Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

異論を無視する日本銀行

 友人からの特電で知った。白川総裁、上海で池田信夫と化す。


http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908a.htm

典型的な政策提言としては、「日本銀行が行うべきことは、高めの目標インフレ率を設定し、その目標を達成するため、実物資産を含めてあらゆる資産を購入することだけである」、「日本銀行財政赤字マネタイゼーションを行うべし」などがありました。中でも、最も有名な提言の1つは、「無責任な政策にクレディブルにコミットすべし」というものです3。興味深いことに、今回の危機では、急速な景気の落ち込みにもかかわらず、エコノミスト達からは、同様の大胆な政策提案は行われていませんし、そうした急進的な措置も実施されていません。初めて課題に直面すると、政策措置に関する議論は極端に振れがちです。そうした議論は、実際に危機への対応という課題に直面して初めて、真に地に足のついたものになるのだと思います。私は、かつてと現在のエコノミストの主張の変化をみるにつけ、人々が過去の経験から学びながら前進していく過程、つまり学習過程が確実に働いていることを感じます。我々にとって重要なことは、中央銀行としての基本的な責任を果たしていくことです。そのためには、今後とも、経済や金融の変化に対して常に謙虚さを保ちながら学習を重ね、経済のメカニズムやセントラル・バンキングに関する知恵を磨いていくことが、我々に課されている重要な課題であると考えています



こうまでひどいとは。ちなみに「そうした急進的な措置も実施されていません」というのは、日本銀行がそうならば、そりゃ、日銀総裁のあなたがやらなければ実施はされないでしょう 笑。

白川方明日本銀行総裁のインクレディブルに無責任な発言 - Economics Lovers Live



白川日銀総裁はこの上海での講演で、「興味深いことに、今回の危機では、急速な景気の落ち込みにもかかわらず、エコノミスト達からは、同様の大胆な政策提案は行われていませんし、そうした急進的な措置も実施されていません。」と言っていますが、田中秀臣氏はこの記事の後の部分で、クルーグマン、マンキュー、浜田宏一岩田規久男といった内外の経済学者が、最近でもこの「典型的な政策提言」に相当する発言をしていることを指摘しています。
世界的に有名な超一流の経済学者や、日本で長年日銀を批判してきた経済学者が行っている発言ですから、日銀がこれを知らないはずはないでしょう。ということは、意図的に無視していることになります。
これは、単に経済政策が間違っていることよりも恐ろしいことだと思います。


僕はかつての速水日銀総裁を批判する立場ですが、そんな速水時代の日銀にも一つだけ評価できることがあったと思います。それは執行部の見解に反した意見を表明し続けた中原伸之氏を、政策委員会審議委員として起用したことです。
中原氏は金融緩和に消極的で引き締めを行おうとした執行部の意見に反対し続けましたが、日銀がゼロ金利解除に失敗したときは逆に中原氏の主張が採用されて、ゼロ金利復帰や量的緩和が行われました。常に異論を唱える中原氏を内部に抱え込んでいたからこそ、このような方針転換が可能だったのだと思います。


このように、異論の存在を認めることは非常に重要なことです。誰しも自分が完全に正しいという保証などないのですから。


しかし、今回の白川総裁の発言から感じられるのは、自説に都合の良い学説や意見ばかりを採り上げて、都合の悪い異論は無視しようという態度です。日銀がこのような態度を続ければ、政策に失敗したことが明らかとなっても、速水時代のような方針転換はできず、間違った政策をいつまでも続けることになるでしょう。その先にあるのは日本経済の破滅でしょうね。


だから、今回の白川総裁の演説に対する批判は、単に日銀支持派vsリフレ派というような経済政策を巡る論争という側面だけではなく、異論の存在を認めるか否かという側面もあると思います。


かつて中川秀直氏が「日銀が「平成の関東軍」などといわれることのないことを期待する」と発言したことがありましたが、もし日銀が異論の存在を認めないのであれば、本当に昭和時代の旧日本軍のような存在になりかねないでしょう。そういう意味では、以前の日銀よりも今の方が、より「平成の関東軍」に近づいていると考えてしまうのは、僕の杞憂なのでしょうか?