Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

今年、日本がデフレにならない可能性を探ってみる

●かんべえの不規則発言


2009年1月 


○本日発行の週刊ダイヤモンドの特集は「デフレ再来」、週刊エコノミストの特集が「デフレ深刻」。経済雑誌の見出しが重なることはけっしてめずらしくはありませんが、これはちょっと安直な企画ですな。まるで「デフレ」という言葉がインフレしているようであります。


○ウチの近所のスーパー内にある小さな「マクドナルド」店舗が、このところ行列ができる盛況振りになっている。家族連れ客が多いようなので、別段、「クォーターパウンダー」に惹かれているわけでもなく、やはり「安さ」が客を呼んでいるのでしょう。社内で聞いたところでは、衣料関係では「ユニクロ」が快調であるらしい。何のことはない、1998〜99年頃に快調だった「デフレ対応企業」が復活している。さて、「吉野家」はどうなんだろう。


○おそらく世界中で日本だけが、企業も消費者も「デフレ慣れ」している。それがいいことか、悪いことかは微妙なところですが。とはいえ、これだけ多くの人が「さあ、デフレだ」と構えているということは、かえって逆の可能性も気をつけた方がよさそうだ。資源関係の人たちからは、ほとんど悲鳴のような話ばかりが聞こえてきますけど、「こんなに急激に在庫を絞っていいのか」てな声もチラホラ。「デカップリング論の逆襲」なんてサプライズシナリオがあるかもしれませんぞ。

かんべえの不規則発言



かんべえさんは全体的な物価の下落である「デフレ」と、個別の商品の物価の下落を混同している節もあるようですが、ただ、ここまでデフレデフレと言われると、その逆の可能性を探ってみたくなる気持ちは分かります。
そこで、僕も今年の日本がデフレにならない可能性を考えてみたいと思います。


ただ、アメリカ発の金融恐慌で世界的に需要が激減しているのは事実なので、世界のどの国でも、中央銀行が何もしなければデフレになるのは明らかでしょう。*1
従って、日本がデフレにならない可能性を探ると言うことは、日銀がデフレ阻止の行動を取る可能性を探ると言うことになります。
ただ、高橋洋一氏が指摘するように、日銀には利上げ(金融引き締め)を勝ち、利下げ(金融緩和)を負けとする文化が染みついてますので、日銀が自分から金融緩和に動く可能性は無視して良いと思います。従って、日銀が外部から金融緩和を強いられる可能性を考えてみたいと思います。


そこで注目すべきなのがアメリカの動向です。オバマ次期政権はアメリカの景気立て直しのため、就任直後から大規模な財政支出を行う意向です。財政赤字は1兆ドル規模になるそうです。

 【ワシントン=西崎香】オバマ米次期大統領は6日、景気対策や財政方針などを詰める経済政策チームと会議を開き、景気悪化を背景に過去最高を更新中の財政赤字について「今後数年間は1兆ドル(約92兆円)規模が続く可能性がある」との見通しを明らかにした。

 20日に発足するオバマ次期政権は8千億ドル(約74兆円)近い景気刺激策を検討中。財政赤字への対策として、無駄な歳出を防ぐ省庁横断的な「監視委員会」を政府内に発足させる計画も打ち出した。

 財政赤字は前年度(08年9月までの1年間)は過去最悪の4548億ドルに急増し、米国内総生産の3.2%に達した。不況で税収が落ち込む一方、景気や金融危機への対策などで歳出が膨らんでいる。オバマ氏は、今年度の赤字について「1兆ドルが視野に入っている」と指摘し、財政改革が「絶対必要だ」と強調した。

http://www.asahi.com/international/update/0107/TKY200901070035.html



しかし、財政支出を行うだけでは、マンデル・フレミングの法則によりドル高となり、アメリカのデフレがひどくなってしまいます。そこで、FRBはこの財政支出に見合う分の国債やCPを市場から買い取って、マネーの量を減らさないようにするでしょう。
一方、アメリカがこのような非伝統的な金融政策を実施すると、円ドルレートは再び円高になるでしょう。そうなると輸出企業は存亡の危機に立たされるので、財界や政府はなりふり構わず、日銀に対してアメリカと同規模の非伝統的な金融政策を実施するよう迫るでしょう。
考えてみれば、昨年12月に日銀が金融緩和に踏み切った背景にも、急速な円高がありました。今後はFRBが金融緩和を行い続ける限り、日本は恒常的な円高圧力に晒され、日銀は金融緩和、具体的にはFRBと同様の国債やCPの買い取りを求められることになります。
その結果、日本はアメリカに「おつきあい」する形でデフレから脱却することになります。これをFRBから日銀への「外圧」と考えることもできるでしょう。ただし、この「外圧」は外交によるものではなく、為替市場を通じて日本にかかってくるものですが。
今年の日本がデフレに陥らないとすれば、このような形を取る可能性が高いと思います。


考えてみれば、独立した金融政策、通貨レートの安定、自由な資本移動はトリレンマの関係にあります。日本が自由な資本移動を捨てる可能性はまずありませんので、輸出企業が求める通貨レートの安定を維持するのであれば、日銀に独立した金融政策をあきらめてもらうしかないわけです。政治力を考えれば、輸出企業>日銀でしょうから、輸出企業が政治的に日銀をねじ伏せる可能性が高いのでしょう。


とは言え、この推測もいくつかの仮定に基づいたものです。オバマ政権が大規模な財政支出をできない可能性、FRBが大規模な金融緩和をできない可能性、日銀が輸出企業の圧力に抗して金融緩和を拒否する可能性もあるでしょう。その場合は、多くの人が予想しているとおり、日本はデフレから抜け出せなくなるのでしょうね。

*1:ここで、中央銀行が極端にやりすぎた例がジンバブエですが。w