Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

続・安倍政権はなぜ叩かれる?

前回のエントリーでは、安倍バッシングの背後に財界や財務省がいるのではという憶測を述べましたが、安倍バッシングをしたい動機は、当のマスコミ自身にもあるのではないかという推測記事を見つけました。

 マスコミも商業主義の中で生息している以上、権益を侵すものに対しては、「建前」をかなぐり捨てて反発する。
 テレビ朝日孫正義、フジテレビの堀江貴文、TBSの三木谷浩史に対する態度がそうで、放送免許という既得権を侵そうとしたベンチャー経営者の3人は、徹底的に無視され、あるいは攻撃を加えられ、堀江被告フジサンケイグループの包囲網によって、塀の中に叩き込まれた。
 新聞もそうである。
 一般読者は、新聞が「特殊指定」によって守られていることを知らないが、新聞業界は?新聞発行業者が地域・相手方により異なる定価を設定して販売することを禁止、?新聞販売店が地域・相手方により定価を割り引いて販売することを禁止、?新聞発行業者による販売店への押し紙行為を禁止、と定められている。
 独占禁止法が禁じる、公正な競争を阻害するものではあるが、公正取引委員会は「言論の自由を確保するには、価格を維持して乱売を防ぎ、宅配制度を堅持しなければならない」という、新聞業界の強固な姿勢に押されて「特殊指定」を認めてきた。
 インターネットで全ての新聞がチェックできる時代に、どうして宅配制度の維持が必要なのか。また、言論の自由を宅配制度が支え、定価販売が報道の質の高さを維持するという理屈もわからない。
 ネット社会は時空を圧縮する。テレビのスピード感をネットの情報伝達力がはるかに凌駕する時代に、新聞が全ての情報の権威で、国民の知る権利に答えていると、傲慢に認識していることの方がおかしい。
 公取委竹島一彦委員長は、「吠えない市場の番犬」とヤユされた公取委を、戦う集団に変えた人である。ことに昨年一月の独禁法改正以来、「必要悪」として存在を続けると思われていた「談合」を、導入された自首申告制度、強化された課徴金といったアメとムチを存分に使い、同時に検察との徹底的な連携による全国的な摘発で、撲滅寸前にまで追い込んでいる。
 マスコミ各社は、戦う「竹島公取委」を称賛した。
 官僚の権益を奪取、規制を緩和することによる競争力強化で、日本経済の安定成長を図るという合意事項がある中で、阻害要因の除去に本気で取り組む委員長に喝采を贈るのは当然のことだろう。
 だが、組織としては、別の反応を示したのである。「特殊指定」に積極的な意味を見い出せない竹島委員長は、一昨年、指定解除を持ち出した。この時の新聞各社の反応ほど見苦しいものはなく、なりふり構わず特殊指定維持のためのキャンペーンを張り、政治力を使って公取委竹島委員長に圧力をかけ、解除を引っ込めさせた経緯がある。
 その竹島氏の留任が決まった。任期は5年で2012年8月までだ。「改革の続行」を掲げる安倍首相の鶴の一声だったという。
 この留任に切れたのが、『読売新聞』の渡辺恒雄グループ本社会長である。渡辺氏は、「特殊指定」を含む現体制死守の総権化である。最近、「新聞再販の維持」に理解を示すなど、軟化しているといわれる竹島氏だが、同氏が根っからの競争主義者であるだけに、本音は違うことを渡辺氏は見切っている。
 その自分の意向を知っての竹島留任か――渡辺氏は自分をないがしろにした安倍首相への反発を強めており、「反安倍」に回るのは必至の情勢。これに『日経新聞』も同調、既に紙面では安倍批判が展開されている。もともと『朝日新聞』は、安倍氏自らが不倶戴天の敵としてきただけに、批判には年季と気合が入っている。
 年金に松岡、赤城の両農水相問題で、安倍自民党には大逆風が吹いている。それに加えて「竹島留任」で、主要新聞を敵に回してしまった。その新聞の身勝手は指摘されてしかるべきだが、参院選の劣勢にさらなる火をつけたことは、いかんともしがたい事実なのだ。

