Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

「経済巨編 死闘!! 地底人対最底人!」w

カエルの面に小便という言葉があるが、あらゆる経済学者から小便や大便をかけられても、同じようなバラマキ政策を主張するリチャード・クー氏の脳は、両生類以下なのだろうか。しかし朝日新聞(23日4面)によると、彼が「麻生太郎氏の経済政策の理論的支柱」だというから驚いた。クー氏は、日本の90年代を「失われた10年」ではなく、バラマキ政策の成功した「輝ける10年」としてこう評価するのだ:

お金を使うのが大好きな自民党が与党だったおかげで、お金を使った結果、財政赤字に陥ったが、もし国が借金してでもお金を使わずにいたら日本のGDPは今よりはるかに低く、失業者は何倍も多くなった。



この論理は、いしいひさいちの「地底人と最底人」という漫画に似ている。地底にはあほな地底人が住んでいるが、その下にはさらにあほな最底人が住んでいるのだ。クー氏が言っているのは、「わしは博打で100兆円負けたあほな地底人やけど、もっとあほな最底人やったら200兆円負けたかもしれんやんけ〜」という話だ。


もう少しまじめにいうと、今のようなインフレ状態で彼のいうようなバラマキをやったら、物価上昇率は10%を超えるだろう。これによって実質賃金は10%下がるので雇用は増え、借金も実質ベースで減るから中小企業は助かる。しかし人類は地底人ほどあほじゃないから、労組はインフレを織り込んで10%以上の賃上げを要求し、金利も20%ぐらいになるだろう(自然失業率理論)。さらに開放経済では、金利が上がると資本流入が起きて円が上がり、輸出が減るので、最終的にはGDPは最初の水準に戻り、インフレだけが残る(マンデル=フレミング理論)。ついでにいえば、労組に入っていないフリーターは賃上げできないので、格差は拡大するだろう。


こういう理論は、30年前から世界の経済学の通説で、実証的にも検証されたものだ。したがって80年代以降、財政で「景気対策」なんかやる先進国はない。この程度のことは(地底人には理解できないようだが)どんな初歩的な教科書(たとえば『中谷マクロ』)にも書いてある。麻生氏は教科書を読む時間はないだろうが、せめてこのブログにたくさんアクセスしてくる衆議院の秘書(?)に知ってほしいのは、地底人の話なんか真に受ける政治家は最底人だということだ。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d6851a59d45ba3a4ef801bece3f5233d



実は僕は子供の頃からのいしいひさいちファンで、この「地底人対最底人」の話もずっと前から知ってました。w


池田氏の主張は、自然失業率理論に基づく部分と、マンデル=フレミング理論に基づく部分に分けられます。後半のマンデル=フレミング理論に基づく部分は僕も正しいと思いますが、前半の自然失業率理論に基づく部分は間違っていると思います。

 では、具体的に、日本のフィリップス・カーブの形状をみることにする。





 これをみる限り、インフレ率と完全失業率のプロットは、非線形の形状を示している。また、驚くべきことに、1970年代半ば以降、フィリップス・カーブは非常に安定しており、構造変化は生じていないようにみえる。

NAIRUの推計−結果は3.62〜3.76% - ラスカルの備忘録



以前、ラスカル(id:kuma_asset)さんが日本のNAURU(インフレを加速させない失業率)を計算した記事で日本のフィリップスカーブを紹介してますが、これを見ると、池田氏の言うような10%を超えるインフレ率が発生するためには、失業率が2%以下である必要があることが分かります。ちなみに、総務省統計局ホームページによると、平成20年6月の完全失業率は4.1%です。
一方、日本が「バラマキ」をやった一番最近の例としては、小渕政権時代の財政出動が上げられますが、この時代(1998年中頃〜2000年初め)の失業率は、1998年4.1%、1999年4.7%、2000年4.7%でした。従って、小渕政権の財政政策は、失業率の増大を押さえる効果しかなかったことになります。(当時の状況を考えれば、それでも十分効果があったと評価すべきでしょうが)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/3080.gif
(社会実情データ図鑑の「図録▽失業率の推移(日本と主要国)」より)



何故そうなったかと言えば、池田氏も指摘しているとおり、マンデル=フレミング理論に基づく円高によって輸出が減ったためでしょう。当時の円・ドル相場を見ると、小渕政権の始まりとともに急速な円高が始まり、小渕首相が倒れた頃に円高が終わったことが分かります。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/5070.gif
(社会実情データ図鑑の「図録▽円の対ドル・対ユーロ為替レートの推移」より)



当時大きく喧伝された小渕政権の財政出動ですらこの程度の効果ですから、再び「バラマキ」政策が行われたとしても、失業率が2%以下になる可能性はまずないでしょう。従って、池田氏の言うような10%を超えるインフレは、「バラマキ」政策ではまず起こりえないことになります。


池田氏が取り上げた「地底人対最底人」は、最底人が頭上の地底人に向かって「あほーおっ!」と叫んで「攻撃」し、一方的に「勝利」したとみなしてバンザイを叫ぶというオチでした。このような穴だらけの理屈でクー氏を攻撃し、一方的に勝ったと考えている池田氏こそ、実は「最底人」なのではないかと思うのは、僕だけなのでしょうか?w