Baatarismの溜息通信

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書評:さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋 洋一 著)

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

この本の著者の高橋洋一氏は、小泉政権から安倍政権にかけて行われた様々な改革の設計者であり、同時に日銀の金融政策を鋭く批判するリフレ派としても知られています。*1
彼がそれらの改革の詳細について書いた「財投改革の経済学」は、週刊東洋経済の昨年の経済・経営書ベスト100の第一位にも選ばれるなど、経済論壇においても注目される人物の一人と言えるでしょう。


この本については、先にid:finalventさんが「極東ブログ」で取り上げているのですが、そこでfinalventさんから次のように言われました。

 書名にはありがちなブログのエントリみたいな煽りが入っているが、「さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋洋一)」(参照)は、後代の歴史家が現代の日本を振り返ったとき真っ先に参照される一級の史料となるだろう。そのくらいに貴重な証言資料でもある。


 およそ読書人なら必読と思われるのだが、知識人にはいわゆる反小泉の人も多く、まさに小泉政治の懐中にあった高橋洋一の独白には関心をもたないかもしれない。私はいちブロガーとして思うのだが、本書を一番読み込んでおそらく溜息に沈むであろうなと心中を察するのは、Baatarismさん(参照)だ。彼はきっとこの本に対して私より優れた書評を書いてくれるに違いなと念願を込めて、プッシュプッシュプッシュ。

[書評]さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋洋一): 極東ブログ



というわけでプッシュプッシュプッシュされてしまったわけですが、実はfinalventさんの予想とは違って、僕はそれほど溜息には沈みませんでした。w
確かにこの本に書かれている財務省を初めとした官僚達の姿はひどいものであり、こんな官僚に国を任せてるのかと溜息をついてもおかしくないような書き方です。
それなのに何故溜息が出ないのかと考えているうちに気づいたのは、この本が勧善懲悪の構造を持っていることでした。


この本の主人公である高橋洋一氏は、東大理学部数学科から大蔵省に入った異色の官僚であり、1990年代にはその数学的・論理的思考と情報システム設計能力を生かして、大蔵省にALM(Asset Liability Management)システムを導入したり、橋本政権時代の財投改革を手がけるなど、省内で大活躍をしました。
その後、アメリカプリンストン大学への留学を引き延ばしたことがきっかけで財務省から干され、閑職に回されたときに竹中平蔵大臣の引きで小泉政権構造改革に携わるようになり、郵政民営化道路公団改革、政策金融改革などを、官僚側の妨害を交わしながら推進しました。その結果、財務省との関係は悪化し、その後安倍政権で公務員制度改革を手がけたこともあって、財務省からは完全に敵視されるようになりました。


高橋氏からすれば、財投改革を行えば必然的に郵政民営化は必要となり、郵政民営化を行えば必然的に政策金融改革が必要となるというように、論理的に導かれる結果として改革を進めたのでしょうが、官僚を「悪」、改革を「正義」と見る昨今の風潮から見ると、このような高橋氏の経歴はそのまま勧善懲悪と解釈されてしまうでしょう。元は「悪」の大蔵官僚だった人物が、小泉首相竹中大臣などの「正義」の改革派を助けて構造改革を推進したのですから、漫画や特撮、アニメで言えば、仮面ライダータイガーマスク、あるいはデビルマンのような話であると言えます。*2
このような勧善懲悪の話では、「悪」が大きければ大きいほど「正義」も際だつことになるので、官僚達の姿がひどいほど、話は痛快なものとなります。これが、僕が溜息をつかなかった理由でしょう。w
この本のタイトルも、そのような勧善懲悪の雰囲気を盛り上げようとして、付けられたのでしょう。


ただ、このような勧善懲悪の話は、高橋氏が主張する改革路線に賛同する者にとっては痛快でしょうが、そのような改革路線に疑問を持つ者にとっては危険な話として受け取られるでしょう。だから、この本については絶賛する人と反発する人が極端に現れるように思います。
僕は改革志向を持ったリフレ派であり、思想的には高橋氏と近い立場なので、この本の勧善懲悪は痛快でした。ただ、そうではない人も多いでしょうから、そのような人からの批判の声が今後は上がってくるのでしょう。


あとこれは蛇足ですが、このような勧善懲悪の話は漫画化に向いているのではないかと思いました。出版社が講談社ですから、弘兼憲史氏に漫画化してもらって週刊モーニングあたりで連載してもらうと、ちょうどはまるように思います。弘兼憲史氏にはサラリーマンや政治家を主人公にした漫画はありましたが、まだ官僚を主人公にした漫画はなかったと思うので、やってみると面白いかと思います。
かつて小泉政権を支持し、現在の福田政権や民主党の姿勢にうんざりしている人にとっては、そのような漫画は絶好のカタルシスとなるでしょうね。w

*1:リフレ派の間では「暗黒卿」のあだ名もつけられています。w

*2:だから今日の日記のタイトルをあのようにしたわけです。w