21世紀の「人民戦争」
中国チベット自治区ラサで発生したチベット仏教僧らによる大規模な暴動を受け、中国の当局者らは、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の支持者らとの「人民戦争」を戦うとの姿勢を強調した。同暴動をめぐっては、数十人の死者が出ているとの情報もある。
チベット暴動、中国はダライ・ラマ派との「人民戦争」を宣言 - Reuters
チベットの暴動の件でいろんなニュースが報道されてますが、僕が一番驚いたのはこの「人民戦争」という毛沢東時代の言葉が出てきたことですね。
「木走日記」さんに、「人民戦争」についての詳しい解説がありました。
●「人民戦争」の矛盾〜「全民族の利益」はしばしば最多数民族である「漢民族の利益」に同値
やはりそこに至ったのかという「落胆」を持ったのは、共産中国にとり「人民戦争」という言葉は特別な意味を有しており、この言葉は第二次世界大戦の中国国民革命軍第八路軍すなわち日中戦争の中国赤軍の行動原理に由来する歴史的用語なのからであります。
『毛沢東選集 第三巻 p305』から抜粋引用しておきましょう。
この中で毛沢東は「人民戦争」を担う軍隊は以下のような特徴を有していると述べています。この軍隊が強力なのは、この軍隊に参加しているすべての人がみな自覚的な規律をそなえているからであり、少数の人または狭隘《きょうあい》な集団の私的利益のためにではなく、広範な人民大衆の利益のため、全民族の利益のために、結集し戦っているからである。しっかりと中国人民の側にたって、誠心誠意、中国人民に奉仕すること、これがこの軍隊の唯一の目的である。
http://www.geocities.jp/maotext001/maosen-3/maosen-3-305.html
なるほど、「少数の人または狭隘《きょうあい》な集団の私的利益のためにではなく、広範な人民大衆の利益のため、全民族の利益のために、結集し戦っている」とは、今回のチベット騒乱における中国当局の「分離主義に反対し安定を守るため、人民戦争を戦う。こうした勢力の悪意ある行為を暴き出し、ダライ派の醜い面を明るみにさらけ出す」発言と通底している論法であります。
つまり「人民戦争」と言う言葉は中国現中央政府の原点となる、抗日戦争に由来する、中国共産党にとって歴史的な特別な用語なのであります。
毛沢東は「人民戦争」について語るこの章を次の文章で結んでいます。
要するに、すべては前線のために、すべては日本侵略者の打倒と中国人民の解放のためにということ、これが中国解放区の軍民全体の全般的スローガンであり、全般的方針である。
これが真の人民戦争である。このような人民戦争によってのみ、民族の敵にうち勝てるのである。国民党が敗北しているのは、必死になって人民戦争に反対しているからである。
中国解放区の軍隊は、ひとたび新式兵器によって装備されるなら、いっそう強大になり、日本侵略者を最後的にうちやぶることができる。
「チベット騒乱」をめぐる日本リベラルの不可解な沈黙〜「人民戦争」と言うキーワードから読み解いてみる - 木走日記
要するに中国共産党のいう「人民戦争」の定義は、その目的が「中国人民の解放」であり、「人民戦争によってのみ、民族の敵にうち勝てる」のであり、そののためには「少数の人または狭隘《きょうあい》な集団の私的利益のためにではなく、広範な人民大衆の利益のため、全民族の利益のために、結集し戦」うことが求められるわけです。
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まさにこの毛沢東の「人民戦争」について語る文にこそ、根本的な矛盾を読み解けることは極めて重要です。
「人民戦争」では、「広範な人民大衆の利益のため、全民族の利益のために」は、「少数の人または狭隘《きょうあい》な集団の私的利益」は糾弾されるべき対象と定義され、しかしながら残念なことに「全民族の利益」はしばしば最多数民族である「漢民族の利益」に同値になるからです。
皮肉ですが、まさに今回のチベット騒乱は確かに、多数民族の利益のためには少数民族の利益は犠牲になっても仕方がない、その意味で漢民族中心の中国政府にとって「人民戦争」そのものなのでありましょう。
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今、検証したとおり「人民戦争」という前時代的用語は、中国共産党にとって歴史的意味合いの持つ特別な言葉なのであります。
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元々は侵略した日本軍との戦争を意味した「人民戦争」という言葉が、チベットへの侵略や弾圧を正当化するために使われるという、この状況にはおぞましさすら感じます。
いくら見てくれが近代化されても、中国共産党の本質は毛沢東時代と何も変わっていないことを、この「人民戦争」という言葉からは感じます。
日本政府はこんな状況になっても、まだ胡錦涛訪日にこだわるんでしょうか?胡錦涛も1989年にチベットの暴動を弾圧した人ですよね。
もしこんな時期に訪日させてしまったら、日本もまた人権無視国家のレッテルを貼られかねないと思うのですが。