Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

みんなの党とリフレ政策

すでに皆さんご存知の通り、7月11日に行われた参院選は、民主党は44議席しか獲得できず、与党は過半数割れに追い込まれました。民主党議席数は自民党(51議席)を下回るもので、民主党はこの選挙に大敗したと考えてよいでしょう。
この選挙で10議席を獲得し、一躍注目を浴びたのがみんなの党です。渡辺喜美代表は、選挙後のインタビューで、日銀法改正を主とする「デフレ脱却法案」を提出する方針を表明しました。

 [東京 12日 ロイター] みんなの党渡辺喜美代表は12日午前、提出予定の「デフレ脱却法案」について、法案を提出する際には日銀法改正で「米FRB(連邦準備理事会)のように雇用の最大化を盛り込む議論をすることになるだろう」とロイターの取材に対して話した。

 雇用の最大化については、(日銀法で目標に明記すべきと)「連合の古賀伸明会長も述べている」と強調した。

 また、民主党のデフレ脱却議連とは、「接触していない」として政策面で共闘する考えのないことを示した。同議連は1ドル120円を適正な為替水準として掲げているが、渡辺代表は、「為替水準を示すのは金融政策ではない」との考えを示した。一方で、「マネー供給を増やせば円安方向となるので、(円安誘導は)『裏戦略』のようなもの」とも述べた。 

 渡辺代表は11日夜、「デフレ脱却法案を準備中だ」として、同法案の内容について「日銀法改正が主なものだが、これが成立すれば失業者が100万人以上、経済的な理由による自殺者が5000人以上も救える」などと語った。 

 みんなの党が成長戦略として掲げているデフレ解消のための検討案は下記の通り。 


 ・政府と日銀との間で政策目標を共有する枠組みを作り(日銀法改正)、物価安定目標を設定する。共有した目標達成のための具体的措置及び実施時期については、日銀が独立して定める。

 ・政府から日銀に対し、たとえば、20兆円の中小企業向けローン債権に政府保証を付与したうえで、金融機関から日銀が買い取ることを要請できるようにする。

 ・地域の信金・信組などが、中小企業などの議決権のない株式を保有することを促進し、地域密着型金融を強化する。

 ・中小企業の銀行からの長期借入金のDES(債務の株式化)も検討。


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みんなの党がリフレ政策を支持していることは以前から知っていたのですが、みんなの党は元々小泉〜安倍政権の構造改革路線の流れを組む政党なので、公務員制度改革のような構造改革路線を優先するものだと思っていました。だから、選挙後真っ先にデフレ脱却を取り上げたことには、少し驚きました。


ところが、その後知った情報によると、渡辺喜美氏はかなり昔からデフレ問題で日銀を批判したようです。2001年には当時の速水日銀総裁に公開討論を求める文書を出しています。*1

日銀総裁に公開討論を求める!


速見 優 日本銀行総裁 殿


平成13年8月17日


「日  銀  法  改  正  研  究  会」
代表世話人(座長)衆議院議員 山本 幸三
衆議院議員 渡辺 喜美
参議院議員 舛添 要一


1. 日銀は、8月14日、日銀当座預金を5兆円から6兆円に引上げるなどの新たな量的緩和措置を決定したが、我々は、「この新措置は、明確な政策目標のない、小出し、後追いの措置に過ぎず、デフレ解消には程遠い。」と判断している。
2. ところで、速水 優 日銀総裁は、決定後の記者会見において、我々が主張している、いわゆる「インフレ・ターゲット政策」について、「ばかな政策」と一刀両断の下に切り捨てた批判発言を行った。この発言は、国民・世論を代表する我々を愚弄するものであり、到底許し難い。速水総裁は、我々に対し、この政策のどこがばかげているのか、十分に説明する義務がある。このため、我々は、速水総裁に対し、我々との公開討論に応ずるよう求めるものである。
3. 日銀は、国会で説明しているからと逃げようとするかもしれないが、国会での金融政策についてのまとまった議論は、半年に一度行われるのがせいぜいで、時間も十分でなく、また、時宜を失うことが多い。しかも、我々与党議員の質問時間は極めて限られており、日銀総裁の答弁も事務方が用意したペーパーを読み上げるだけであり、とても実のある議論が尽くされているとは言えない。それ以上に、今回の総裁の発言は、我々の主張に対する直接の批判であり、我々と面と向かって十分に時間を取って議論してもらう必要がある。そのことが、新日銀法の理念である日銀の説明責任を果たすことにつながるものと考える。

4. 日時、形式は日銀の意向を尊重するので、できるだけ早急に公開討論会を設定して頂きたい。遅くとも、次回の政策決定会合(9月18、19日)までには、必ず開いて頂きたい。


以上、要請する。


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さらに、父親の渡辺美智雄氏もバブル崩壊後の景気悪化を危惧して、日銀による量的な金融緩和も主張していたそうなので、渡辺喜美氏が金融政策を重視する背景には、父親の影響もあるのでしょう。

 新しい世紀の扉が開かれた。世の中はいつもと変わらない新しい春を迎えた。しかし、通常の感受性をもった人なら誰でも21世紀が途轍もなく激しく揺れ動いている時代の途上で始まり、これから起こるであろう大変化についての予兆を感じているのではないか。それが、明るいものであるか、暗いものであるかは各人によって受け止め方は異なろう。

