量的緩和を拒否する日銀
日銀は12月18、19日に開催した金融政策決定会合で、以下のような各種金融緩和措置を決定した。
日銀0.2%利下げ JBpress(日本ビジネスプレス):景気スピード診断(筆者:上野 泰也)
16日の米FOMC声明文のように、市場で観測が出ていた措置をほとんど盛り込んだ、「全部入り」に近い内容。ただし、米国と異なり、流動性供給を強化する「量的緩和」の姿勢を前面に出すことは見送られた。年明け後に株安・円高が加速するリスクが引き続き潜在している中で、日銀としてカードを温存した面があると、筆者はみている。
(1)【0.2%追加利下げ=翌日物誘導水準を年0.1%に引き下げ】
(賛成7・反対1。反対票は野田委員)
「無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を0.2%引き下げ、0.1%前後で推移するよう促す(公表後直ちに実施)」
(2)【ロンバート金利を0.2%引き下げ=年0.3%に】
(全員一致)
「補完貸付については、その適用金利である基準貸付利率を0.2%引き下げ、0.3%とする(公表後直ちに実施)」
(3)【超過準備付利金利は年0.1%のまま据置】
(賛成7・反対1.反対票は水野委員)
「補完当座預金制度の適用利率については、0.1%とする(公表後直ちに実施)」
(4)【金融調節手段の追加措置】
(全員一致)
(A)長期国債買い切りオペの増額と購入対象拡大
・月当たり2000億円増額して、月1兆4000億円ペースとする。
・購入対象に、30年債・変動利付債・物価連動債を追加。
・残存期間別買い入れ方式(残存1年以下、1年超10年以下、10年超)を導入へ。実務的検討を指示。
(B)企業金融の円滑化措置
・企業金融支援特別オペの基本要領などを決定、同オペのオファーを1月8日より開始。
・CP買い切りオペを導入(時限措置)。企業金融関連のその他金融商品について、対応検討を指示。
・CP現先オペの対象先に、政策投資銀行(政府方針でCP買い入れ業務を開始予定)を追加する。
すでに報じられているとおり、日銀は12月18、19日に開催した金融政策決定会合で、金融緩和措置を発表しました。FRBの度重なる金融緩和によって生じた円高で、音を上げた政府や財界の圧力に抗しきれなくなった結果なのでしょうが、金融緩和措置が行われたことは評価すべきでしょう。
しかし、日本のマスコミで報道されているように、これを「量的緩和」と考えて良いかどうかは、疑問があるようです。
白川日銀総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で、このような説明をしています。
[東京 19日 ロイター] 白川方明日銀総裁は19日、金融政策決定会合後の記者会見で、0.1%への利下げを決定したことについて、足元の経済状況の変化が非常に急激であったことから今回、景気刺激効果も狙って決定したものだと説明した。
今回はかつてのような量的緩和を採用したものではない=日銀総裁 | Reuters
ただし、今回の措置はかつて取った量的緩和政策とは異なり、ベースマネーの拡張により景気刺激を狙うという考え方の政策委員はいなかったと述べた。また、0.1%という金利設定は景気刺激効果とともに市場機能の維持も考慮して決めたとしたが、この金利水準では一部で市場機能の低下が起こるかもしれないとも述べた。長期国債の買い入れ増額については、今後の増額は当面、考えていないとした。
量的緩和というのは、ベースマネーの量をコントロールすることでマネーストックを増やして金融を緩和させる手法ですから、「ベースマネーの拡張により景気刺激を狙うという考え方の政策委員はいなかった」ということは、日銀の審議委員は誰も量的緩和を意図していないということになります。
だから「日銀が量的緩和を実施した」と報じているニュースは全て間違いだということになります。w
最初に挙げた記事を書いた上野泰也氏も、それに続く解説で次のように述べています。
今回の決定(上記(1)〜(3))で、日銀が形成する翌日物金利の変動範囲(コリドー)は、利下げ前の0.1〜0.5%から、0.1〜0.3%へと狭まった。しかも、翌日物金利の誘導水準と超過準備付利金利が同じ0.1%になったことからすれば、市場機能が発揮されるのは、物理的に翌日物金利の上昇方向のみという、非常にいびつな形態となった。市場機能の維持に白川日銀がこだわり続けている結果として、このように窮屈なコリドー形成になってしまったものと理解される。
日銀0.2%利下げ JBpress(日本ビジネスプレス):景気スピード診断(筆者:上野 泰也)
一方、筆者にとっては意外なことに、流動性供給の一層の強化(=量的緩和)を前面に出すことがないまま、長期国債買い切りオペの増額がアナウンスされることになった。米国のクーポンパスのように、残存期間別のオペを導入するということからすれば、市場における国債需給(=長期金利の変動)に対して日銀ができるだけ中立でありたいという姿勢が、引き続きとられているということになるのだろう。
つまり、従来の資金供給姿勢の延長線上で、オペ手段の拡充として、今回の買い切り増額が決まったという建て付けである。長期金利の低下をかなりの程度期待していると推測される、米FOMC声明文で検討が公式に表明された長期国債の購入増額案とは、日銀は今のところは一線を画していると言えよう。
ところが、需給環境の悪さゆえに市場の側に強い要望があった、変動利付債や物価連動債の買い切りオペ対象への追加を、日銀はこのタイミングで行っている。これら債券の需給環境については、政府が行っている買入消却に上乗せする形で日銀も積極的に関与していこうとする姿勢があるようにも読めてしまう。
企業金融支援措置については、意外感はない。会合直前に観測報道が出ていたCP買い切りオペ導入(個別企業の信用リスクを取り込むことへの日銀の慎重姿勢を反映して、やはり臨時措置という位置付け)や、政投銀のCP現先オペ対象先への追加が決まった。また、おそらく資産担保証券買入れの復活検討に近い話として、「企業金融に係るその他の金融商品についても対応を検討」することになった。
このように、日銀は10月末に続いて、ないそでを無理やり振るかのように、金融緩和措置をひねり出すことになった。しかし、言うまでもなく、その景気刺激効果はほとんど期待できず、企業金融支援措置についても、いわば「守り」の措置という性格のものである。
このように、米FRBが金融緩和を目的の一つとして、金利引き下げや様々な金融資産の買い取りを行っているのに対して、日銀は金融機関や企業に資金を供給することだけを目的として、金利引き下げや金融資産の買い取りを行っていると考えられると思います。だからFRBの政策は非常に大胆なものになるのに対して、日銀の政策はしぶしぶとした消極的なものになってしまうのでしょう。
この日米の金融政策の違いは景気や為替相場に現れるでしょうから、今後はドル安で景気が下げ止まるアメリカに対して、円高で景気悪化に歯止めが掛からない日本という、対称的な姿になっていくのでしょう。
日本人は、いつになったら不況の最大の犯人が日銀だと言うことに気づくのでしょうか?