Dan Kogai氏の指摘についてこっちも調べてみた
2月3日の僕のエントリーを、著名なブロガーであるDan Kogai(小飼 弾)氏に取り上げていただきました。ありがとうございます。
それでは日銀が常に頑なだったのだろうか。
政府紙幣について - Baatarismの溜息通信このような日銀の頑なな姿勢があるため、日本においては、国債を発行せずに財政政策を行う最も現実的な方法が、政府紙幣の発行となるわけです。
調べてみた。
このグラフは、日銀のバランスシートの推移を、2000年1月から2009年1月まで追ってみたもの。元データは
- 営業毎旬報告:日本銀行
をスクレイプして取った。スクリプトは最後に。
- 作者: 藤巻健史
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これを見ると、量的緩和の時代がはっきり見て取れる。この時には当座預金残高がぐっと増えて、それに対応するように国債保有残高も増えている。なぜこういう動きになるかは、「藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」を読むとわかる。
実際には、マンデル・フレミングの法則を避けて財政政策をする方法として、この政府紙幣以外に、政府が発行した国債を日銀が買い入れて(これを国債引き受けと言います)、市場で流通する国債の量が増えないようにする方法もあります。日銀が直接政府から国債を買っても良いですし、政府が発行した国債と同じ量を日銀が市場から買っても良いです。
量的緩和の時代は、まさにこれをやっていた。
しかし、日銀はこの方法には否定的です。その理由は、戦前・戦時中に軍部が軍備拡張や戦争の費用を調達するため、日銀に大量の国債を引き受けさせて、その結果、戦後に大幅なインフレを招いたためです。日銀はこのことを二度と繰り返してはならないと思う余り、国債の買い入れには消極的なのです。
とはいっても見てのとおり日銀はピーク時で100兆円も国債を保有していて、今でも65兆円弱保有している。その割合バランスシートの54%にもなるのに、「原則禁止」なのだとしたら、一体原則とは一体なんなのだろうという気がする。
http://www.boj.or.jp/oshiete/op/06104001.htm
ただし、金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したものについては、「財政法」(第5条ただし書き)の規定に基づいて、国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借換えに応じています。
404 Blog Not Found:政府紙幣vs日本銀行券
あれ?「国会の議決」って書いてある。
だとしたら、なんで「ついこの間まで」やってた方法を捨ててまで政府紙幣なんて言うんだろ?「前例がない」とかならとにかく、見ての通り2006年度まではやってたわけですし。私にはリフレがいいか悪いかわからないけど、政府紙幣が不要なことは日銀自らが証明しているのは確かではないのだろうか。
もっとも、政府紙幣にしろ国債引き受けにしろ、今のままだと金が回るのは市中銀行までで、その先に行き渡るかがかなり疑問なのだけど。"Money as Debt"も指摘する通り、銀行以外の誰かが借りてくれないとお金も増えないのだし。
それにしても、お金はいつまで増やさないといけないのだろう....
日銀は量的緩和を実施した時代に国債を大量に買っていたではないかという指摘ですが、これについて調べてみるために、まず当時の国債残高と長期金利、円相場を見てみます。
まず国債残高ですが、2000年以降の普通国債を見ると次のようになります。(単位:億円、2007年、2008年は見込み値)*1
量的緩和が行われていた2001年から2005年にかけて、平均して約30兆円づつ国債残高が増えていますが、2006年以降は増加が抑えられています。
年 | 普通国債 |
---|---|
2000 | 3,675,547 |
2001 | 3,924,341 |
2002 | 4,210,991 |
2003 | 4,569,736 |
2004 | 4,990,137 |
2005 | 5,269,279 |
2006 | 5,317,015 |
2007 | 5,466,725 |
2008 | 5,533,118 |
次に長期金利を見ると、途中上がり下がりはありますが、国債残高が増えていた期間に大幅な金利上昇は見られません。*2
円相場を見ても、この期間を通じた大幅な円高は見られません。*3
ということは、Dan Kogai氏の指摘通り、量的緩和期間中の日銀による国債購入が、国債の大幅な発行にかかわらず、金利高や通貨高を抑える一因となっていたと考えて良いでしょう。
ただ、この日銀による国債買い取りは、僕が「日銀が直接政府から国債を買っても良いですし、政府が発行した国債と同じ量を日銀が市場から買っても良いです」と言ったときに念頭に置いた、政府による財政政策の赤字を日銀が通貨発行で補うというものではないと思います。量的緩和政策に伴う国債買い取りですから、量的緩和政策の目標である当座預金残高を達成するために、市中銀行から国債などの債権を買ってその代金を当座預金残高積み立てさせるという政策によって、ここまで日銀の国債保有残高が増えたと考えられるでしょう。
もちろんこのことが結果的に財政赤字を補うことになり、金利高や通貨高を抑える一因となったわけですが、それは当初の日銀の意図ではなく、一種の副作用だったと思います。ただ、このような日銀による結果的な財政赤字の補填が、金利高や通貨高を抑える事を通じて、景気回復の一つの要因となったことも事実なのでしょう。
しかし、2001年から2006年は概ね小泉内閣時代で、積極的な財政政策が行われなかったことは、考えておかなければならないと思います。それに対して今は積極的な財政政策が求められている状況ですから、日銀が再び量的緩和政策を開始して、当座預金残高を達成するために市中銀行から国債を買っても、それが膨れあがった財政赤字を補填する規模になるかどうかは分かりません。だから、財政赤字の補填を確実にして、金利高や通貨高を抑えようとするならば、Dan Kogaiさんも指摘している財政法第5条但し書きによって、国債の日銀引き受けをする方が良いと思います。僕も政府通貨よりはその方が良い政策だと思います。
あと、Dan Kogai氏は「もっとも、政府紙幣にしろ国債引き受けにしろ、今のままだと金が回るのは市中銀行までで、その先に行き渡るかがかなり疑問なのだけど。」と言ってますが、これについては政府紙幣や国債引き受けによって政府が得た貨幣を、財政政策で企業や家計に行き渡らせるという経路もあるでしょう。だからこそ、通常の金融政策が行き詰まった現在、政府紙幣が主張されているのでしょう。
ただ、Dan Kogaiさんが最後に言っている「それにしても、お金はいつまで増やさないといけないのだろう....」という思いは、僕も感じますね。貨幣の流通速度の増減というものは凄まじいもので、それを政府・中央銀行が補うのは大変なことです。