Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

迷走する日銀

[東京 10日 ロイター] 日銀は9─10日に開いた金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0─0.1%程度に据え置くことを、全員一致で決定した。金融資産買入基金による緩和策についても現行計画に変更はなかった。


金融政策の現状維持を全員一致で決定=日銀 | ビジネスニュース | Reuters 金融政策の現状維持を全員一致で決定=日銀 | ビジネスニュース | Reuters 金融政策の現状維持を全員一致で決定=日銀 | ビジネスニュース | Reuters

[東京 11日 ロイター] 日銀は27日に開く金融政策決定会合で、追加緩和を検討する。会合では今後2年間の経済・物価見通しを示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表するが、2013年度までに実質的な目標である消費者物価上昇率の1%を展望するのは難しい情勢。

米金融政策などの動向次第では、企業収益などに影響を及ぼす円高再燃も否定できない。このため、デフレ脱却に向けて金融緩和を加速する必要があると判断する可能性が大きく、資産買入基金の増額を議論する公算が大きい。関係者が語った。


日銀が次回決定会合で追加緩和を検討へ=関係者 | Reuters 日銀が次回決定会合で追加緩和を検討へ=関係者 | Reuters 日銀が次回決定会合で追加緩和を検討へ=関係者 | Reuters

4/10の政策決定会合で、日銀は金融緩和を見送りました。しかしその翌日、マスコミは一斉に日銀が次回の決定会合(4/27)で金融緩和を検討すると報じました。
このニュースは明らかに日銀からのリークでしょう。ただ、これまでも日銀からのリークと思われるニュースはありましたが、これまでは決定会合の数日前に流されるのが普通でした。このように決定会合の翌日に流された例は聞いたことがありません。
その背景としては、日銀が金融緩和を見送ったという報道が流れた途端、市場が失望して円高・株安になったことが上げられるでしょう。

[東京 10日 ロイター] 東京株式市場で日経平均は6日続落した。日銀が金融政策決定会合で現状維持を決めた後、追加緩和見送りに失望して円高/株安の動きが強まった。


(中略)


日銀の金融政策決定会合で、現状維持の方針が正午過ぎに発表されると、先物市場で追加緩和への期待感を背景に買い進めていた投資家が投げ売りに転じたという。先物の下落で現物も後場には売りが強まった。ただ、ドル/円が下げ渋っていることで売りも限定的で、9500円を維持した。大手証券の株式トレーダーは「次回への期待感が残っているため」と述べた。

その後、外為市場でドル/円が81円前半、ユーロ/円が106円後半と円が主要通貨に対し強含んでいることから、下げ渋っていた株価も前日終値を割り込んだ。国内証券ディーラーは「円安基調で安定していれば今後は業績相場になるが、足元のように再び円高に戻ると金融相場が意識される。1万円回復には、円安プラス何かきっかけになる株買い材料が必要だ」と指摘している。


日経平均は6日続落、追加緩和見送り後の円高で9500円前半 | ビジネスニュース | Reuters 日経平均は6日続落、追加緩和見送り後の円高で9500円前半 | ビジネスニュース | Reuters 日経平均は6日続落、追加緩和見送り後の円高で9500円前半 | ビジネスニュース | Reuters



2月に日銀が「中長期的な物価安定の目途」を公表したとき、僕はこれが本当にインフレターゲットと言えるのか疑問であるという内容の記事を書きました。

日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信 日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信 日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信



その後の日銀の姿勢を見ていても、疑問を抱くような事ばかり起こっています。

まず、日銀のバランスシートを見ても、3月上旬を境に資産が減少しており、日銀が供給するマネタリーベース(ベースマネー)が減っていることが分かります。これは日銀が3月中旬以降、引き締めに転じていることを示します。それを受けて、円相場も3月下旬から円高に転じています。

日銀の資産のグラフ
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/image-11222084105-11913718382.html


円相場のグラフ
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/image-11222084105-11913708091.html


