Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

韓国の「ActiveX依存症」

 世界で約20%のシェアを占め、マイクロソフトIEを脅かしているWebブラウザーMozilla Firefox 3」。2008年7月2日には「Firefox 3」がリリース後、24時間で800万2530件がダウンロードされ、ギネスブックに世界記録として正式に認定されたほど注目を浴びている。しかし、インターネットの普及率や生活の中に占める重要度では世界一ともいえるインターネット大国の韓国ではIEが99%でFirefox 3は 1%未満とまでいわれるほど全く普及しないでいる。


 2008年7月6日時点での「Firefox 3」のダウンロード件数を比べた資料があったが、アメリカ773万件、ドイツ246万件、日本134万件、イギリス120万件、中国72万件、インド42 万件、ベトナム20万件、フィリピン19万件、マレーシア16万件と続く中、韓国は14万8千件に過ぎなかった。(海外のWEBサイトにアクセスできない北朝鮮は当然のことながら0だった)。


 Firefox 3を使っていないからインターネット先進国ではない、ということにはならないが、世界的な傾向やITインフラから考えると、どうして韓国ではこんなにFirefox 3が使われないのか疑問を持たずにはいられない。


 しかし、その理由はとても単純、IEでないとWebサイトが表示されないからだ。韓国の電子政府、政府・行政サイト、インターネットバンキングをはじめほとんどのWebサイトがIE環境で動くように制作されているため、IEでは普通に見られるサイトがFirefox 3からアクセスすると「ページを表示できません」というエラーが登場するのだ。


 もっと問題なのはActiveX。韓国では簡単で便利であるという理由からセキュリティプログラムや音楽再生・動画再生ツール、ファイル添付ツールなど何でもかんでもActiveXでインストールさせるようにしてある。インターネットバンキングや音楽、動画サイトなんてActiveXをインストールしないと何にも表示されず利用できない。


 マイクロソフトさえもセキュリティの問題からActiveXを縮小しようとしているのに、韓国では依然とWebの標準技術でもなく、マイクロソフトの技術であるActiveX固執している。Firefox 3はActiveXを表示させないので韓国では利用できるサイトに限界がある。つまり韓国はWeb標準を守らずマイクロソフトに依存したWebサイトを作ってきたためにIE以外ではWebサイトを表示できなくなってしまった。


 この問題は既に何年も前から指摘されている。しかし韓国政府は電子政府や行政のサイトをWeb標準で作り直して、ユーザーが好きなブラウザーで利用できるようにすることよりも、マイクロソフトにこれからもActiveXを問題なく表示させることをお願いしている。恥ずかしいことだ。


 韓国でも「行政機関のサイトは国民の税金で作られたサイトなのにIEでしか利用できないなんて話にならない。国民は誰もが使いたいブラウザーで公共の財産を利用できる権利がある」と抗議している。


 大学教授を中心としたWeb標準化を要求する市民団体「オープンWEB」は、IEにしか対応していない行政サイトを制作したのは公正取引違反に当たるとして訴訟を起こしている。しかし、韓国の公正取引委員会IEにだけ、適しているWebサイトを運営しているからといって消費者の選択権を制限する行為が消費者の利益阻害につながることではないとして、公正取引違反を認めなかった。


 日本でもまだメジャーではないFirefox 3だが、いろいろなサイトがFirefox 3からも利用できるようにWebページを制作している。Firefox 3をどれぐらい使っているかよりも、ブラウザーに関係なく利用できるサイトがどれぐらいあるのか、WEBサイトはブラウザーに関係なく利用できて当たり前と思うこと自体がインターネット先進国らしい考え方なのではないだろうか。

趙 章恩「Korea on the Web」 - 韓国ではFirefox 3が使い物にならない理由:ITpro



マイクロソフトActiveXは、IEに機能を追加する技術としては広く利用されていますが、MSの独自技術でクロスプラットフォーム性に欠けることや、ActiveXが登場したときからセキュリティ問題が指摘され続けていることから、日本や欧米ではWebサイトを拡張する技術としてはほとんど利用されていません。これらの国ではJavaJavaScript、それにPerl, Ruby, Pythonといったオープンソース系のスクリプト言語が標準的に使用されています。
しかし韓国では、一般的に使われるWebサイトのほとんどでActiveXが使われているため、WindowsIE以外のOSやブラウザの利用が実質的に困難な状況となってしまっています。*1


