Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

15×24=ネタバレ?

年末年始に『15×24』を全巻読み直していたのですが、最初発売の度に読んだときには気づかなかったことが色々ありました。
今回はそれについて書いてみようかと思うのですが、ネタバレの内容を含みますので、まだ読んでいない人が見なくても良いように、白字で書いておきます。
                                                                                              
                                                                                              
                                                                                              
                                                                                              
                                                                                              
                                                                                              
                                                                                              


この話は登場人物の一人である徳永準が自殺(正確にはネット心中)しようとしたのを偶然知った人達や、偶然その騒動に巻き込まれてしまった人達が捜索隊を結成して、徳永準を捜して自殺を阻止しようとするか、あるいは別の思惑を持って東京中を走り回り、いつしかそれが東京という街の底や闇でうごめいていた様々な勢力や埋もれていた話を巻き込んで大騒動になっていくという話です。
しかし、偶然出会った人達にも関わらず、登場人物の間には最初から様々な隠された繋がりがあって、話が進んで行くにつれてそれが登場人物達の行動を邪魔していきます。彼らはそれに翻弄されつつもなんとか前に進もうとするというのが、話の大きな流れでしょう。
そのような繋がりの中には話の伏線となっているものもありますが、小説の話とはあまり関係がなく、最後まで回収されないものも少なくありません。また、これらの繋がりは階層構造となっていて、捜索隊のメンバーや心中の当事者の人間関係や、東京周辺に割拠している自警団兼暴走族集団の対立、大きな秘密が隠された「ミスタ・ピンクのケータイ」を取り戻そうとする人身売買組織の脅威、さらには様々な人物がほのめかす伝奇的なレベルの話に至るまで、いくつもの階層で様々な人間関係の繋がりが存在していて、登場人物達は自殺阻止(あるいは自分の思惑)のために行動しているうちに、その繋がりに絡め取られていきます。
このような繋がりは、mixiのマイミクやtwitterのフォローの関係を思わせます。繋がりを辿っていくうちに、2〜3段階で思わぬ繋がりを見つけてしまう感じですね。この小説の世界はスモール・ワールド・ネットワークになっているのでしょう。だから過剰なほどに繋がりが見つかるのでしょうね。また、この小説ではケータイが非常に重要な小道具になっていますが、ケータイはどんどん繋がりを作り出し、スモール・ワールド・ネットワークを強化するアイテムとして位置づけられているのでしょう。
この小説のエピローグには、こんな言葉があります。「わたしたちは、あらゆるところで繋がっている。たくさんの、たくさんの環になって、不思議な紋様を描いている。あの巨大な《紋様》に。」話の中では、この《紋様》は、人身売買組織の存在を探り出そうとしていた刑事が、様々な事件の中から長年の調査の末に見いだしたものとされていますが、このエピローグではさらに大きく、あらゆる人達が作り出す繋がりのネットワークとして表現されてるように思います。東京の街の表面から底まで広がるこの《紋様》こそが、この小説の本当の舞台なのでしょうね。


作者によればこの話は「死についての物語」だそうですが、ここでの「死」というのはそのような繋がりから抜け出すための方法であり、逆に繋がりにがんじがらめにされつつもその中であがき続けることが「生」であると表現されているように思います。最後に自殺のための《最良の方法》として現れるのが『黒い船』というのも、この世界から抜け出すという意味なのでしょう。


というわけで、今回は『15×24』を一通り読んでみて感じたことをまとめてみました。何はともあれ傑作であることは間違いないと思いますので、普段ライトノベルなんてと思っている方も、読んでみることをお勧めします。