営業毎旬報告(平成24年4月10日現在)←これで強力な金融緩和?引き締めなのでは?|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba 営業毎旬報告(平成24年4月10日現在)←これで強力な金融緩和?引き締めなのでは?|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba 営業毎旬報告(平成24年4月10日現在)←これで強力な金融緩和?引き締めなのでは?|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba



また、3/24には、白川総裁が米国のFRB開催の会合で講演し、金融緩和の弊害を主張しました。

[ワシントン/東京 26日 ロイター] 白川方明日銀総裁は24日米連邦準備理事会(FRB)がワシントンで開催した会合で講演した。日銀が26日公表した講演要旨によると、総裁は金融緩和を長期間続けることの弊害を指摘。「バブル崩壊後の積極的な金融緩和政策は必要」としつつも、国際商品市況の上昇を引き起こすなど副作用に留意する必要を強調した。
白川総裁は、中央銀行が長期間金融緩和を続けるとの予想が強まると、金融機関の利回り追求により「金融システムを不安定化させ、ひいては実体経済や物価を不安定にする」と警告。バブルが発生しても物価安定を理由に中銀が引き締めに踏み切らず、バブル崩壊後には利下げを行う場合、「バブル崩壊後のショックも大きくなる」ため「事態はより悪化する」と警鐘を鳴らした。「バブル崩壊後の積極的な金融緩和政策はもちろん必要だが、副作用や限界についても意識する必要がある」と強調した。
金融緩和の効果は「バランスシート修復に伴う痛みの緩和剤でしかない」とし、長期に続けると追加的に引き出せる需要は徐々に減少すると説明した。政府の過剰政務を削減するインセンティブにも悪影響を与える可能性を懸念。この結果、「政府債務の水準が持続可能でないとみられるようになると、欧州債務問題が示すように、物価安定と金融システム安定を脅かすことになる」と指摘した。
金融緩和の副作用として、低採算の投資案件に資金が流れれば資源配分が非効率になり「経済全体の生産性に影響を与え潜在成長率を下押しする」と分析した。緩和が「ある臨界点を超えると、逆に利鞘の低下をもたらし金融仲介機能も弱まり得る」と指摘。自国経済がバランスシート調整下にある場合、金融緩和は自国の経済に効果を及ぼさず「新興国の景気拡大や国際商品市況の上昇につながりやすい」とした。
このため、中央銀行が「石油製品や食料品を除くコア・インフレを重視して政策運営すると、国際商品市況がますます不安定化する可能性もある」と指摘。原油など商品市況の上昇は自国経済に跳ねかえるため、「国際的波及と自国経済へのフィードバック効果を考慮に入れることも重要」とした。


再送:金融緩和に副作用や限界、商品市況や金融システム安定に配慮必要=白川日銀総裁 | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters 再送:金融緩和に副作用や限界、商品市況や金融システム安定に配慮必要=白川日銀総裁 | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters 再送:金融緩和に副作用や限界、商品市況や金融システム安定に配慮必要=白川日銀総裁 | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters



さらに、政府は新たな審議委員として、金融緩和に消極的なことで有名な河野龍太郎氏(BNPパリバ証券)を提示しました。この人事は日銀も了解済みのものであり、やはり日銀の緩和姿勢を疑わせる物です。この人事については与野党ともに反対の声が上がり、4/5に参院で野党の反対多数で否決され、河野氏は審議委員になれませんでした。*1

[東京 5日 ロイター] 参院は5日午後の本会議で、日銀審議委員にBNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎氏を起用する国会同意人事案を野党の反対多数で否決した。投票総数は238票、賛成111票、反対127票だった。

日銀審議委員ポストは4日に中村清次、亀崎英敏の両審議委員が任期満了を迎えており、当面2人の空席が続くことになる。政府は新たな人事案の提出を急ぐが、調整は難航も予想される。

河野氏は、中村氏の後任として政府が提示していた。自民党公明党など野党は、河野氏に不同意とした理由について、追加金融緩和に慎重でデフレ脱却に消極的などと説明。消費増税に前向きなことを一因に挙げる向きもある。野田政権が社会保障と税の一体改革実現に向けて消費増税を目指す中、早期のデフレ脱却に向けて日銀に一段の金融緩和を求める声は根強く、提示直後から与野党内で河野氏の起用を疑問視する声が挙がっていた。


