Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

銀行擁護と消費税増税がアベノミクスを殺す

昨年11月の衆院解散以降、順調に進んでいた株高と円安が、5月下旬ごろから株安・円高に転じ、乱高下を繰り返しながらも未だにその傾向は続いています。


日経平均株価



円ドル為替レート



円ユーロ為替レート



この下落については、当初はリフレ派の間でも急速な株高・円安に対する調整という意見が強く、楽観的なムードがありました。
ただし、クルーグマンはこの現象について、日銀の金融対策に対する懸念が強まっているのではないかと述べていました。

 さて、まずは出来のよくないジョークを謝っておこう。しかし、日経の7%の急落についていくらか演繹的な分析をしておくのが良いかと思った次第だ。


金融市場の大きな動きに関してまず覚えておくべき重要な事は、本質的な説明なんてものは全くないのかもしれないという事だ。私は1987年の株式市場暴落を思い出せるほど年寄りなのだが、このときは一体どういう政策の変化のせいなのかについて多くの理屈がだされた。けれど、市場が急落していく中でロバート・シラーがリアルタイムのサーベイを行う事ができたのだが、結局、彼が発見したのは売りの波について後に出されたどんな理由も事実上誰にも口にされる事はなかったという事だった。そうじゃなくて、みんながなぜ売るのかについて口にしていたのは...価格が下がっているからというものだったのだ。


それでも何か本質的な理由というものがあるとするなら、どういう手がかりを探せばいいだろうか?その答えは間違いなく、他の市場、特に債券市場と通貨市場で何が起こっているかを調べろというものだ。


三つの異なるストーリーを出させてもらおう。それぞれ日経の急落を説明しうるものだ。


1.日本とアジアの成長が弱まることへの心配。


2.日本の負債への心配。債券自警団がついにやってきた。


3.日本銀行の決意、つまり長期にわたり非常に景気拡張的な金融政策を堅持する意思についての心配。


三つとも株価の低下を説明する。しかし債券と通貨市場についてはそれぞれ異なる影響を持つ。


ストーリー1は日本の利子率の低下を意味するはずだ。弱い成長率はより長期におよぶ拡張的な金融政策を意味するはずだからだ。実際、最近の日本の株式と利子率はともに上昇していたことは、これまで我々が見ていたのは基本的に楽観論の高まりだったことを示唆する。(私や同じ考えの人達は同様の議論を、アメリカの利子率の上昇は負債への心配のせいだという主張を追い払うのに使ってきた)。しかし今回、日本の利子率は基本的に変化していない。


ストーリー2ならば、我々は債券の利子率の急激な上昇を目撃しているはずだが、そうなっていない。それに、円が弱くなってもいるはずだが、実際には急激に上昇している。よって債券自警団でもない。


ストーリー3はどうだろうか?長期利子率への予期された未来の金融政策のインパクト(の方向)は不明瞭だ。日銀が引き締めに走ると予想されれば利子率は上昇するだろうし、デフレを終わらせることに失敗すると心配されれば低下するだろう。しかし日銀の決意への心配は円についてはインパクト(の方向)がはっきりしている。円を強めるはずだ。そしてそうなっている。


よって、これが市場のたまにあるパニックにすぎないのでないなら、日本銀行がそう思われているほどに本当に変わったのかについての懸念が急にできてきたというもののように思われる。


クルーグマン: 初歩だよ、ワタナベ君! - P.E.S. クルーグマン: 初歩だよ、ワタナベ君! - P.E.S. クルーグマン: 初歩だよ、ワタナベ君! - P.E.S.



僕はこのクルーグマンの意見がずっと心に引っかかっていたのですが、最近になって、インフレ期待を示す指標であるブレーク・イーブン・インフレ率が急速に下落していることが判明し、このクルーグマンの指摘を裏付けるデータとなりました。

黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください


 日銀の黒田総裁は、4月初めに15年にわたる不況から日本を脱出させる戦略を発表し、いいスタートを見せていた。円は弱くなり、日経平均株価は上昇し、多くの重要な期待インフレ率の指標も上昇し始めた。しかし、ここ2週間、黒田総裁の努力は、困難に直面している。日経平均は足踏みし、市場は、黒田総裁が日本の期待インフレ率を2%に上昇させるという約束を達成できないのではないか、と不安視しているようだ。


