財投復活?
今年もエイプリルフール記事を書こうかなと思っていたのですが、どうも現実の方が嘘を上回ってしまったようで、書く気がなくなってしまいました。w
政府が検討しているゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の資金運用改革案が30日、明らかになった。
国債に集中する日本郵政グループの資金運用を見直し、海外の社会基盤整備や国内の公共施設建設などに投融資して収益拡大を図ることが柱だ。しかし、豊富な郵政マネーを政府系金融機関を通じて公共事業などに使う非効率な資金の流れになりかねず、かつての財政投融資を連想させる内容となっている。
改革案は、原口総務相が同日開かれた郵政改革に関する閣僚懇談会に提示した。ゆうちょ銀、かんぽ生命の限度額引き上げで資金がさらに肥大化するため、国債に依存しない運用の方向性を打ち出すことが狙いだ。具体的には、〈1〉鉄道、道路、水道など海外のインフラ整備事業への投資や進出する日本企業への融資〈2〉橋や学校、病院など国内公共施設の整備・再開発への投融資〈3〉外国債券の購入〈4〉個人・住宅ローンなど個人向け融資――などを提案した。
基本方針として「安全性と健全性の維持」を掲げるものの、審査能力が疑問視される日本郵政が高リスク事業に単独で乗り出すことは難しく、政府系金融機関などとの連携が不可欠とみられる。その場合は入り口から出口まで公的金融の存在感が高まるだけに「財投復活」との批判も予想される。
財投復活か…郵政資金・運用改革案 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
今年は四月馬鹿が二日前倒しに来たのだったらよかったのにと思った。亀井静香金融・郵政担当相(国民新党代表)の改革案が3月30日に民主党閣僚懇談会で決まったからだ。
ネットでよく言う、「日本終了」というギャグが浮かんだ。ツイッターを覗いてみると多少憤慨している人もいるが、東京都の有害図書規制ほどの話題にもなっていないようで、それほどの危機感をもって受け取られてもいない。ああ、終わりの風景の始まりってこんな静かなものかなと落胆したが、憤慨してもどうとなるものでもないだろう。
私がひどい話だなと思ったのは、菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相が鳩山首相一任したことのほうだ。鳩山首相についてはもう是非も問うまい。お母様に略奪婚の尻ぬぐいをしてしまう人を国の長につけてしまうのはまずかったなというくらいだろうか。しかし、菅氏や仙石氏はもう少し大人だろうと思っていた。あるいは大人過ぎて記憶力もなくなってしまったのかもしれない。政党というものの一貫性も考えられないものなのか。この二人が黙り込めば、騒げる小者もいないだろう。民主党は結果的に政策を議論する能力がゼロになった。
改革案とやらの内容だが、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額を現行の倍の2000万円に引き上げることが着目されている。これで地方銀行はだいぶ整理されるだろう。彼らにしてみれば「万策つきた」(参照)というところだ。
1000万円以上の預金はペイオフ対象にならないとしても、事実上国家運営の銀行なのだから倒産はありえず、暗黙の保証が付く。地銀のかなう相手ではない。こういうのを英語で"It's unfair. "という。国家がunfairなら普通は国民の大半からの信頼は失うはずだ。そうして社会主義国家の多くは終了したが、アジアのほうでは残った。アジアにある日本も終了しないかもしれないが、終了できない隣国のような国家になるのだろう。
改革には、かんぽ生命保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることも決まった。2005年の民主党案では簡保は廃止とされていたことを思うと隔世の感があるが、それを言うなら今回の発表をした大塚耕平内閣府副大臣も当時はこう言っていたものだった(参照)。「官から民へ」の郵政改革の目的を達成するためには、預け入れ限度額を引き下げ、そもそも国民から集めるお金の量を減らしてしまえば、政府にたくさん渡そうと思っても渡せません。
