断を行わなければなりません。しかし、日銀にそのようなことが可能なのでしょうか?

日銀も広い意味で言えば政府機関の一部です。そして、一般に政府機関が特定の産業を成長させようとする政策は、産業政策と呼ばれます。今回の日銀の融資も、成長基盤強化のために必要と考えている産業に対する産業政策でしょう。

しかし近年、経済学者の間では、産業政策の効果について疑問視する傾向が強まっています。高橋洋一氏は別の記事で、そのような傾向について述べています。どうやら、戦後一貫して産業政策を担ってきた通産省(現経産省)ですら、失敗の連続のようです。*1

成長産業を見いだすという産業政策は、日本独特のモノだ。そんなによければ、とっくに世界中で流行しているはずだ。もちろん、環境、医療などの分野で、国の環境政策、医療政策までを否定するものでないが、国を挙げての産業育成には問題がある。国がある特定産業をターゲットにすると、結果として産業がダメになるというネガティブな話は多い。
日本の戦後成長の歴史を見ても、通産省(現経産省)がターゲットにした産業は、石油産業、航空機、宇宙産業などことごとく失敗している。逆に、通産省の産業政策に従わなかった自動車などは、世界との競争の荒波にもまれながら、日本のリーディング産業に成長してきている。竹内弘高教授(一橋大学)の研究でも、日本の20の成功産業についても政府の役割は皆無だったようだ。要するに、国に産業の将来を見極める眼力があればいいのだが、現実にはそんな魔法はない。必要なのは、国による選別ではなく、競争にもまれることだ。


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長年産業政策を担当してきた通産省ですらこの状況ですから、産業政策については専門でもない日銀が、成長分野がどこか判断できるか、非常に疑問です。

日銀は金融政策ではデフレ脱却はできないと主張し、デフレ脱却のためには構造改革や成長戦略、産業政策が必要だと言ってきたわけですが*2、政府や与党からデフレ脱却を求める声が強まった結果、本来担当外であったはずの成長戦略や産業政策に乗り出すことになったというのは、大きな皮肉だと思います。今回の政策は日銀の責任回避のツケが回ってきたのではないでしょうか。

そんなことをするよりも、日銀の専門分野である金融政策でデフレ脱却を目指した方が、中央銀行としてよほど真っ当だと思うのですが。高橋洋一氏も最初の記事の後半部で、そう言ってます。

 30日の記者会見では、白川方明日銀総裁自らが「オーソドックスな中央銀行の業務でない」と白状しているが、日銀が産業の目利きになれるはずがない。日銀が本来業務である金融政策をしっかり行うのが先決ではないか。無理に、日銀が政策金融機関になるべきではない。

 この日は日銀の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)も公表された。それによれば、2011年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)を1月公表のマイナス0・2%からプラス0・1%に上方修正した。となると、現時点で30兆円以上あるGDPギャップが、11年央までには解消しているとみているのだろう。そのために、必要な実質経済成長率は5%程度とかなり高めになる。

 新しい資金供給策は、民主党から要求の強いインフレ目標を受け入れたくないばかりに、日銀が奇策を弄したとの批判もある。素直にインフレ目標とその結果としての量的緩和を受け入れた方がいい。そうした中央銀行の本業をおろそかにして、慣れない目利きや政策金融をやるべきではない。何にもまして、日銀は優れた物価上昇率の管理技術があるのだから、マクロ経済運営に専念すべきだ。

 ちなみに、11年度にプラスの物価上昇率に持っていくには、海外需要増という他力本願でなくても40兆円ほど日銀が量的緩和すれば達成できる。その中で、どのような産業へ資金を流すのかは、民間金融機関や政策金融機関に任せれば、自ずと成長分野に資金は流れていく。経済を活性化するために、経済全体のマネーを増やせるのは日銀だけであり、政府と日銀の協調が欠かせない。


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正直、日銀はそこまでして金融緩和を避けたいのかとつくづく呆れてしまいます。金融緩和は効果がないとする「日銀理論」で自縄自縛になってしまい、効果がないと思っていても金融緩和以外の筋の悪い方法を模索するしかなくなっているんでしょうか。
まあ、今回は「検討することを決めた」そうですが、もしこれが検討してもダメだったとなると、日銀は次に言い出すんでしょうね。ちょっと楽しみです。w

*1:この件については若田部昌澄氏がもっと詳しく解説している記事があります。 「“GDP創出”の経済学」:http://voiceplus-php.jp/archive/detail.jsp?id=55

*2:昨日の記事でも述べたように、この主張は間違いです。 http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20100507/1273246536