 ここ2週間で黒田総裁に対する信認が弱まっていることを確認する一番いい方法は、市場のインフレ期待を見ることだ。下のグラフは、日本の市場が予想する5年の期待インフレ率(訳注 5年ブレーク・イーブン・インフレ率)を示している。





 このグラフが示していることは、はっきりしている。黒田総裁は、最初は期待インフレ率を押し上げるのに成功していた。しかし、このグラフは同様に、ここ2週間で期待インフレ率が急激に下がったことも示している。


 もし日経平均での売りの理由を探したかったら、このグラフだけを見ればよい。デフレを終わらせるという黒田総裁のやる気(コミットメント)に対して、市場が信用を失い始めてから、日経平均は下がっているのだ。


M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」 M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」 M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」

BEIの推移 | 日本相互証券株式会社 BEIの推移 | 日本相互証券株式会社 BEIの推移 | 日本相互証券株式会社

ブレーク・イーブン・インフレ率の推移 - 財務省 ブレーク・イーブン・インフレ率の推移 - 財務省 ブレーク・イーブン・インフレ率の推移 - 財務省



さて、これらのグラフを見て分かるのは、株高、円安、ブレーク・イーブン・インフレ率(期待インフレ率)の低下が、全て5/23に始まっていることです。
その前日の5/22には日銀金融政策決定会合があり、その後で黒田日銀総裁が記者会見を行ったのですが、改めてこの記者会見を読んだところ、ちょっと異様な印象を受けました。
5月に入ってから、長期金利が高くなって乱高下を繰り返しているのですが、記者の質問はそこに集中し、黒田総裁は釈明に追われていたのです。

長期金利推移グラフ | 日本相互証券株式会社 長期金利推移グラフ | 日本相互証券株式会社 長期金利推移グラフ | 日本相互証券株式会社

(問) 長期金利の動向について伺います。長期金利は、足許では、1%を窺うような水準に上がっています。4 月に金融緩和を決める頃よりもむしろ上がっているということで、この理由をどう分析しているのか、決定会合でどのような議論があったのか、この急ピッチの上昇を抑えるために何か対応を考えているのかどうか、その辺りについてお聞かせ下さい。


(問) 2 点伺います。足許では、住宅ローン金利等に少し上昇の兆しがありますが、長期金利の上昇が、実体経済、金融市場にどのような影響をもたらすと分析なさっているか教えて下さい。
もう 1 点は、4 月の緩和決定から 50 日弱経ちますが、当時おっしゃっていた 3 つの波及経路がどのように機能していると分析なさっているか、教えて下さい。


(問) 長期金利の関連で 3 点お伺いします。1 点目ですが、4 月の緩和を始めてから、長期金利の数字だけでみても、水準はともかく比率的にはかなり上がっていると思います。最初に「長期金利を下げる」とおっしゃっていて、実際には上がってしまっているのは、一般的には「何故なのか」となってくるかと思います。この原因としては、オペレーションの仕方が問題なのか、それとも他に問題があるのか、総裁がどのように受け止めているか教えて下さい。
2 点目は、先程、「実体経済への影響はまだあまり大きくないのでは」という話がありましたが、社債の発行が延期されるなど、色々な面で多少影響が出ていると思います。こうした点について、どのように考えていらっしゃいますか。
最後に、長期金利が上がることについて、今の状態が一時的なものなのか、あるいは今後上がっていくのは自然なことなのか、お考えをお聞かせ下さい。


(問) そもそも、中央銀行は、短期金利をコントロールすることはできますが、長期金利に対しては、働き掛けることはできても、やはり一種の飴細工のように、長期金利を動かすことは難しいのではないかとも思わせるようなことが、4 月 4 日の緩和以降に起こっているような気がします。総裁は、長期金利を完全に抑え込むことができるとお考えでしょうか。


(問) 4 月の記者会見時には、長期金利の動きについて「市場が落ち着きどころを探している」という言い方をされていましたが、現在はその状況が継続しているのか、あるいは違う局面になっているのでしょうか。
また、「良い金利上昇」、「悪い金利上昇」という言葉がありますが、今の局面をどのように分析されますか。


