Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

麻生総理が鳩山大臣を切り捨てた理由は?

すでに皆さんもご存じの通り、「かんぽの宿」売却問題に始まった鳩山邦夫総務相日本郵政の対立は、鳩山大臣が辞任という形で事実上更迭され、日本郵政の西川社長が留任するという形で決着することになりました。
ただ麻生総理も元々は郵政民営化に反対で、鳩山大臣と考え方は同じだったようです。
さらに辞任後の世論調査では、鳩山大臣を支持する意見が多く、内閣支持率は低下してしまいました。ということは、辞任前から支持者の声や党独自の調査を通じて、鳩山大臣支持の声が多いことが自民党に伝えられていたと考えられます。
そんな状況だったのに、麻生総理が最終的に鳩山大臣を切ったのは何故なのでしょうか?マスコミでは、小泉元総理や竹中平蔵元大臣などの郵政民営化派が、日本郵政の指命委員会に西川社長続投を働きかけたという報道がされていますが、それにしたって「かんぽの宿」問題で批判された西川社長が続投するには、何らかの理由が必要でしょう。


この問題については、僕は郵政民営化の経緯にまで遡って考えてみる必要があると思います。*1
そもそもかつての郵政事業では、郵便貯金や簡易保険の多額の資金は財政投融資(財投)で運用され、それが特殊法人に流れていました。その見返りとして財投は市場よりも高い金利を支払っていて、それが郵政事業の収益源となっていました。そしてこの金利の上乗せ分は国民の税金から支払われていたので、結局郵政事業は国民の税金で維持されていたことになります。
しかし2001年の財投改革によってこの仕組みはなくなり、郵政事業は自ら資金運用を行って収益を得ることになりました。その結果、どうやれば郵政事業が自ら収益を得られるようになるのかという問題が浮上して、その解決策として小泉政権郵政民営化が行われたわけです。
そして小泉元総理や竹中元大臣だけではなく、麻生総理も当時総務大臣としてこの問題に関わっていました。麻生総理自身は郵政民営化には内心反対だったのでしょうが、郵政事業が自ら収益を得られるようにする必要性は理解していたでしょう。民営化しようがしまいが、国が郵政事業の利益補填を行うことはもはや困難ですから。


というわけで、郵政事業が自ら収益を得られるようにする、言い換えれば黒字を上げることは、民営であっても国営であっても、郵政事業を維持するための絶対条件であると考えられます。
そして、実は今の郵政事業は黒字のようです。現在が世界的な経済危機で、世界中の金融機関が赤字に転落して公的資金を仰いでいることを考えると、この数字はとんでもない好業績でしょう。

日本郵政:4社が最終黒字−−3月期


 日本郵政が22日発表した09年3月期連結決算は、売上高に当たる経常収益が19兆9617億円、経常利益が8305億円、最終(当期)利益が4227億円となった。07年10月の民営化後、通期決算を発表するのは今回が初めてで、傘下の4事業会社すべてが最終黒字を確保したが、かんぽ生命を除く3社は従来予想を下回った。西川善文社長は会見で、10年度にも予定される金融事業2社の上場のめどがたつまで、続投したいとの意向を示した。

 保有株式などの減損損失が発生したことが響き、最終利益は従来予想を下回った。最終利益の約6割を金融2社が稼ぎ出しており、郵便事業の収益向上が課題となっている。

 メガバンクが軒並み最終赤字に転落する中、ゆうちょ銀行は2293億円の最終黒字を確保。郵便事業会社は景気の落ち込みの影響で、郵便物取扱高が前期比3・5%減となり、最終黒字は従来予想(470億円)を下回る298億円だった。【工藤昭久】

http://mainichi.jp/select/biz/archive/news/2009/05/23/20090523ddm001020052000c.html



この実績が西川社長退陣論を封じてしまったのではないかと、僕は考えます。西川氏を辞めさせた場合、それに代わって郵政事業を黒字にする経営者を、誰も見つけることができなかったのでしょう。
鳩山大臣は小泉政権で重要な役職にいなかったため、郵政事業にとって黒字を維持することがいかに大事か、理解できていなかったのでしょうね。
そしてその点を理解していた麻生総理は、ぎりぎりのところで鳩山大臣よりも西川社長を選ばざるを得なかったのでしょう。


民主党は政権を取ったならば、西川社長を解任する方針を示しています。解任自体は「かんぽの宿」問題を重視するという意味で理解もできるのですが、民主党が郵政事業の黒字維持の重要性をどこまで理解しているかが気になります。
もし理解していないのであれば、民主党政権下で郵政事業は赤字に転落し、再び税金で補填される事態になってしまうのではないでしょうか?それでは郵政民営化どころか、財投改革以前に逆戻りすることになってしまいます。そんなことで良いのか、僕は非常に疑問なのですが。

*1:この先の話は、高橋洋一氏の考え方に依存しています。詳しくは「財投改革の経済学」などの彼の著書を参照してください。