Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

民主主義を否定する市民運動?

民主主義のための市民同盟(PAD)〉
 タクシン元首相に私怨を持つとされる実業家のソンティ氏が2005年に設立。タクシン氏の王室への不敬、汚職疑惑などを追及し、2006年春には数万人規模の街頭デモをバンコクで連続開催、政治機能を麻ひさせ、2006年9月のクーデターを呼び込んだ。2007年末の総選挙でタクシン派のサマック政権が発足すると活動を再開。バンコクの首相府やプーケットなどの地方空港を占拠し、政府に退陣を迫っている。
 PADの背後には、タクシン政権時代に利権を失った旧権力層や財閥がいるとみられる。「民主主義のため」と名乗るものの、今後の政体として、下院議員の 7割を任命制、3割を公選制にするよう提案するなど、その主張は、プレム政権時代(1980―1988年)の「半分の民主主義」システムに近い。プレム氏 (元陸軍司令官)は首相退任後、タイ国王側近の枢密院議長となり、タクシン派に2006年クーデターの黒幕と目されている。PAD指導者の1人のジャムロン元バンコク都知事はプレム政権時代に首相秘書を務めた。PADが今回、バンコクの首相府や国営テレビ局を襲撃・占拠したのは、プレム氏の88歳の誕生日に当たる8月26日だった。

http://www.newsclip.be/news/2008901_020288.html



前回のエントリーを書いてから、タイの政局について色々調べているのですが、現在サマック政権に反対してデモや占拠を行っている「民主主義のための市民同盟(PAD)」の主張にはびっくりしました。
「民主主義のための」と名乗りながら、国民が議員を選ぶ普通選挙を否定しようとしているのですから。いくら選挙でタクシン派に勝てないとは言っても、それは言っちゃいけないでしょう。


まあ、タクシン派も汚職やマスコミへの介入、選挙違反などいろいろ疑惑はあるのですが、その一方でアジア通貨危機後の経済立て直しや農村の活性化など、功の部分も大きいようですね。その経済立て直しの過程で利権を奪われたタクシン以前の旧支配層がPADや野党民主党の支持基盤のようです。そして農村活性化の成功で恩恵を受けた農村部、特に貧しい北部や東北部がタクシン派の支持基盤で、この支持基盤があったからこそ、2006年の軍事クーデターでタクシンが失脚した後も、タクシン派がサマック政権として復活できたのでしょう。PADもそれが分かっているからこそ、普通選挙を否定しようとしているのでしょうね。


こういう背景事情を押さえておくと、今タイで起こっている騒乱の見方も変わってきますね。これじゃ、国王や軍も、大っぴらにはPADを支持できないはずです。国民の大多数の支持を失うには行きませんから。


ただ、選挙で選ばれた政権がまともな政策をして支持を得ているというのは、その政権に多少疑惑があるとしても、真っ当な民主主義の姿だと思います。今回のPADの行動が国民から見放され、民主党が民主的な方法で政権を狙う真っ当な野党としての路線に変更すれば、タイの民主主義は着実に根付いていくでしょう。
だから今回の騒乱は、タイに民主主義が定着する生みの苦しみだと思います。