Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

デフレから毒餃子へ

最近の日本のテレビは、中国から輸入された冷凍餃子に毒物が混入していた事件ばかりやってます。それに呼応するかのように、ネットでは食料安全保障や自給率向上を求める意見が相次いでいます。
しかし僕は自由貿易を支持するので、貿易制限で食料安全保障や自給率向上を実現しようという政策は賛成できません。
そんな僕にとって最も納得できる意見は、この梶ピエールさんの意見です。もっとも僕自身もちょっとだけ絡んでいるのですが。w



http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20070821/


 以前厨先生に取り上げていただきましたが、こういう事態だからこそ再掲しておきたいと思います。

Baatarism 『かつて中国から安い商品が入ってきたからデフレになったのだという意見がありましたが、実はこれは因果関係が逆で、日本がデフレになったから中国から安い商品が入るようになったのだと思います。


日本で中国製品の安さ故のリスクが大きな問題となっているのも、日本のデフレが和らいだ(脱出したとはまだ言えませんが)のと関係あるのかもしれませんね。』


kaikaji 『Baatarismさん、


>それは日本が長期のデフレ不況に陥り、消費者が安さを第一に考えざるを得ず、販売側もそれに対応せざるを得なかったからでしょう。


 中国からの野菜の輸入が本格化する90年代末は中国自体がかなり深刻なデフレ状態だったことも大きかったと思います。その後中国の経済過熱と労働力不足が顕在化するとコスト削減のため現地業者に「丸投げ」する輸入業者が増え始め、日本がようやくデフレから脱却しそうになると食の安全性の方に関心が高まり「中国製品離れ」が本格化する・・だいたいそんなストーリーでしょうか。中国の食の安全に関しては外圧だけではなく国内から声が挙がってきたという面も大きいのですが、これも経済が上昇基調にあるからこそそういう声が顕在化したという要素もあると思います。』

 基本的に付け加えることはありません。


 「こういう事件が起きないようにもっと食料自給率を上げよう」という反応をする向きもあるようですが、それはいかに「良心的」に響こうとも、その本質は「やはり中国人に日本人の口に入るものなど作らせるわけにはいかないのだ」という差別的な姿勢と紙一重なのではないでしょうか。


 今なすべきは食料自給率の無理な引き上げなどではなく、中国での食品の委託生産における日本の(中国の、ではない)商社や企業の管理能力低下についての徹底的な検証と、消費者や生産者が「安さ」のみを追求しなくてもよいような国内経済の環境づくり(=デフレ脱却)だ、ということは強調してもしすぎることはないように思えます。

毒餃子事件と日本のデフレ - 梶ピエールの備忘録。



僕と梶ピエールさんのコメントの内容を表にまとめると、こんな風になるでしょうか。

時期 日本側 中国側
90年代末 デフレ不況によって、食品企業はコストダウンを求められ、中国進出を加速。 デフレ状態で労働力が余っていたため、低コストで食品生産が可能。
00年代 相変わらずデフレのため、低コストな生産拠点を中国に求める。その一方、経済混乱状態から脱したことで安全性への関心が高まり、中国食品への不安が強まる。 デフレを脱して高度経済成長となり、労働力不足で低コスト生産が困難となる。低コスト維持のため、現地業者に「丸投げ」する傾向が強まる。



今回の「毒餃子」事件も、日本側が低コストと安全性の両立を求めたのに対し、中国側ではそれが困難で低コストを優先せざるを得なかったことが、背景にあるのでしょうね。


このような背景を解決するためには、まず日本の消費者が安全な食品を買うためのコストを負担できるようにする必要があるでしょう。これは日本人の収入や購買力を上げることであり、つまりデフレ脱却*1となります。
日本の消費者は安全な食品を求める欲求が強いので、十分な購買力があれば市場で安全な食品が選ばれるようになるでしょう。さらに国産の食品は安全だというイメージが強いので、国産食品の市場競争力が高まり、食料安全保障や自給率向上に貢献するでしょう。これは自由貿易に反する貿易制限よりも良い方法だと思います。


従って、食品の安全性向上のためにも、食料安全保障や自給率向上のためにも、「まずデフレを止めよ」(by 岩田規久男)というのが僕の考えです。そもそも中国への食品依存が高まったのはデフレが原因なのですから、元を絶つためにはデフレを止めなければならないと思います。

*1:ここで言う「デフレ」はGDPデフレーターで計測されるような「国内で新たに生み出された価値(付加価値)の価格の低下」を指し、輸入価格の上昇・低下による分は含みません。詳しくは『飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」- インフレになるとデフレになるの怪』(http://wiredvision.jp/blog/iida/200802/200802020013.html)を参照してください。