書評「震災恐慌!〜経済無策で恐慌がくる!」
- 作者: 田中秀臣,上念司
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2011/05/20
- メディア: 単行本
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東日本大震災の後、復興をテーマに多くの本が出版されました。この本もその一つなのですが、この本のタイトルや表紙を見た人の中には、世の中の不安を煽って売り上げを伸ばそうというトンデモ本ではないかと、疑う人がいるかもしれません。
もし、その通りならば、どれほど良かったでしょうか。もし、この本を笑い飛ばしてトンデモ本大賞でも与えられるのなら、僕もそうしたかったです。
しかし、実際に本を読んでみれば、そんな内容ではないことが分かるでしょう。著者は過去に発生した関東大震災と阪神・淡路大震災の後の歴史を調べ、どちらも震災後に恐慌や大不況が発生していることを指摘します。関東大震災(1923年)の後には昭和金融恐慌(1927年)と昭和恐慌(1930年)、阪神・淡路大震災(1995年)の後には1997年の消費税増税をきっかけとした1990年代末〜2000年代初頭の大不況が発生しています。
そして、その背景には震災復興予算の不足、震災後の増税と金融引き締めがあると、この本では指摘しています。
それを踏まえて、この本では最後に、復興のためにやってはならない3つの「べからず集」を上げています。
べからず集その1. 増税
べからず集その2. 金融引き締め
べからず集その3. 復興資金の逐次投入
ところが、震災から4ヶ月半が経ってみると、このうち復興資金の逐次投入は見事に実現されてしまいました。補正予算は第一次、第二次とも小規模で、合わせても6兆円程度です。復興に必要とされる20兆円規模の予算には全然及びません。本格的な補正予算となる第三次補正は、震災から半年以上後になりそうです。
また、報道でも分かるように、今の政権は復興だけではなく社会保障やB型肝炎患者への補償まで増税で賄おうとしており、今の菅政権のままでは大増税は間違いないでしょう。政権交代後も、後継者が財務省の影響を受けた増税政権となる可能性が十分にあります。
また、日銀は金融引き締めまでは行っていませんが、バランスシートは5月の段階で震災前とほぼ同じ水準に戻ってしまい、その後も増えていないので、金融緩和は行っていません。*1復興国債の引き受けにも否定的ですし、国債買いオペを増やそうという姿勢もありません。また、既発債の償還についても、償還額30兆円に対して借り換えの国債引き受けを12兆円しか行わないので、ここだけで18兆円分の金融引き締め効果が出てしまいます。
従って、日銀は今後も金融緩和を行おうという意図はないでしょう。現在、発生している円高も、このような金融緩和に否定的、つまり円の量を増やそうとしない日銀の姿勢を見越して、投機筋が安心して円を買っているためだと思います。
というわけで、このべからず集のうち2つ半は実現しつつあると言えるでしょう。これでは震災後の不況は確実に発生すると思います。エコノミストの中には震災後の復興需要を見込んだ景気回復に期待する声もありますが、そのような復興需要は不十分なものに終わってしまうのではないでしょうか?
そして、この本の著者達が指摘するように、「穏やかな震災恐慌がずっと続いていく」のでしょう。政府や日銀の政策転換がない限りは。
そのような未来の日本で、失業と貧困に最も苦しむのは、震災と原発事故で生活基盤を破壊された被災者と被災地なのでしょう。
日本の未来をそうしないためには何が必要なのか知るためにも、この本を読むことをお勧めします。
(補足)
この本については、次の記事や書評も参考になると思います。
- SYNODOS JOURNAL : このあと日本経済に何が起きるのか?誰も語らない、震災恐慌の怖さ 田中秀臣、上念司
- 大震災の経済学を展望する――復興のための論点は何か:経済学者 田中秀臣氏論考 『震災恐慌! 経済無策で恐慌がくる!』共著 田中秀臣氏:ソフトバンク ビジネス+IT
- [書評]震災恐慌!〜経済無策で恐慌がくる!(田中秀臣・上念司): 極東ブログ
- SYNODOS JOURNAL : 【書評】『震災恐慌!−経済無策で恐慌が来る!』(田中秀臣・上念司) 片岡剛士
*1:著者の一人である田中秀臣氏がブログでデータを出しています。 http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20110507#p2