このことは韓国でFireFox, Opera, Safari, MacOS X, Linux, FreeBSDなどが利用できないというだけではなく、WindowsユーザーがVistaに移行する際の障害ともなっているようです。

 2008年6月30日でWinsowsXPの販売が終わるというニュースは韓国にとって「え、また!」というぐらい動揺を抑えきれないニュースとなった。Windows 98のパッチ提供終了のせいで電子政府システムを利用できなくなったり、Vistaの登場でオンラインバンキングやまたまた電子政府システムを利用できなくなって大騒ぎしたのが1年ほど前だった。その時からMS依存度が高すぎる、なんとかオープンソースに切り替えようと話は持ち上がるものの、いまだに政府や企業の重要なシステムはWindowsIEを基準に製作されている。


 日本もそうだが、韓国もセキュリティや専門性の問題から社内専用ソフトを利用する企業が多い。しかしVista環境ではそもそもそれらの専用ソフトが動かないとか、パソコンのシステム要求仕様が高すぎるため、使用中のパソコンにインストールすると動作が遅すぎて仕事にならないといった問題があることから、今でもXPを使っているところは多い。


 最も問題なのは行政機関がMSに依存しすぎていることだ。韓国政府は電子政府システムを始め、316の地方自治体の2145システムを対象にVistaとの互換性を点検している。「尻に火が付いた」状態だ。


 しかも、政府の公共調達のパソコン規格は2008年9月までXPになっている。7月から3カ月間、調達に参加しているパソコンメーカーはMSのせいで、規格を満たせないために発生する罰金を払いながらVista搭載パソコンを納品するしかない。組み立てパソコンは2009年1月までXPを搭載できるが、MSと直接契約してOEMWindowsを搭載している大手パソコンメーカーは7月からVistaを搭載せねばならず、調達規格を満たせないことになってしまうからだ。MSは相手がどんな反応をしようが結局はMSの言いなりになるしかないと、市場支配力を悪用している面もある。

趙 章恩「Korea on the Web」 - Windows XP販売終了でまたもや国を挙げて大さわぎ:ITpro


 1月31日に韓国でも「Windows Vista」が発売され、当日には大々的な広報イベントが行われた。各PCメーカーでは1月下旬からVista搭載PCの予約販売を開始したほか、新聞やインターネットでも話題として取り上げられていたので、認知度は販売前からかなり高かった。


 しかし韓国におけるVista販売には、さまざまな障害があるのも確かだ。大きく「価格問題」「ActiveX問題」に分類される。


高い価格に抗議


 「Vistaの価格調整をお願いします!」。ネチズンがインターネット上で意見を述べ署名を集められる空間、ポータルサイト「Daum」内の掲示板「アゴラ」でこのような署名運動が展開された。


 アゴラで価格調整を叫んだネチズンたちによると、韓国版Vistaの価格は他国より高価なのだという。それは本当なのか、実際に韓国と米国のMicrosoftのサイトに掲載もしくはリンクされている価格を比べてみた。


 Windows Vista Ultimateのアップグレード版を例にとってみると、米国では最低価格が249米ドル(約2万9700円。1ドル=119.3円で換算)であるのに対し、韓国では「特別供給価格」として割引販売されているものが35万4000ウォン(約4万5000円。1ウォン=0.127円で換算)。確かに高価で、これはその他の製品でも同様だった。


 これに対して韓国マイクロソフトでは、各国でOS市場の構造が異なるので、単純に価格を比較するというのは無理がある、という立場をとっている。


 とくに小売店で販売される製品に関しては、韓国マイクロソフトが供給価格を米国と同水準の価格に設定しても、これがさまざまな仲介業者を介して流通するとともに価格が上乗せされていくという説明だ。


