Baatarismの溜息通信

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消費税増税決定について

非常に残念なことですが、10/1、安倍総理は消費税を来年4月から8%に増税することを発表しました。
その一方で安倍総理は5兆円規模の補正予算を組むので、実質的には3%増税のうち2%は負担増にはならないという話があります。リフレ派として知られる、内閣参与の浜田宏一氏、本田悦朗氏もそう考えているという記事もあります。*1

 8月30日の金曜日。首相の安倍晋三(59)は、官邸で2人の内閣官房参与を昼食に誘った。米エール大名誉教授の浜田宏一(77)と静岡県立大教授の本田悦朗(58)。その週は政府が消費増税を巡り有識者の意見を聞く「集中点検会合」を開き、27日に浜田は出席。本田は31日に参加を控えるはざまのタイミングだった。

 アベノミクスの理論的な支柱として別格の扱いを受ける浜田は安倍に持論を改めて述べた。「3%をいきなり上げる例は諸外国にもありません。ショックが大きくなる可能性があるからです。それを避けるやり方もいろいろあるんじゃないでしょうか」。浜田は増税の1年先送りや税率を1%ずつ上げる方法、段階的に上げて様子をみるやり方などを列挙した。

 一方の本田は夏休み中の安倍に意見を直接伝えていた。8月11日、山梨県鳴沢村の安倍の別荘を訪れた本田は税率を1%刻みで上げるなどの試算を提示。その数字の作成は旧知の三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員、片岡剛士(40)に頼んだ。エコノミストの片岡は「慎重派も入れるように」と求めた官邸の意向を受け、内閣府の当初のリストにはなかったものの集中会合に参加。「増税はデフレから完全に脱却した後で」と訴えて、本田らの先送り論に加勢した。

 財務省OBで安倍と古くから親交を結ぶ本田は増税を着実に決めたい古巣の役所から「ノイズ(雑音)」(幹部)と批判されても受け流した。「アベノミクスを成功させる思いの強さが、ほかの人とは違うんです」

 意気盛んだった本田から9月中旬、内閣府幹部に要請が入った。「首相の消費増税を巡る発言を整理してほしい」。増税を前提にしたような物言いを受け霞が関では「首相の決断が近い」との観測が拡大。逆に本田の言動は目立たなくなってきた。

 消費増税が決まった今、2人の参謀に敗北感はない。税率3%の増収分のうち2%分を経済対策で国民に返して1%の負担増とするのは、本田が主張した1%ずつの増税案に沿う。

 米国に戻った浜田は安倍を励ますメールを送り続けた。「うれしい誤算だが、景気は思ったよりも良くなっている。ほとんどの指標が改善していて、アベノミクスが勝利した」。安倍の決断を受け浜田は「金融政策をうまく使ってほしい。法人税も下げないといけない」と語る。関心は早くも次の政策課題に移っている。(敬称略)


消費税8%、慎重派も「うれしい誤算」(ルポ迫真) :日本経済新聞 消費税8%、慎重派も「うれしい誤算」(ルポ迫真) :日本経済新聞 消費税8%、慎重派も「うれしい誤算」(ルポ迫真) :日本経済新聞



しかし、この補正については、昨年度も同程度の補正を行っているので、消費税増税のダメージを減らす効果は無いという意見もあります。そうなると、3%増税のダメージはもろに日本経済を襲うことになります。

 今年は真水で5兆円の補正予算を打った。だから、今度、5兆円規模の補正を打ったにしても、今のレベルを維持するに過ず、来年の消費増税のデフレインパクト8.1兆円は、そのままかかってくる。経済は素直なもので、需要を抜けば、その分、景気は悪くなる。そこに幻想はない。筆者も残念で仕方がないが、やったとおりの結果が出てくるだろう。

 思い返せば、2010年には、リーマンショック対策を一気に10兆円も切って、景気を後退させ、管政権は評判を下げ、補正予算の編成に追い込まれた。大震災の後は、阪神の際のように、すばやく応急復旧と経済対策の2本立ての補正をすべきところを、復興増税論議をして遅らせ、景気を沈滞させてしまう。野田政権は、消費税法案を優先し、剥落を補う補正予算を打てぬまま、景気を悪くしたところで自爆解散に至った。