 私は、子供の頃から、「繁栄した国家や文明は数々あれど、繁栄し続けたものは一つも無い」という言葉を繰り返し聞かされて育ってきた。私の父渡辺美智雄の口癖だった。そして、「日本の政治家の使命は、如何にこの国の繁栄を長続きさせるかだ」という強い決意も同時に聞かされた。

 彼は1995年にこの世を去ったが、日本が長期衰退のトレンドに陥っているのではないかという大きな危惧の念を抱いていた。表裏一体のものとして同時に起こった冷戦構造の崩壊と日本のバブル大崩壊に、この国の政治の対応が後手後手に回ってしまったという反省も合わせて持っていた。

 日本の平均株価の最高値は1989年、ベルリンの壁が崩れたその1ヶ月後の大納会であった。80年代後半を通して日本に流れ込んだ資金が、90年代初めには統一ドイツや市場経済のロシアに注ぎ込まれるべく日本から出ていくのである。そんな時に、お金の蛇口を締め続ける窓口規制や総量規制といった政策をやり続ければどうなるか。効果てき面を通り越して資産価格の大暴落を招くことは必至だ。グリーンスパンFRB議長が「バブルは急激に潰してはいけない」という日本の教訓に学んでいることは確かである。

 渡辺美智雄は1990年秋には警告を発し始めた。なぜなら既に株価は暴落の様相を呈していたからである。翌91年、金融当局による量的規制が本格化するが、その年の秋、自民党の総裁選挙に立候補した彼は「もう手遅れだ」とはっきり演説の中で言っていた。

 総裁選で予想以上に得票し、宮沢内閣の副総理兼外務大臣となった父は、92年5月予期せざる病に倒れ入院・大手術のやむなきに至る。丁度その頃から株価が下がり始め、同年8月には、株価が14,300円台まで落ち込み、平成時代第1回目の金融不安が起こったのである。当時彼が病院のベッドの上から主張したことは、徹底した不良債権の早期処理と日銀による量的な金融緩和、及び財政再建を唱えた元大蔵大臣としては相当の決断だったが、赤字国債の再発行そして、デノミネーションの実施であった。

 具体的には、銀行が保有株式の含み益を全部はき出してでも一気に不良債権の償却をやってしまうこと、日銀は銀行の持合株式をおおよそ八掛ぐらいで担保にとって銀行に融資をすること、などを提案した。そして不良債権・担保不動産の公的機関による時価買い取り、資本不足に陥った銀行に優先株を発行させそれを公的資金で買い上げること、などについて有識者の知恵を借りながら検討を開始したのであった。


反資産デフレの政治経済学序文 反資産デフレの政治経済学序文 反資産デフレの政治経済学序文 このエントリーをはてなブックマークに追加



このように、渡辺喜美氏が元々金融政策に理解が深く、日銀の政策を批判し続けてきた人物だからこそ、参院選で躍進した直後に日銀法改正を含むデフレ脱却法案を主張したのでしょう。みんなの党は、構造改革と同じくらい、デフレ脱却は重要な問題と考えてるのでしょう。


このみんなの党が提唱したデフレ脱却法案は早速反響を呼んでいて、与謝野馨氏や石破茂氏など、リフレ政策に反対して消費税増税を推進している議員からは反発の声が上がっているようです。

 たちあがれ日本与謝野馨共同代表は14日午前のテレビ朝日番組で、参院での与野党逆転を受け「民主、自民両党が連立を組むのが一番いい。民主は10人程度の少数政党に頼って振り回されてはいけない」と述べ、民主党みんなの党との連携を牽制(けんせい)した。
 番組後、与謝野氏は記者団に「みんなの党のようにデマゴーグの典型みたいな政党と組むと、国民が不幸だ。自民党は常識の党だ」と強調した。


「みんなの党はデマゴーグ政党」「連立なら国民が不幸」 たちあがれの与謝野氏が強調 - MSN産経ニュース 「みんなの党はデマゴーグ政党」「連立なら国民が不幸」 たちあがれの与謝野氏が強調 - MSN産経ニュース 「みんなの党はデマゴーグ政党」「連立なら国民が不幸」 たちあがれの与謝野氏が強調 - MSN産経ニュース このエントリーをはてなブックマークに追加

 みんなの党のように、「国債を日銀が買い支えれば金利も上昇しない」との説を唱える向きもありますが、一時的には有効でも永久に続くことはありません。あたかも「麻薬は禁止する必要はなく、中毒になる一歩手前でやめればよいのだ」と言っているようなもので、1930年代の教訓をよく想起すべきでしょう。


選挙後雑感: 石破茂(いしばしげる)ブログ 選挙後雑感: 石破茂(いしばしげる)ブログ 選挙後雑感: 石破茂(いしばしげる)ブログ このエントリーをはてなブックマークに追加



デマゴーグ」だの「麻薬」だのと、穏やかでない言葉を使って批判しているようですが、それだけみんなの党が掲げるリフレ政策に危機感を持っているということなのでしょうね。


みんなの党参院で11議席を確保して、法案提出が可能になったので、このデフレ脱却法案も参院で提出されるのでしょう。その時は国会でデフレ問題や日銀の金融政策の問題点についてしっかりと審議を行ない、日銀をデフレ脱却のために働く組織に変え、デフレを放置した場合は責任をきっちりと取らせる法律を作って欲しいものです。

*1:この要求に名を連ねている山本幸三氏は自民党きってのリフレ論者で、最近も白川日銀総裁と国会で論戦を繰り広げています。また舛添要一氏も参院選では新党改革インフレターゲットを公約に掲げていました。