Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

なぜここまで政治は混乱してしまったのか

東日本大震災以降の政治の混乱は、はっきりいって目を覆わんばかりの惨状と言って良いでしょう。震災後も与野党ばかりか与党内でも対立が続き、ついには政権の中でも首相の座に居座ろうとする菅総理と、辞めさせようとする閣僚や党幹部の間で対立が起きています。このような状況で復興基本法案はようやく6月に成立しましたが、復興に欠かせない補正予算は第1次、第2次も小規模で、復興に必要とされる数十兆円規模の補正予算は先延ばしになっています。また、震災前からの問題であった、赤字国債発行のために必要な公債特例法成立の目処も立っていません。このままでは年度の途中で予算がなくなってしまい、行政がストップしてしまう可能性が高いでしょう。*1


このような政治を見ていて、僕はずっと不思議に思っていることが一つあります。それは菅政権が国会運営において、あまりにも議員の「数」を軽視しているしていることです。
今、民主党衆議院では300議席を超える圧倒的多数を有しています。ただし、党内には小沢一郎氏に近い議員も多いため、これを除けば過半数を維持できるかは怪しい状況です。また、参議院では少数与党の「ねじれ国会」となっているため、法案を可決させるためには野党の協力が欠かせません。

しかし、菅政権の政治を見ていると、国会で多数を確保しようという姿勢が見られないように思うのです。
衆参両院で過半数を確保しようとするならば、まず民主党内の対立を押さえて数を確保してから、その数の力を背景にして野党との協議を行うことが必要でしょう。参院では公明党を与党寄りにすれば過半数を確保できるので、野党分断の工作も効果的でしょう。
問題は与党内の小沢氏・鳩山氏を中心とする勢力が、子ども手当などの前回衆院選挙のマニフェストを守ろうとしているのに対して、自民党公明党マニフェストからの転換を要求していることです。
ただ、それでもまず与党内部をまとめておかないと、野党の譲歩を引き出すこともできないので、まず民主党内の党内融和が不可欠だったと思います。


しかし、震災後も菅政権は「脱小沢」路線をやめることができず、民主党内部の対立を煽る方向に進みました。民主党内部の対立の結果、野党もそれにつけこんで菅政権を倒せるのではないかという期待を抱くようになり、政権に協力しようという姿勢にはなりませんでした。
その結果、6月初めの野党による内閣不信任案の提出では、マニフェストを巡って野党とは意見が対立しているはずの小沢氏を中心とする勢力が離党覚悟で賛成に回って、不信任案が可決しかねない状況になってしまいました。
しかもこの時、本来菅総理を支えるべき立場であるはずの仙谷官房副長官や岡田幹事長などの勢力は、不信任案可決と共に菅総理と小沢氏を一気に追放して、増税で意見が一致する自民党執行部と大連立を組むことを画策していました。しかし、彼ら自身は不信任案に賛成する意志は全くありませんでした。彼らは小沢氏や野党の力を利用して政権乗っ取りを企てていたと言えるでしょう。
しかし、このような他人の力に頼った策は菅総理の逆襲にあってうまくいきませんでした。仙谷氏にとっては「策士、策に溺れる」という言葉の通りの展開だったと言えるでしょう。
菅総理は不信任案可決の鍵を握る位置にいた鳩山前総理と会談し、辞任はほのめかしたがその時期は曖昧にすることで、いわば鳩山氏を騙す形で不信任に反対させました。その結果、不信任案否決は確実となり、小沢氏も形勢の不利を見て不信任案反対に回ったため、不信任案は否決され民主党分裂も起こりませんでした。
その後は菅政権内部でも対立が表面化し、菅総理の辞任を迫る民主党内部や野党の勢力に対抗して、菅総理がどんどん辞任へのハードルを上げることで政権に居座るという構図が続いています。*2

その結果、政治は停滞し、先に述べたように復興や行政に必要不可欠な予算や法案がストップする状況に陥っています。*3
どうも、菅政権はこの数ヶ月の間、敵ばかり増やしてきたように思えます。その挙げ句の果てに、政権内部でも内ゲバのような対立を引き起こしてしまいました。これでは政治が混乱するのも当たり前です。なぜ彼らはこれほどまでに味方を減らそうとするのか、本当に謎です。


このような状況を打開するには、民主党が党内融和を進め、もう一度一つにまとまる必要があると思います。そのためには、民主党内の信頼を失ってしまった菅総理は交代させるしかないでしょう。
そして残された菅政権の幹部達は、「脱小沢」のような党内対立を煽る路線を取りやめる必要があります。また、6月末に「税と社会保障の一体改革」で「2015年までに消費税増税」という政府方針を党内に押しつけようとして、国会議員達の大きな反発を招いた経緯についても反省する必要があります。今後は増税社会保障のみならず、震災復興や原子力政策、自然エネルギーなどの問題についても、菅総理のような周囲の意見を無視した方法ではなく、党内の意見を粘り強く集約して政策に反映させる努力が必要でしょう。

そのような党内の対立を押さえる努力を通じて、もう一度民主党が一つにまとまらなければ、政治の混乱は続き、復興や経済の復活もできないでしょう。*4そして、次の総選挙で民主党は壊滅するでしょう。とは言え、自民党が国民の信頼を得ているとも言えない状況なので、その後も不安定な政治が続くでしょう。その場合、政治全体が国民から見放されることになるので、民主主義的な政治体制は危機を迎えるかもしれません。


結局、与党がしっかりしなければ、政治は混乱します。この数ヶ月の経験は、それを改めて日本人全体に知らしめたのだと思います。

恐らく、今が民主党にとってのラストチャンスなのだと思います。ここで内ゲバ体質(とあえて言わせてもらいます)を転換できなければ、民主党には未来はないでしょう。

*1:ただ、いつまで予算がもつかについては、「埋蔵金」の額にも左右されるため、はっきりとはしていません。

*2:余談ですが、菅総理のなりふり構わぬ抵抗ぶりは、まるで北朝鮮瀬戸際外交を思わせますね。

*3:ただし、社会保障や復興予算を名目にした増税路線だけは、民主党内部の反対に遭いながらも、「菅降ろし」では対立しているはずの菅総理と政府・党執行部の幹部が一致協力して進めています。これについては自民党執行部も賛成のようです。

*4:大連立や政界再編に期待する声もありますが、この数ヶ月の政局はそのような大きな枠組みの変更が困難であることを示していると思います。