 しかしそんな隙間を狙い、手頃な価格の海賊版が出てくる。Vista販売とともに出回った海賊版はいまやインターネット上でも入手可能となっており、市販価格の高さと連動した問題となっている。


ActiveX多用の結果・・・


 韓国政府の情報通信部はVista販売前の23日、「Vista購入前はよく確認を」と文書による呼びかけを行った。


 セキュリティが強化されたVistaでは、ActiveXを採用したウェブサイトを表示する際、不具合が生じる可能性が大変高いからだ。困ったことに韓国にはActiveXを多用しているウェブサイトが大変多い。とくにインターネットバンキングなどの金融系や、ウェブサイト上での身分証明書発行など電子政府関連のWebサイトはその傾向が顕著で、ActiveXをインストールしなければ取り引きがままならない、ということも結構あるのだ。


 情報通信部は韓国マイクロソフトおよび韓国情報保護振興院、金融保安研究院、韓国情報社会振興院、ソリューション企業などと共同で、分野別にVista用のソースコード修正作業に追われた。このほかポータルサイトやショッピングモールなど、その他のウェブサイトでも同様だ。


 情報通信部では4月末までには政府の電算システムに対する処置を完了すると発表している。同時にウェブサイトには「Window Vista 使用案内」を掲示するなどして広報活動にも努める予定だという。


マイクロソフト一極集中


 こうした騒動から見えてくる大きな問題は、マイクロソフト一極集中だ。たとえば韓国のウェブサイトを表示する際、その大部分はInternet Explorerにしか対応していない。まず政府のウェブサイト自体がそうであり、もし他のブラウザを利用すれば会員登録などの手続きに支障が出ることもある。そのためユーザーは、他社のブラウザを使いたくともIEを使うより他ないのである。


 OSやブラウザ、そしてそれに関する技術までマイクロソフト製で固めてしまった結果このようなことが起きてしまった。別の側面から見れば、韓国はマイクロソフトが市場を独占しやすい所なのだ。そうした状態が目立ちすぎたあまりか、Windows OSへWindows Media Playerなどをバンドルする行為に対して韓国公正取引委員会から制裁を受けるなど、過去にマイクロソフトはさまざまな規制も受けている。しかしそれでも韓国ではやはりマイクロソフトへの依存度が大変高いという堂々巡りの状態だ。


 Vistaへの技術的対応はいずれ解決することではある。技術対応と同じくらい大事なことはむしろ、政府がマイクロソフト以外の選択肢も十分あることに目を向けることではないだろうか。

韓国版Windows Vistaをめぐる騒動を振り返る - CNET Japan



このようなActiveX依存の構造はマイクロソフトとの軋轢を生んでいるようで、上の記事に書かれていたVistaの価格問題や、韓国公正取引委員会マイクロソフトの対立も、その現れなのでしょう。
しかも今やマイクロソフト自身がActiveXのセキュリティ問題改善へと動き出しているため、IE7Vistaの導入が、韓国では他の国とは比べものにならないくらい重大な問題となってしまっています。他の国では「Vistaは重い」程度の問題で済むのに対し、韓国では「Vistaは使えない」という結果になってしまいますから。


考えてみれば、僕が7/11の記事で指摘したような問題が解決されて、韓国でiPhoneが発売されたとしても、iPhoneActiveXに対応しませんから、依然として韓国でiPhoneは使えない携帯電話になってしまうのでしょうね。
このようにActiveX依存から抜け出せなくなってしまった韓国のWebは、世界とは孤立した独自の生態系を築いていると言う意味で、「ガラパゴス化」していると言っても良いのでしょう。
韓国がActiveX依存から抜け出して、世界の他の国と同様にクロスプラットフォームを実現する日は来るのでしょうか?もしそれができないと、韓国はオープンソースの恩恵をほとんど受けられず、世界から技術的に置いてきぼりを食らうことになってしまうのでしょうね。

*1:僕も韓国銀行のサイトを見ようとして、ActiveXインストールを求められたことに嫌気が差して、やめてしまったことがありました。