(問) 3 点伺います。2%の物価目標の達成時期について、本日の公表資料からは、「2 年程度の期間を念頭に置いて」という文言が外れたと思います。この背景には、想定外のことがあれば、2 年と言わず、時間が掛ってしまうかもしれない、というお考えがあるかどうか、お聞かせ下さい。
2 点目ですが、先週、長期金利がやや急激に動いた時に、日銀が 1 年物の固定金利オペを行って市場が非常に安定化した実績があると思います。ボラティリティを鎮静化する観点から、今後も、こうした長めのオペを行っていくという理解でよいか、確認させて下さい。
最後に、6 月のオペの予定については、現時点ではまだ公表されていませんが、これは、総裁が先程おっしゃった「オペを柔軟に行っていく」という戦略の一環として、あえて公表しないということなのか、教えて下さい。


(問) 長期金利について伺います。総裁が先程おっしゃったように、景気回復や物価上昇期待を反映した金利の上昇が、日銀によるリスク・プレミアムの押し下げよりも大きく出てきた場合──両者の切り分けは難しいとは思いますが──、じわじわと上がってくる部分まではコントロールしきれないので、そうした金利上昇は許容せざるを得ないということでしょうか。


(問) 現在の名目金利の上昇について伺います。金利は、実質金利で考えた場合でも上がっているとみているのか、あるいは、期待インフレ率の変化で実質金利は下がっているとみているのか、総裁はどのように認識していらっしゃいますか。


(問) 2 点伺います。1 点目は、金利に関してです。日本の金利は米国の金利にかなり引っ張られる傾向がありますが、今後、米国で、QEの停止あるいは縮小という議論が進むと、当然米国の金利が上がって、日本の金利も上がると思いますが、こうした金利の上昇は「自然」と考えるか否かについてご見解をお願いします。
2 点目は、最近、消費増税延期の議論も多少聞こえていますが、仮にこれが顕在化した場合、先程のリスク・プレミアムを抑えることとは逆に、リスク・プレミアムを上げる懸念がないのかどうか、お考えをお聞かせ下さい。


【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF] 【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF] 【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF]



そして黒田総裁は繰り返される記者の追求に耐えかねたのか、こんな発言をしてしまいました。

(問) 2 点伺います。1 点目は、金利に関してです。日本の金利は米国の金利にかなり引っ張られる傾向がありますが、今後、米国で、QEの停止あるいは縮小という議論が進むと、当然米国の金利が上がって、日本の金利も上がると思いますが、こうした金利の上昇は「自然」と考えるか否かについてご見解をお願いします。
2 点目は、最近、消費増税延期の議論も多少聞こえていますが、仮にこれが顕在化した場合、先程のリスク・プレミアムを抑えることとは逆に、リスク・プレミアムを上げる懸念がないのかどうか、お考えをお聞かせ下さい。


(答) まず、後者から申し上げると、そういう懸念はあると思います。私どもとしては、政府が、まずはきちんとした財政健全化のプランを年央までに示すと言われているわけですから、それをきちんと示して頂くことが重要であると思いますし、その中で、予想されている消費税の引上げを含む財政健全化が進められていくことが必要であると思っています。


【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF] 【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF] 【記者会見】黒田総裁(5月22日) [PDF]



株価や為替の動向は無視して長期金利ばかりに質問を集中させる日銀記者クラブの記者達は、日本経済の動向よりも、金融機関の経営に影響を与えかねない長期金利国債金利)の動向ばかり気にしている、金融機関や債券市場側の人間でしょう。
そして、以前自分のブログでも述べましたが、白川前日銀総裁の政策は長期金利を低位安定させて、国債保有で金融機関に利益を保証することで「金融システムの安定」を守ろうというものでした。

