Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

もし2兆円を地方に回したら…

 為政者が確乎たる主義・信念に基づいた政策によって政治を動かさぬ限り国家国民は崩壊の危機を免れない。私は政治生命を賭して麻生総理に提言する。


1.衆議院を早期に解散すべきである。総選挙後すみやかに危機管理内閣を立ち上げるべきである。

2.定額給付金を撤回し、2兆円を地方による緊急弱者対策に振り向けるなど、2次補正予算案の修正を国会において行なうべきである。

3.今国会における内閣人事局関連法案の中に、任用・給与制度改革法を入れること。給与法改正を行い、国家公務員人件費を来年度よりカット(目標2割)すべきである。

4.各省による天下り斡旋の総理による承認と、渡り斡旋を容認した政令等を撤回すべきである。雇用能力開発機構を統合する閣議決定を撤回し、福田内閣当時の廃止・解体・整理の方針にそって決定し直すべきである。

5.国家戦略スタッフを官邸に配し、経済危機対応特別予算勘定を創設し、その企画立案にあたらせる。政府紙幣を発行し財源とする。

6.平成復興銀行を創設し倒産隔離と産業再生を行なう。同行において上場株式の市場買取を行い、塩漬け金庫株とする。財源は政府紙幣とする。

7.社会保障個人口座を創設し、国民本位の仕組みを作る。年金・医療・介護のお好みメニュー方式を導入し、納税者番号とセットで低所得者層への給付付き税額控除制度を作る。


以上の提言が速やかかつ真摯に検討及び審議されない場合、私は政治家としての義命により自由民主党を離党する。


衆議院議員 渡辺喜美

http://www.nasu-net.or.jp/~yoshimi/2009/090105monomousu.html



これは渡辺喜美議員が自民党離党前に麻生総理に対して出した「7つの提言」ですが、この中に、「定額給付金を撤回し、2兆円を地方による緊急弱者対策に振り向けるなど、2次補正予算案の修正を国会において行なうべきである。」という項目があります。
これまでの議論を見ると、「定額給付金を撤回せよ」という意見の中で最も有力な対案は、この提言のような「地方に使い方を任せよ」というものだと思います。
しかし、地方に使い方を任せると、本当に雇用や福祉と言った弱者対策にお金が回るのでしょうか?


そこで地方財政について考えてみると、小泉政権時代の「三位一体の改革」が、結局国から地方へ配分する予算の削減(財源委譲よりも補助金地方交付税の削減の方が大きかった)になってしまった結果、地方財政は苦しさを増しています。また、2007年には夕張市財政再建団体に指定され、その窮状ぶりは全国に知られるようになりました。今回の大不況で地方税収も大幅に落ち込むことが予想されますから、どの自治体も夕張市の二の舞だけは避けたいと思っているでしょう。


そんな地方自治体に2兆円の使い方が任されるとどうなるでしょうか?おそらく、ほとんどの自治体は弱者対策ではなく、債務の返済に回してしまうのではないかと思います。どの自治体も夕張市のような窮状に陥る前に、できるだけ債務を減らしたいと考えるのが本音でしょう。


また、今はブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が急上昇してマイナス2〜3%となっています。*1BEIは期待インフレ率を表す代表的な指標ですから、名目金利がほとんどゼロでも実質金利は2〜3%へと急上昇してることになります。自治体の財政を単独で考えれば、家計や企業と同様、実質金利が高いときは債務返済を進めることが合理的ですから、経済学的に考えても、自治体はできるだけ債務を減らす行動に出ることになります。


自治体がこのような行動に出た場合、もし市場に出回っている地方債を償還するのであれば、結果として「埋蔵金」で地方債を償還することになり、市場金利の低下を通じて景気の下支えに貢献することになります。しかし、政府や日銀が持っている地方債を償還した場合は、景気に何の影響もなく、「埋蔵金」がまるまる無駄になります。*2
ただ、そのような細かい点は、誰かが指摘しないと明らかにはならないのでしょうね。


というわけで、地方に使い方を任せても、自治体の債務削減に回ってしまう可能性が大きいと思うのですが、渡辺議員のように「地方による緊急弱者対策に振り向けよ」と主張している人は、ここまで考えているのでしょうか?

*1:http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/bukkarendou/bei.pdf

*2:2007年に「埋蔵金」で日銀や財政融資資金が保有する国債を償還した際、高橋洋一氏や中川秀直議員は、これを「埋蔵金の埋め戻し」と批判しました。