 日本の経済運営は堪え性がない。景気回復に応じて徐々に経済対策を減らすことができず、すぐに需要を切ってしまい、成長の芽を摘んでしまう。また、繰り返されるのだ。放漫財政なのにデフレという不思議が生じるのは、こうしたゴー&ストップの特異な経済運営の結果である。またも救われなかった背景には、当初と補正を連結して前年度と比較する需要管理の基本中の基本が浸透していないことがある。

 いつも、前年の補正はなかったことにされ、つねに、今年の補正はプラスと宣伝される。前年の補正の剥落を埋めるだけで、放っておけばマイナスになるものを、ただゼロにしただけで、景気をテコ入れをした気になってしまう。そして、なぜだか分らないままに、景気後退を迎えて首を捻り、景気対策には効果がないと文句を言い、人口減のせいにするのである。


経済運営に幻想は無用 - 経済を良くするって、どうすれば 経済運営に幻想は無用 - 経済を良くするって、どうすれば 経済運営に幻想は無用 - 経済を良くするって、どうすれば

 補正5兆円のうち、公共事業2兆円、低所得者給付0.3兆円、住宅ローン給付0.3兆円の計2.6兆円は需要として見込めるが、復興事業1.3兆円は過去のものの再計上だから、カウント外だろう。復興法人税0.9兆円の廃止による需要創出効果は、第一生命研の熊野英生さんの分析ではGDP比0.1%弱の押し上げ効果があるそうだから、一応0.5兆円としておく。投資減税は、新規分の額そのままの0.3兆円分の効果があるとして、しめて3.4兆円だ。これで、前年補正の剥落の5兆円と消費増税8.1兆円のデフレインパクトに対応することになる。約10兆円、GDP2%分の緊縮財政をしたら、無事では済むまい。


10/2の日経 - 経済を良くするって、どうすれば 10/2の日経 - 経済を良くするって、どうすれば 10/2の日経 - 経済を良くするって、どうすれば



昨年、僕は消費税増税の影響について記事を書きました。

消費税関連のニュースでは政局絡みの話ばかり報道されますが、本当に重要なのはこの増税で私たちの生活や日本経済がどうなるかでしょう。今回はまずそのことを考えてみたいと思います。
ニッセイ基礎研究所で、消費税が実質GDPに与える影響が試算されています。
それによると、2013年度は駆け込み需要で成長率が0.7%押し上げられるものの、2014年度は実質GDPが1.4%押し下げられ、成長率への影響はマイナス2.1%となるそうです。その後も2015年度は1.5%、2016年度は1.9%押し下げられますので、かなり大きなマイナスの影響を日本経済に与えることは間違いないでしょう。


消費税増税後の日本 - Baatarismの溜息通信 消費税増税後の日本 - Baatarismの溜息通信 消費税増税後の日本 - Baatarismの溜息通信



この時の記事では消費税増税の2014年のGDPへの影響がマイナス2.1%だという記事を紹介しました。今でもこの数字の前提は大きく変わってないでしょう。
また、先ほど述べたように、補正予算もせいぜい2013年度と同程度なので、成長率に与える影響はゼロと考えて良いでしょう。マイナスでないだけマシかもしれません。
その一方で、黒田日銀の大規模緩和やインフレ2%目標による成長率への影響はかなり大きいでしょう。その結果、最近の成長率は年率換算で2〜3%くらいにはなっていると思われます。
従って、これらを差し引いた来年の成長率は、マイナスにはならないものの、1%には届かず、0.x%というオーダーになると思われます。
ここで、欧州や中国などの金融危機、あるいは最近噂されている米国の債務上限問題によるデフォルトが発生すれば、日本経済はマイナス成長に沈むでしょう。そんな事態が起こらないことを祈りますが。

その結果、アベノミクスでようやく伸びてきた法人税所得税の伸びはなくなりますから、それで消費税増税分が相殺されてしまうかもしれません。消費税による増収は14年度が5.1兆円、15年度以降が8.1兆円と見積もられていますが、さて、このうちどれだけが本当の増収になるのでしょうか。*2


