Baatarismの溜息通信

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「増税なくして復興なし」だった財務省と野田政権

 東日本大震災の復興費用のための臨時増税を盛り込んだ復興財源確保法など復興関連法は30日の参院本会議で、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。野田政権は復興財源に一定のめどをつけ、今後は消費増税社会保障の一体改革に正面から取り組む方針だ。

 政府が想定する当初5年間の復興費19兆円のうち、今年度第1、2次補正予算では6兆円を計上。この日の財源確保法の成立により、残り13兆円分と、1次補正で流用した年金財源2.5兆円の穴埋め分の計15.5兆円を確保する。

 このうち10.5兆円は臨時増税でまかなう。2013年1月から所得税額の2.1%上乗せを25年間続けて7.5兆円を捻出するほか、14年6月から10年間にわたる住民税の年1千円上乗せで0.6兆円、来年4月から予定していた法人減税を3年間凍結して2.4兆円を調達する。


asahi.com(朝日新聞社):復興財源法が成立 臨時増税で10兆円を確保 - 政治 asahi.com(朝日新聞社):復興財源法が成立 臨時増税で10兆円を確保 - 政治 asahi.com(朝日新聞社):復興財源法が成立 臨時増税で10兆円を確保 - 政治



このブログでも復興増税についてはたびたび批判してきましたが、世間がTPPや橋下氏の大阪ダブル選挙の話で盛り上がっている裏で、残念ながらあっさり増税が決まってしまいました。
今回の増税規模は約10兆円ですが、5月の記事でも述べたように、この程度の金額なら国債整理基金などの埋蔵金や、日銀による国債引き受けで十分対応できました。また、普通に国債を発行しても、今年度の国債発行規模が40兆円から50兆円に増えるだけなので、その程度で急に財政が破綻するはずもなかったでしょう。

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さらに問題なのは、増税にこだわったせいで本格的な復興予算の時期が大幅に遅れてしまったことです。第三次補正予算が成立したのは11月21日ですから、大震災の発生から7ヶ月以上が過ぎてしまっています。阪神・淡路大震災では震災発生が1月で、2月と5月に補正予算が成立していますから*1、今回は明らかにスピードが遅いです。これだけ復興予算が遅れてしまったことで、被災地や被災者のダメージはさらに大きくなったでしょう。


ここまで復興予算が遅れてしまった理由として、菅総理の辞任の際のゴタゴタを上げる人も多いでしょう。ただ、菅総理も復興そのものに反対するはずはないですから、これは理由とは言えないと思います。
ここで、菅政権の総務相だった片山善博氏が興味深い証言をしています。*2これによると、復興予算が遅れた真の理由は、財務省が復興予算と増税を抱き合わせにすることに固執したからだということです。片山氏の言葉を借りれば、財務省は復興を増税の人質にしたわけです。

今朝(10月25日)の朝日新聞17面「政治時評2011」に、菅内閣片山善博総務相民主党政権野田首相を総括!


「この国会の争点である第3次補正予算案なんて4月にでもつくるべきだったのです。早く決めましょうと私は言い続けましたが、財務省が震災を機に増税することにこだわり、進めませんでした。復興事業はお金のあるなしで左右される代物ではない。国債を使って1日も早く補正予算を組まないといけないのに、復興のためなら国民も増税に応じるはずと、復興を人質にしたのです。

「多くの与党議員が財務省にマインドコントロールされているとしか思えなかった。メディアも同じです。・・・異様です。世の中がそれを異様だと言わないところがまた、異様だと思います。」

赤字国債を年40数兆円出しているのに、財務省はその返済財源について口にしない。ところが、復興予算とB型肝炎の関連予算には執拗に財源をもとめる。異様です。閣議などで私がそう指摘すると、「財源なしに予算を組むのは無責任だ」と主張したのが、当時の野田財務相と与謝野経済財政相でした。財務官僚の論理を野田さんが代弁し、与謝野さんが補強し、菅首相までもがのんでしまった。」

復興の遅れを、菅さんの6月2日の辞意表明のせいにする人がいますが、それは的外れです。真の原因は、財務省のヘンテコな論理を菅さんがとがめなかったところにある。その意味では、菅首相は判断を誤ったと言えるでしょう。」


片山善博前総務相の民主党政権・野田首相総括:「2まんにん2222復興を(増税の)人質にしたのです」|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba 片山善博前総務相の民主党政権・野田首相総括:「復興を(増税の)人質にしたのです」|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba 片山善博前総務相の民主党政権・野田首相総括:「復興を(増税の)人質にしたのです」|中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba


考えてみれば、震災直後に自民党の谷垣総裁が増税を主張し、その後も復興構想会議が作られた途端、五百籏頭真議長が増税を主張しました。*3その復興構想会議の事務局は財務官僚が押さえていました。そのような露骨な動きに対して、民主総裁選では反増税の候補も出ましたが、結局増税派の野田氏が総理になり、その後は財務省の言いなりになって復興増税や消費税増税といった増税路線を押し進めています。そして、野田政権で増税が決まってから、ようやく本格的な復興予算が作られた訳です。


このような経緯を考えてみると「増税なくして復興なし」が財務省の本音であったと言えるでしょう。2万人近くが犠牲となり、今なお震災の被害や原発事故の放射能で数百万人の人が苦しんでいる大災害を、財務省増税のダシに利用したわけです。
このように国民の利益を全く考えず、増税という自らの論理や利権だけを考えている冷酷な役所が、我が国の財務省です。そして、その財務省の傀儡として操られているのが、現在の野田政権です。

*1:http://www.taro.org/2011/03/post-942.php」より

*2:この証言は朝日新聞に掲載されたものですが、ネットでは有料版にしか掲載されていないようなので、それを引用した自民党中川秀直衆院議員のブログから転載します。

*3:ところで復興構想会議の提言は、増税以外で何か生かされたのでしょうか?もし何もないのなら、この復興構想会議も復興を遅らせるだけの障害物に過ぎなかったことになります。