この記事からは、白川前総裁が金融システムの安定にこだわった政策をしてきたことがうかがえます。白川総裁にとっては、金融システムの安定の方がデフレ脱却よりも大事だったのでしょう。
ただし資本主義においては、金融機関といえども企業ですから、経営を誤れば倒産すべきものです。金融システムの安定というのは、本来ならば少しくらい金融機関が潰れても、国全体の金融システムが動揺しないという状況を目指すべきでしょう。かつて導入されたペイオフ制度は、銀行が破綻しても一定金額までの預金は保全するという内容で、そのような状況を目指した政策の一つでしょう。
しかし先の記事からうかがえるのは、日銀はとにかく金融機関は潰させない、そのためには損をさせないという姿勢であり、白川前総裁は「金融機関の損失=金融システムの不安定化」と考えていたように思えます。
このような「金融システムの安定」という目的についての誤解が、白川前総裁がデフレ脱却に消極的だった理由なのでしょう。
長引くデフレの結果、金融機関は大量の国債を抱えていて、その運用が大きな収益源となっています。リフレ政策が行われると、短期的に現在起こっているように長期金利は下がりますが、やがてインフレ目標を達成すればインフレ率に合わせて長期金利も上がるでしょう。その時、国債の運用で収益を得ていて、一般の企業や個人への融資に消極的だった金融機関は、国債の値下がりで大きな損を抱えて経営が悪化します。白川前総裁は、このことを金融システムの不安定化と考えていたのでしょう。
ただし、金融機関の本来の仕事は集めた預金を企業や個人に貸し出すことで、資金を必要なところに供給して差益を稼ぐことですから、国債の運用で収益を得ているというのは、デフレによって強いられたおかしな経営形態です。日本経済がデフレを脱却するのであれば、金融機関もこのようなおかしな経営からは脱却して、本来の仕事に立ち返るべきでしょう。ただし、日本のすべての金融機関がそれに適用適応できるとは限らないので、いくつかは国債を抱えたまま経営危機に陥る金融機関も出てくるでしょう。白川前総裁はそれを恐れていたのではないでしょうか?


白川前総裁はなぜデフレを放置したのか - Baatarismの溜息通信 白川前総裁はなぜデフレを放置したのか - Baatarismの溜息通信 白川前総裁はなぜデフレを放置したのか - Baatarismの溜息通信



従って、彼ら日銀記者クラブの記者達は、そのような白川前総裁の路線に賛同し、長期金利を高騰・不安定化させている黒田総裁の路線には批判的なのでしょう。
白川総裁から黒田総裁への交代を政権交代に例えれば、このような記者達は「野党」に転じた旧政権側の人間であり、この記者会見は「与党」追求の場であったということなのでしょう。そして、そのような「野党」の追求によって、黒田総裁は消費税増税に賛成するという言質を取られてしまったということになります。


そして、その後も財政再建や消費税増税に関する報道が続いていきました。

 政府の経済財政諮問会議は28日、経済財政改革の基本方針である「骨太の方針」のとりまとめに向けて議論した。第3の矢である「成長戦略」を軌道に乗せるため、民間議員は社会保障関係費など義務的経費や地方歳出の抑制を含めた財政健全化が必要と強調。金利上昇が景気などに与える悪影響を避ける「第4の矢」として財政再建に取り組む方針を確認した。

「回復の10年へ基本戦略の策定を」。経済財政諮問会議で安倍首相が関係閣僚らに指示(28日)
 甘利明経済財政・再生相は安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の第3の矢である成長戦略に続き財政健全化を「第4の矢」と位置づけた。

 背景には金利上昇による悪影響への懸念がある。日銀の異次元緩和以降、長期金利が乱高下し、23日には一時1年2カ月ぶりに1%に上昇した。民間議員は「デフレからの脱却と中期的な成長を果たすには、金利上昇が民間投資を抑制しないように財政健全化を図るべきだ」と指摘した。


財政健全化を「第4の矢に」 諮問会議、骨太方針策定へ  :日本経済新聞 財政健全化を「第4の矢に」 諮問会議、骨太方針策定へ  :日本経済新聞 財政健全化を「第4の矢に」 諮問会議、骨太方針策定へ  :日本経済新聞



この「第4の矢」報道があった5/29の翌日(5/30)にも、株価が大幅に下落しています。その後、この「第4の矢」報道が広がる中で、株安、円高、ブレーク・イーブン・インフレ率(期待インフレ率)の低下に歯止めがかからなくなっています。


以上の議論をまとめると、株安、円高の原因は明らかにインフレ期待の低下です。そして、そのインフレ期待の低下の理由は、金利の安定化を求める金融機関や白川時代の日銀に賛同する勢力(マスコミや債券関係の「市場関係者」など)と、消費税増税国債金利の低下を求める財務省の意向に、日銀の金融政策や政府の財政政策が左右されるのではないかという、市場の懸念なのだと思います。