ここでもう少し消費税増税を待てば、景気回復が進んで増税しなくても税収が増え、デフレ脱却後に消費税増税をすれば日本経済に与えるダメージも少なくなっただろうと思うと、残念でなりません。
まあ、財務省はこんな論理で動くところではなく、自らの「歳出権」の最大化が本当の目的ですから、財務省やその「ポチ」にとってはこれで良いのでしょう。問題はその目的がほとんどの日本人のためにならないことですが。


すでに消費税の10%への増税や、さらにその先の増税を睨んだ発言も、増税派からは出てきています。財務省の「歳出権」の最大化を目指す動きは止まることがありません。*3

麻生副総理兼財務大臣は、法律で再来年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げについて、予算案の編成などを考慮すれば、引き上げるかどうかの判断は、来年の年末までに決めるのが望ましいという考えを示しました。


(中略)


官房長官は閣議のあとの会見で「さまざまな方がいろいろ発言しているが、法律の規定にしたがって適宜適切に判断していくというのが政府の基本的な考え方だ。安倍総理大臣も『判断時期を含めて適切に判断したい』と記者会見で述べており、それがすべてだろう」と述べました。


(中略)


谷垣法務大臣は、宇都宮市で開かれたみずからが顧問を務める自民党のグループの研修会で講演し、消費税率の引き上げについて、「社会保障の財源を確保し、財政の硬直化を乗り越えていかなければならず、来年4月から8%に引き上げる決断をしたのは良かった。ただ、8%で終わりではなく、次に10%に引き上げることが法律で決まっているので、どう道筋をつけていくかが極めて大事だ」と述べ、法律どおり、再来年10月に10%に引き上げることを目指すべきだという考えを示しました。


麻生氏 消費税10%判断は来年末に NHKニュース 麻生氏 消費税10%判断は来年末に NHKニュース 麻生氏 消費税10%判断は来年末に NHKニュース

自民党の野田税制調査会長は、名古屋市で講演し、安定した社会保障制度を実現するためには、将来的に、消費税率を10%を超えるまで引き上げることも検討すべきだという考えを示しました。

この中で、自民党の野田税制調査会長は「民主党などからは、『年金制度の抜本改革を』という話があるが、消費税率10%を前提にしてはとてもできない。安定した社会保障制度をつくるためには、中長期的に、10%を超える税率を前提にしなければならない」と述べました。


野田税調会長「消費税率10%超も検討を」 NHKニュース 野田税調会長「消費税率10%超も検討を」 NHKニュース 野田税調会長「消費税率10%超も検討を」 NHKニュース



止まることがない財務省の消費税増税と「歳出権」への欲望。これをどこかで止めないと、日本の未来は果てしなく暗くなっていくと思います。まるで今の中国のように。

追伸

最終的に安倍総理は消費増税を決定したため、今回の消費増税に関する記事で、僕が「安倍総理が消費税増税決定」という記事を「誤報」だとしたことを批判する声があります。
ただ、あの時点では菅官房長官が内閣を代表して「総理はまだ決定していない」と公式に言っていたのですから、「決定」と決めつける記事が誤報だったのは明らかでしょう。「安倍総理は最終的に消費税増税を決断するだろう」という推測記事なら、僕も批判はしませんでした。

この件についてはid:finalventさんがすでに的確な意見を言っているので、そちらをご覧下さい。僕もこの意見に全面的に賛成です。

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*1:すでに消費税に関するマスコミ報道は眉につばを付けて読むのがデフォルトでしょうから、ここではこの日経記事が事実であるという断定は避けます。

*2:消費税増税による14年度の増収が低いことについては、この記事が参考になるでしょう。「消費増税、3兆円が消えるカラクリ 編集委員 滝田洋一 :日本経済新聞

*3:野田税調会長は社会保障制度を理由にしていますが、今回の8%への増税でも最終的に社会保障の問題がないがしろにされたのは明らかでしょう。だから社会保障増税の口実に過ぎないと思います。