Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

嫌韓経済学?

中国と韓国はどちらも日本の隣国であり、最近は「特定アジア」などと一緒にされて批判されることも多いのです。しかし中国経済については書籍やマスコミ、ネットで論じられることも多いのですが、何故か韓国経済はほとんど論じられることがありません。


そんな中、最近、韓国経済を論じた一冊の本が出版されました。タイトルを見るといかにも嫌韓っぽい臭いがしますし、実際、韓国に批判的な本なのですが、経済分析そのものは国際収支に基づいたもので、面白い指摘も多いと思ったので、今回取り上げることにしました。

本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖

本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖


この本によると、韓国の2004年以降の国際収支は次のようになっています。

  2004年 2005年 2006年 2007年1〜3月
経常収支 281.7 149.8 60.9 -15.2
 貿易収支 375.6 326.8 292.1 61.8
 サービス収支 -80.4 -136.5 -187.6 -61.8
 所得収支 10.8 -15.6 -5.3 -6.9
 経常移転収支 -24.3 -24.8 -38.1 -8.3
資本収支 75.9 47.5 186.1 48.4
 直接投資収支 45.8 20.1 -34.8 -9.6
 証券投資収支 86.1 -17.2 -225.4 -101.5
 その他投資収支 -38.5 68.1 476.7 167.6
 資本移転及び非金融資産収支 -17.5 -23.4 -30.3 -8.1
外貨準備高増加 387.1 198.0 221.1 39.9
誤差脱漏 29.3 0.6 -25.9 6.7

(金額の単位は億ドル)


これを見ると、次のようなトレンドがあることが分かります。

  • 経常収支の急減(今年は経常赤字転落?)
    • 貿易黒字の減少
    • サービス収支の赤字拡大
    • 所得収支の赤字化
    • 経常移転収支の赤字拡大
  • 資本収支
    • 直接投資収支の赤字拡大
    • 証券投資収支の赤字拡大
    • その他投資収支の黒字急増
    • 資本移転及び非金融資産収支の赤字拡大


このそれぞれに対して、この本では次のような原因説明がされています。ただ、この説明は他の要因との比較検討が十分にされているとは言えず、作者にとって都合の良いニュース記事だけが資料として示されているように思えます。これがこの本の弱点でしょう。

トレンド 原因
貿易黒字の減少 労組の無理な要求による人件費の高騰
日本への技術依存による、資材・部品コストの高騰
サービス収支の赤字拡大 海外旅行の急増
海外留学(教育難民)の急増
所得収支の赤字化 韓国企業の大株主である外資系ファンドへの配当急増
経常移転収支の赤字拡大 海外留学した子供や付き添い家族を支えるための送金増加(逆単身赴任)
直接投資収支の赤字拡大 韓国企業の海外投資急増と国内投資の低迷(産業空洞化)
証券投資収支の赤字拡大 国内株式への投資低迷、海外株式への投資急増
その他投資収支の黒字急増 キャリートレードによる短期外債の急増
資金の流入先は不動産と家計向けの高金利ローン
資本移転及び非金融資産収支の赤字拡大 海外移住者による資産持ち出し


ただし短期外債については次のようなデータがあり、2006年度末の短期外債比率は43%(アジア通貨危機前のタイの比率とほぼ同じ)であることが示されています。

  2004年末 2005年末 2006年末
対外債務 1723 1898 2633
 長期 1159 1239 1497
 短期 563 659 1136
対外債権 2842 3080 3627
対外純債権 1119 1188 994

(金額の単位は億ドル)


また、韓国銀行(韓国の中央銀行)は、韓国の2006年度の成長率として4.0%と5.0%の2種類の数字を出しており、後者の数字は2006年度の第1〜第4四半期の対前年同期成長率を平均して出している(つまり2005年の成長も含めて底上げしている)と指摘して、韓国の経済統計への疑問も示しています。


確かに作者の原因分析には恣意的なところもありますが、韓国の急激な経常黒字減少や短期外債増加、それに成長率への疑問は興味深い指摘だと思います。
この本の作者は経済学者ではなく中小企業診断士だということですが、この本の内容が嫌韓派の間で一人歩きする前に、まっとうな経済学者が近年の韓国経済の分析を行い、この本の内容を検証することが必要だと思いました。


盧武鉉政権の経済政策には大きな問題があるという指摘は、これまでも韓国国内から聞こえてきましたが、こうやってデータを見せられると、やはりそうなのかなと思ってしまいますね。