参院が日銀審議委員候補の河野氏を否決 | 国内 | 特集 政局の行方 | Reuters 参院が日銀審議委員候補の河野氏を否決 | 国内 | 特集 政局の行方 | Reuters 参院が日銀審議委員候補の河野氏を否決 | 国内 | 特集 政局の行方 | Reuters



このように、3月以降日銀は金融緩和姿勢を疑われるような事ばかりしていて、市場にも日銀が本気で「目処目途」で示したインフレ率1%という数字を守るのか疑問視する声が出ていました。そのような時に金融緩和見送りの決定があったわけですから、これでこれ以上の緩和はなくなったと考えるのが普通でしょう。
ところが、それでは市場のインフレ予想が消えてしまうので、景気回復は見込めません。折しも自民党みんなの党が日銀法改正へと動き、民主党もリフレ政策の中心的存在である「円高・欧州危機等対応研究会」で改正案を検討する動きが始まっているので、日銀も緩和への期待を消すわけにはいかず、しぶしぶ金融緩和姿勢を示さざるを得なかったということでしょう。

[東京 4日 ロイター] 自民党は4日午前の財務金融部会で、物価目標を政府が定めることなどを盛り込んだ日銀法の一部改正案を協議した。部会は改正案の詳細を今後さらに詰め、月内にも成長戦略など他法案と合わせて国会へ提出する方向で調整を進めており、公明党など他党との連携も視野に入れている。

執行部がまとめた改正原案は、物価目標にその達成時期も明記。実現できなかった際は、政府が日銀に説明を求めることができるようにするとともに、衆参両院の同意があれば総裁ら執行部を解任する権限も持たせた。物価目標の達成を目的として、為替の売買を日銀が実施できるようにすることも示した。


自民部会が日銀法改正案を協議、政府が物価目標定め指示 | ビジネスニュース | Reuters 自民部会が日銀法改正案を協議、政府が物価目標定め指示 | ビジネスニュース | Reuters 自民部会が日銀法改正案を協議、政府が物価目標定め指示 | ビジネスニュース | Reuters

みんなの党は10日、政府によるインフレ目標の設定を定める日銀法改正案を参院に提出した。金融政策の目標に「雇用の安定」を明記し、内閣に日銀役員の解任権を与える。国債を買い入れる基金設置も盛り込んだ。同案の提出は3度目。渡辺喜美代表は記者団に、一段の金融緩和を唱える民主党のデフレ脱却議員連盟自民党議員の一部との協調に期待を示した。


みんなの党、3度目の日銀法改正案提出  :日本経済新聞 みんなの党、3度目の日銀法改正案提出  :日本経済新聞 みんなの党、3度目の日銀法改正案提出  :日本経済新聞

民主党 馬淵澄夫議員のツイート



日銀としては、できるだけ金融緩和を避け、「目処目途」の達成もうやむやにしたいのが本音なのでしょうが、国会で金融緩和を求める声が高まる一方で、日銀法改正の機運も盛り上がっている状況では、緩和の姿勢を示すしかないというジレンマに陥っているのでしょう。
今回の異例の報道は、そのような日銀の迷走を反映したものであると言えるでしょう。

4/16訂正

「目途」を「目処」と間違えていたので、訂正しました。

*1:ちなみに、河野龍太郎氏もかつてはインフレターゲットや2〜3%程度のマイルドインフレを主張するなど、リフレ派に近い見解を示していたこともありました。しかし近年は金融緩和やインフレ目標に反対し、昨年の復興構想会議では増税論を主導するなど、日銀や財務省寄りの姿勢が明らかでした。この審議委員人事は、そのような「転向」や「曲学阿世」に対するご褒美であるというのは、穿った見方でしょうか? (参考資料:「小泉政権下の日本21世紀ビジョン経済財政展望ワーキンググループ報告書を学習しよう!|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba」)