Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

霞が関埋蔵金伝説を追うw

 霞が関に「埋蔵金」はあるのか――。政府・与党内でそんな論争が続いている。きっかけは自民党内の財政再建重視派が、歳出削減で財源を捻出(ねんしゅつ)するとした民主党参院選公約を「根拠のない『埋蔵金伝説』」と批判したこと。これに自民党内の成長重視派が「埋蔵金はある」と反論。福田首相は4日、「埋蔵金あればいいけどね。それはその時のお楽しみ」と記者団をけむに巻いた。

 最初に「伝説」という表現を使ったのは、財政再建派の与謝野馨官房長官が会長を務める党財政改革研究会の11月の中間取りまとめ。「国の財政には歳出削減の余地があり、増税せずに財政再建が可能だ」などとする民主党の主張を「具体的な根拠がなく、『霞が関埋蔵金伝説』の域を出ない」と皮肉った。

 だが、成長重視派の中川秀直元幹事長は1日の講演で、国の特別会計にある積立金や余剰金を念頭に「40兆〜50兆円の埋蔵金がある」と指摘。これにすぐさま財政再建派の谷垣禎一政調会長が「どこにそれだけの埋蔵金があるのか。社会保障の財源は一過性のものではだめだ」と強く反発した。

 これに対し、首相は4日、記者団に「埋蔵金を探しに行きましょうか、一緒に」「(埋蔵金が)あるかないかという議論をする前にムダを削ることに全力をあげる方がいい」と語った。

http://www.asahi.com/politics/update/1204/TKY200712040509.html

 「霞が関埋蔵金」論争の火付け役となった自民党中川秀直元幹事長は5日、記者団に対し、国の二つの特別会計を具体的に例示して「霞が関に『埋蔵金』は実在する」と改めて主張した。中川氏は同日、首相官邸福田首相を訪ね、こうした考えを伝えた。

 中川氏が示したのは、財政投融資を管理する財政融資資金と、外貨準備を計上する外国為替資金の両特別会計の積立金の一部。09年度に予定される基礎年金の国庫負担割合引き上げの財源として「(当面は)ここを活用して、(恒久的な財源は)与野党協議をしっかりやればよい」と指摘した。財融資金については、08年度で10兆円の国債減額などが可能との試算も示した。

http://www.asahi.com/politics/update/1205/TKY200712050304.html



最近、自民党では「霞が関埋蔵金」を巡って論争が起こっているようです。最初は民主党の主張に対して「増税派」の牙城である党財政改革研究会が「霞が関埋蔵金伝説」と皮肉ったのですが、これに対して「上げ潮派」の中川(秀)氏が「40兆〜50兆円の埋蔵金がある」と指摘して、論争になっているようです。


この中川(秀)氏の指摘する「埋蔵金」のうち、外国為替資金については政府短期証券を発行して調達した資金で外貨を買って運用しているものですから、そのままでは円としては使えませんし、元本まで使ってしまうと政府短期証券を償還できなくなってしまいます。だから「埋蔵金」としては筋があまり良くないように思います。
一方、財政融資資金については、高橋洋一氏がその著書「財投改革の経済学」の中で指摘しています。ここでは「FACTA online」の書評の文章を引用します。この「財政融資資金特別会計53兆円(現在価値23兆円)」というのが、中川(秀)氏の指摘したものでしょう。

まず政府資産・負債管理政策。ここにめっけものの数字がある。国の貸借対照表から浮かびあがる特別会計の「見えない資産」である。これまであるあると言われてきたが、霞が関の「隠しポケット」が、本書で裸にされている。かつて塩爺、こと塩川正十郎が言った「母屋(一般会計)でおかゆ、離れ(特別会計)ですき焼き」の実態はこれなのだ。

高橋氏のデータは、05年4月27日の経済財政諮問会議で明らかにされた数字に基づいている。これは各特別会計について、継続中の事業をのぞき新規事業を行わないという前提ではじきだした資産負債差額(清算バランス)の推計額である。

それによると、特会に隠された主な「見えない資産」、つまりプラスの清算バランスは


財政融資資金特別会計53兆円(現在価値23兆円)
国有林野事業特別会計4・5兆円(同4・5兆円)
労働保険特別会計6・5兆円(同5・1兆円)
空港整備特別会計2・3兆円(同1・9兆円)
自動車損害賠償保証事業特別会計1・2兆円(同0・7兆円)


