Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

なぜ麻生総理は軽蔑されたのか

http://www.asahi.com/politics/update/1207/TKY200812070149.html
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20081207-OYT1T00561.htm
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081208k0000m010073000c.html


新聞各社の世論調査で、麻生政権への支持率が急落し、20%近くまで落ち込んだことが報じられています。
その背景としては、経済・景気対策での迷走や閣内不統一、そして首相の問題発言や失言などが指摘されています。


ただ、どうもこれらの麻生批判報道を見ていると、その背後に麻生総理への軽蔑があるように思います。漢字の読み間違いを巡る報道などは、その最たるものでしょう。なぜ麻生総理はこれほどまでに軽蔑されてしまったのでしょうか。


かつて、2007年に自民党参院選で敗北を喫したときのエントリーで、僕はマキャヴェッリのこんな言葉を紹介しました。

 君主にとって最大の悪徳は、憎しみを買うことと軽蔑されることである。
 それゆえに、もしもこの悪徳さえ避けることができれば、君主の任務は、相当な程度にまっとうできるであろうし、他に悪評が立とうと、なんら怖れる必要はなくなる。
 憎悪は、国民のもちものに手を出したときに生ずるのだから、それをしなければ避けるのはやさしい。
 古今東西、人間というものは、自分自身のもちものと名誉さえ奪われなければ、意外と不満なく生きてきたのである。
 一方、軽蔑は、君主の気が変わりやすく、軽薄で、女性的で、小心者で、決断力に欠ける場合に、国民の心中に芽生えてくる。
 それゆえ、君主たる者、航行中の船が暗礁に注意するのと同じ気持で、右に記したような印象を与えないよう注意すべきである。
 そして、自分の行うことが、偉大であり勇敢であり、真剣で確固とした意志にもとづいていると見えるよう、務めなければならないのだ。


−『君主論』−


マキャヴェッリ語録」第一章 君主編(89ページ)より

マキアヴェッリ語録 (新潮文庫)

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マキャヴェッリの言葉から - Baatarismの溜息通信



この「一方、軽蔑は、君主の気が変わりやすく、軽薄で、女性的で、小心者で、決断力に欠ける場合に、国民の心中に芽生えてくる。」というのが、今回の麻生総理には当てはまってしまったのだと思います。経済・景気対策での迷走や総理の失言、そして民主党やマスコミへの挑発的な発言などが、そのような印象を与えてしまったのでしょう。
ただ、一つ疑問なのは、麻生氏が総理になる前は、なぜこのような印象がなかったのでしょうか?元々失言の多さでは有名で、マスコミへの挑発的な発言も目立ち、政治的には「おっちょこちょい」な面*1も目立ったというのに。


そんな疑問を抱いて麻生氏のこれまでの経歴を思い出してみて気づいたのは、かつての麻生氏には「日本の底力」「とてつもない日本」「自由と繁栄の弧」といった、骨太なキャッチフレーズがあったことです。これらのキャッチフレーズは、どれもこれまでの日本の歩みをそのまま肯定し*2、長期不況で自信を失った日本人を元気づけようとするものであったということです。いわゆる「オタク政治家、マンガ政治家」としてのイメージも、マンガやオタク文化を日本の誇るべき文化であると肯定したために、国民から受け入れられたのでしょう。
そのような麻生氏の姿勢が、総理就任までの国民的人気の根幹であったと思います。そのような姿勢があったため、麻生氏の様々な欠点もあまり問題視されなかったのでしょう。


しかし、総理就任後はそのようなキャッチフレーズを大きく打ち出すこともなく、民主党やマスコミへの批判ばかりが目立ってしまった印象があります。その結果、かつてのような骨太で男性的なイメージを失い、「君主の気が変わりやすく、軽薄で、女性的で、小心者で、決断力に欠ける」イメージを国民に与えてしまい、軽蔑されるようになってしまったのだと思います。そして一度軽蔑されるようになると、マスコミが安心して攻撃するようになり、支持率も急減してしまったのでしょう。
麻生総理は総理就任に舞い上がってしまい、なぜ自分に人気があったのか忘れてしまったのでしょうか?


もし、麻生総理が就任直後に骨太なキャッチフレーズを打ち出して、小泉総理の「構造改革」のように定着させることに成功していたならば、迷走や失言も打ち消して、国民の支持を得ることに成功していたのかもしれませんね。*3


「チャンスの女神に後ろ髪はない」と言われますが、麻生総理からチャンスの女神は去ってしまったのでしょうか?以前、麻生氏に期待していた一人として、残念に思います。

*1:これについてはかみぽこさん(http://plaza.rakuten.co.jp/kingofartscentre/)がよく指摘してますね。

*2:保守的なイメージの政治家ではあっても、「保守論壇」のように歴史をねじ曲げて肯定するのではありませんでした。

*3:ワンフレーズ・ポリティックスは問題も多いですが、国民の支持を得るためには効果的ですから。