公社であれ、国有株式会社であれ、そこに集まるお金が増えれば、政府に渡るお金の量も増えざるを得ません。言わば、「官から民へ」の逆、つまり「民から官へ」の万有引力の法則です。
想像力をたくましくして考えて頂ければ幸いです。引力圏から離脱する時には、強力な力が必要です。強制的に規模を縮小することこそが、「民から官へ」の引力圏から離脱するパワーです。それが、預け入れ限度額の引き下げにほかなりません。
国有株式会社をつくるという不思議な「民営化」で、あとは「政府出資の特殊会社」の自主性に任せるという万有引力任せの改革では、ますます多くの国民のお金(リンゴの実)が核(政府)に引き付けられます。その通りのことがこれから起きるようになるだろう。
四月馬鹿が二日前倒しだったらよかったのに: 極東ブログ
亀井氏が連立政権に加わった時点で郵政民営化のストップは間違いないと思っていたのですが、財投改革のキャンセルや、郵貯、簡保の限度額引き受けで地方金融機関の行く末が危ぶまれる事態になるとまでは予想していませんでした。
民営化の中止で運用改善による収益も期待できず、政府系金融機関を通じて公共事業などに使う非効率な融資を復活させ、限度額引き上げでさらに多くの資金を集めて(つまりそれに見合う収益が上がる融資先が必要になる)、どうやって郵政事業の採算を取るつもりなのでしょうか?
財投改革前の郵貯や簡保が国債よりも有利な利回りを確保するために、財投経由で税金から金利の割り増し(0.2%)という「ミルク補給」を受けていたことは、高橋洋一氏が「財投改革の経済学」でかつて明らかにしたことですが、まさかこのような仕組みを復活させて、また隠れた税金投入に道を開くのでしょうか?
それが無理なら、やがて郵政事業はかつての国鉄のように膨大な借金を抱えて、少なくとも兆円単位の税金を破綻処理につぎ込むことになるのでしょう。高橋洋一氏は民営化中止による国民負担を毎年1兆円と見積もってます。 *1
では、当時の政府のシミュレーションはどうだったのか。それは民営化を「数値化」して示したものだ。実は、その作成に私自身がかかわった。
民営化とは、株式の民間所有、民間人による経営ということだ。政府の出資がなければ、民間とイコールフッティング(競争条件平等化)になり、民間と同じ業務が可能になる。この点は、貯金や保険といった金融業務ではきわめて重要な問題だ。
金融はリスクを引き受けて収益をあげる。そこで政府からの出資があって、政府が後ろ盾になれば、民間金融と対等ではない。条件が違うのだから、民間とは競争できない。
だから政府出資があるうちは業務に制限が必要になる。ゆうちょなどの限度額の引き上げについて、民間金融機関から反対の声があるのは当然である。ヘタをすると、WTO(世界貿易機関)などで不公正取引として批判されるかもしれない。
一方、これを株主である国民側からみれば、金融業務というリスクの対価で収益を得る性格上、業務の失敗で国民負担になったら困るので、あらかじめリスクを抑えるよう業務に制限を課すということになる。
郵政が民営化すれば、こうした業務の制限がなくなる。シミュレーションの結果、年間1兆円の収益が可能になる。これが民営化を数値化したという意味だ。もちろん民営化したからといって収益を確実に保証するものではないが、民間経営者による平均的な経営であれば、その可能性は高い。
逆にいえば、今の政府が考えているように政府出資を残せば、業務の制約が残らざるをえず、収益はおのずと限界が出てしまう。こうなると結局、郵政職員20万人以上を食わすためには、民営化しないときと比較して最大年間1兆円の国民負担(逸失利益)が避けられなくなる。
「郵政改悪法案」で 国民負担は1兆円増える シミュレーションもしない無責任な郵政改革法案 | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]
どうやら今回の「郵政改革」は、鳩山政権最大の無駄になることは間違いないようです。これこそ「事業仕分け」の必要があると思うのですが。w
*1:ちなみに高橋氏が指摘していたWTOの問題は、アメリカやEUも指摘してますね。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100402-00000011-jij-pol