当時の奥田委員が「こんなにあるのか」とのけぞったという数字だ。道路特別会計にもこの「見えない資産」があるのに、経財諮問会議には数字を公表しなかった。新規の道路需要がそれほど増加していないことを考えると、独自財源が余剰する可能性が高く、「見えない資産」は10兆円以上あるという。

省庁はこうした特会の隠し資産を手付かずにしておいて、一般会計から国費を繰り入れている。高橋氏の指摘では、労働保険特会は資産負債差額4・2兆円は、責任準備金8・0兆円に対し50%以上あり、保険料が高すぎるおそれがある。空港整備特会も同じだ。資産負債差額が2・3兆円もあるだけに、一般会計からの繰入額も空港使用料も「ぼったくり」の可能性があるという。

高橋氏は「離れですき焼き」は計50兆円規模とみる。民主党が知ったらほくそ笑むだろう。消費税1%引き上げで税収が1兆円の増収になるが、50兆円も「隠しポケット」に抱えていながら、一銭もたくわえを崩さずに消費税引き上げが通るはずもない。

皮肉なことに、高橋氏のこの本は消費税引き上げ論を覆す決め手になるのだ。

高橋洋一「財投改革の経済学」のススメ 1:阿部重夫主筆ブログ:FACTA online


これに対して、bewaadさんが反論を行っています。

「計50兆円規模」の「離れですき焼き」が事実であるとして(おそらくは現在価値の足し上げでしょう)、その半分近くを占める最大のものは財政融資資金特別会計のものです。ではなぜそんなものが生じたのか、結論からいえば財政融資資金が大きな金利リスクを背負っているからです。2003(平成15)年度のものと若干古くはありますが、そのマチュリティーラダーやデュレーションギャップが示すのは、財政融資資金が長短金利差で利益を得ている‐わかりやすく言えば、短期資金を低金利で調達し、高金利の長期資金で運用しているため、その金利差が利益になっている‐という事実であり、「離れですき焼き」とは、その累積に他なりません。

#デフレのため、中長期的なトレンドとして(名目)金利低下局面であったことが、上記利益をさらに押し上げていました。

逆に言えば、金利が上昇して既往の長期運用の金利を上回るほど調達の短期金利が上昇したり、さらには逆イールドになりにでもすれば、多額の損失が財政融資資金に生じる可能性がある、ということとなります。直近の計数でどの程度のデュレーションギャップがあるかはわかりませんが、上記リンク先での 1.35年(2003年末)が今なお妥当すると仮定すれば、2006(平成18)年度末の財政融資資金残高が300兆円弱ですから、金利が急激に(=ポートフォリオ組替えをする間もなく)3%ほど上昇すれば約10兆円の損失(時価評価の対象とならない貸付債権が過半ですから、正確には逆ザヤの現在価値+保有有価証券の評価損となります)が生じるわけです。これを考えれば清算剰余の現在価値23兆円とは、びた一文たりとも剥がせないということはないにせよ、大半は必要なリザーブだといえるでしょう。

以上を受けての苦言ですが、高橋さんのご専門を考えれば、こうした事情を理解できないとは考えづらいでしょう。とすれば、本来はその中に「離れですき焼き」とは言いがたいものが含まれていることを承知で、50兆円もの「離れですき焼き」があるとのミスリードを行ったものと考えられます。これは決して褒められたこととは言えますまい。


高橋洋一さんへの苦言 | bewaad institute@kasumigaseki


このように「財政融資資金特別会計53兆円」を「埋蔵金」とできるかどうかについては、賛否両論があるようです。
ただ、高橋氏が指摘しているが中川(秀)氏が指摘していないその他の特別会計については、納得できる反論が行われない限り、「埋蔵金」と言われても仕方ないでしょう。


こうやって自分の得られる範囲で情報を整理してみたのですが、中川(秀)氏は「埋蔵金」かどうか疑いがある特別会計をわざわざ取り上げてしまっているように思えます。しかし与謝野氏などが「伝説」と言い切ってしまうのも、納得できないところがあります。
本来ならば、個々の特別会計についてそれが本当に必要なのかを洗い出し、不必要な部分については財政再建に当てるのが筋だと思うのですが、「上げ潮派」である中川(秀)氏は財政についての理解が足りないように思えますし、与謝野氏などの「増税派」については不必要な特別会計を意図的に温存しようとしてるのではないかという疑いを抱いてしまいます。


結論としては、どっちも役者不足でまともな論争になってないというところでしょうか。w