現在産業情報 「竹島留任」でほとんどのマスコミを敵に回した安倍首相

新聞の「特殊指定」問題については、過去にこのブログでも扱ったことがあります。そのときは、すべての新聞が中立性をかなぐり捨てて「特殊指定廃止反対」の一大キャンペーンを打ち出したばかりか、新聞記者や販売店と関係の深い与野党議員も動かして、「特殊指定廃止」を葬り去りました。このときの新聞社のなりふり構わなさを思い出すと、「現在産業情報」の憶測も本当なのではないかという気がしてきます。


新聞の特殊指定見直し問題で見えてくるもの

新聞の特殊指定見直し問題−見直し賛成の意見

特定郵便局と新聞販売店の関係

毎日新聞の竹島公取委員長インタビュー
小泉首相でも潰せなかった抵抗勢力w



また、NHKの受信両問題やTBSの不祥事についても、安倍政権はテレビ局に厳しい姿勢を取ってきました。だから、新聞社だけではなくテレビ局にも、激しい安倍政権バッシングする動機はあると言えるでしょう。


もちろん、前回のエントリーで述べた財界や財務省の話も、今回のマスコミの話も、単なる陰謀論として無視することもできるでしょう。ただし、このような憶測が出てくる背景には、安倍政権があまりにも多くの敵を作ってしまったことがあるのではないかと、僕は考えます。
これらの話以外にも、公務員改革で官僚を、教育改革で日教組を、社会保険庁民営化で自治労を敵に回し、連合などの労働組合も敵に回っています。さらに財務省、財界、マスコミを敵に回したとなると、安倍包囲網を自ら作ってしまったと言っても良いでしょう。


このように安倍政権が敵ばかり作ってしまった原因ですが、僕は安倍政権が「改革」をあまりに多く、かつ性急にやろうとしてしまったためではないかと思います。安倍政権がこれまでのやり方を変えようとしたことが(つまり「改革」しようとしたことが)、その「改革」によって不利益となる存在の反発を呼んでしまったと考えられるでしょう。(ただし財界だけは違うかもしれませんが)
これは小泉政権とは対照的だと思います。小泉政権はその「改革」イメージにも関わらず、実際の政治手法では「抵抗勢力」を分断して取り込めるところは取り込み、分断で弱体化した敵をイメージ操作で大きな存在に見せて、「改革」をアピールしていました。そして「抵抗勢力」を取り込んだ結果、実際の「改革」が中途半端に終わることもありました。道路公団改革はその典型で、最後は民営化推進委員会の委員にすら批判される有様でした。また郵政改革にしても、JRやNTTのような地域分割はできませんでした。だからこそ、小泉政権は敵を増やすことなく、あれだけの長期政権を築けたのだと思います。


ここまで読むと、僕が安倍政権の「改革」を賞賛しているように思えるかもしれませんが、そもそもこれらの「改革」は本当に良いことなのかという疑問は僕にもあります。もちろん、小泉政権にせよ安倍政権にせよ「改革」全部が良いとか悪いと言うことはなく、その内容を見て是々非々で判断すべきでしょう。
ただ、マスコミは小泉政権時代に「改革」は無条件に良いことであり、それを邪魔する「抵抗勢力」は悪い奴らだというムードをあまりにも振りまき過ぎました。だから今更マスコミも、安倍政権の「改革」が悪いとは言えず、それでも安倍政権を叩きたいから、「失言」や「スキャンダル」で攻撃しているのだと思います。そして安倍政権の「改革」で不利益を被る人たちも、このマスコミの攻撃を利用するか、あるいは傍観してほくそ笑んでいるのでしょう。


結局、なぜ安倍政権が叩かれるかと言えば、安倍首相なりの「改革」を一気に進めようとした結果、「抵抗勢力」の反発を招き、「失言」や「スキャンダル」を武器とした攻撃を受けてしまったのだと思います。
「何故安倍政権は実績を上げているのに批判されるのか」という疑問があるようですが、僕はこのように考えた結果、むしろ「実績を上げているから批判されるのだ」という結論に達しました。また、安倍政権への批判の内容が「失言」や「スキャンダル」に集中していて、政策論争がないがしろにされていることも、このエントリーのように考えれば理解できるように思います。