先ほど取り上げたクリステンセン氏のブログでは、日銀は国債金利を憂慮せず、インフレ期待の形成に集中すべきだと主張しています。
この意見には僕も賛成です。国債金利を気にするのは白川時代の「白い日銀」の政策であり、デフレ脱却を目指す「黒い日銀」にはふさわしくありません。もはや金融機関や債券市場関係者の声は無視して、インフレ期待の形成を目指すべきでしょう。
その過程で国債を抱え込んだまま破綻する金融機関が出てくるかもしれませんが、そのような金融機関は「構造改革」論者の言葉を借りれば、日銀によって生かされている「ゾンビ銀行」だと言えるでしょう。すでにペイオフなど金融機関が破綻したときの制度も整備されているのですから、金融機関を守るために国債金利を低く維持するのはおかしいと思います。

 私は、最近の日本の期待インフレ率の低下の主要な原因は、国債金利が上昇し始めたときに、日銀がまずい対応をしたからだ、と思っている。


 つまり、黒田総裁自身を含む日銀の政策委員のコメントは、日銀が不可能なことを達成しようとしている、と示しているのだ。つまり、国債名目金利を上げることなしに量的緩和するなんてことは不可能だ。そんなことをするから、日銀の目標に対してみんなを混乱させてしまう。そして、期待インフレ率を低下させることになっているわけだ。


 ミルトン・フリードマンを読んだことがある人なら誰でも、金融緩和をすれば、期待インフレ率が上がるにつれて、人々が国債名目金利は上昇すると期待する、ということを知っている。実際、高い国債名目金利は、将来のインフレ率に対する市場の期待が上昇したことを示す、非常にはっきりとした兆候である。


 もし日銀が国債金利の上昇に懸念を示し続けるなら、日銀の日本をデフレから脱出させるという努力は、水の泡となるだろう。つまり、将来の量的緩和国債金利を低くしたままという条件で行われるなら、日本がデフレの中にとどまるのは必至である。


2%の期待インフレ率を固定為替レート政策と考えよ 


 従って、私は、日銀は国債金利を憂慮するのはすぐに止めるべきで、その代わり、将来のインフレに対する市場の期待形成に100%集中するべきだと考えている。先週私は、黒田総裁が次の政策をそのまま発表するべきだと示した(以下の引用よりもう少し長いが)。

 期待インフレ率は上昇していますが、その値はどの期間で見ても、インフレ率2%の目標よりもかなり低いです。従って、私たちはもし必要なら、月ごとのマネタリーベースをさらに増加する準備ができています。私たちは、その必要性を、市場の将来の期待インフレ率に基づいて判断するつもりです。
 私たちは、特に、2年と5年のブレーク・イーブン・インフレ率をターゲットにしています。市場の期待が私たちのインフレ目標を反映するように、私たちが行動する、ということを市場関係者のかたにも理解してもらいたいと思います。つまり、期待インフレ率を2%にする、ということです。それ以上でも、それ以下でもありません。



 別の言い方をすれば、日銀は、市場が抱く将来のインフレ期待を2%に「ペッグ」すべきだ、ということである。これを考える一番いい方法は、インフレターゲットを固定為替レートのようなものとして考えてみることである。


 固定為替レートを採用している中央銀行が、その固定された為替レートを維持するために通貨を買ったり売ったりすると約束するように、日銀は、基本的に市場のインフレ期待がいつでも2%になるように、日本のインフレ連動国債を買ったり売ったりすると約束するべきである。


M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」 M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」 M B K 48 : クリステンセン、「黒田総裁、今後インフレ期待を2%に「ペッグ」してください」



次回の日銀決定会合は6/10〜11(次の月曜、火曜)です。日銀はこの決定会合で、今回の株安、円高への対応を迫られることになるでしょう。
日銀の中で、今回僕が分析したような懸念を持ってい人がいるとすれば、それは長年日銀と論争を続け、日銀やその支持者の考えを知り抜いた岩田規久夫副総裁でしょう。岩田氏は副総裁就任後、外部に意見が出てきていないのが気になるところなのですが、今回は黒田日銀が実施したリフレ政策の最初の正念場です。今こそ、岩田副総裁が議論をリードして、更なる金融緩和を打ち出して市場の懸念を打ち消し、インフレ期待を取り戻させるべきではないでしょうか。


もしそれができなければ、アベノミクスの「第1の矢」は失敗し、日本経済は再びデフレと円高に苦しむ、白川日銀・民主党政権時代に逆戻りしてしまうでしょう。
黒田総裁がそんな道に逆戻りする判断をしないことを、心から願っています。